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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
3章【戸惑う心、光の剣~the puzzled heart/sword of light~】
22/44

21『意識なんてしてない……』

「ほら、面白かったでしょ?」

「何でお前が誇るかは分からんが、確かに面白かったな」


 正直、楓の両腕が光るのを目撃してからはそっちに意識が持っていかれて、映画どころじゃなかった。あの奇妙な文字列が、また現れるんじゃないかと見張っていたが、結局最後まで現れずに見張り損。映画の見せ場も見逃すし、疑問は深まるばかり。

 カップルシートのお陰で浮いた金で、パンフレットを購入した楓を引き連れて、納得のいかないまま映画館を後にする。

 時間も良い頃合なので、昼食を食べる為に立ち寄った喫茶店。オープンテラスを案内されたまでは良いが、そこから楓の熱弁が始まった。人は好きな事を話すとなると饒舌になると言うが、正にこの事。


「朝にやってるやつだと迫力に欠けるけど、やっぱり映画だと違うわね!」


 瞳を輝かせ、特撮を熱く語る金髪。お前が注文したメロンソーダの氷が、コースターの上で大半溶け切ってるんだが、助言するか否か。今の調子だと、楓が語り終えた頃には氷が全て溶けて、飲む気が失せる程薄まっている事は間違いない。

 いや、楽しく話している楓を邪魔するのも野暮か。後悔しながら飲んで貰おう。

 料理が来るまでの繋ぎで頼んでおいたコーヒーに口を付けると、こちらは冷めつつある。冷めるだけだから、と安心出来ないのがコーヒーって物だ。冷めると大体の安物は不味くなるんだよな。


「灯火も来れたら良かったのに……」


 語り続けていた途中で、楓が言葉を区切り、残念そうに口にする。

 確か朝聞いた話だと、灯火は学園で用事があったんだよな。委員長でもあるまいに、休日までご苦労な事だ。

 分からない程度に諭して、楓にお土産を持たせるのも良いだろう。もし、あの購入した映画のパンフレットが灯火へのお土産だとするならば、灯火が不憫過ぎる。俺が灯火の立場でパンフレットをお土産に貰ったら、間違いなく枯れるまで涙を流す。


「まぁ、帰ったら感想を伝えたら良いさ。それに、また別のも観に来るんだろ?」

「決まってるじゃない。実は来月に違うやつが上映するのよね。これは宇宙から来た巨人が怪獣相手に戦うやつなんだけど――」


 俺に楓の事を頼んでいる最中、灯火は行けない事を本当に残念がっていた。だったら、少しでも灯火の代わりに、こいつを楽しませてやろう。たまの休日だ。全てを忘れてノンビリ過ごすのも悪くない。

 そして金髪、お前あの映画の主人公の蹴りを模倣してたよな。今度は腕から光の光線とか出したりしないか本気で心配だ。両腕から光を発してたお前なら冗談抜きでやりかねない。


「それでこの5人で協力して相手を――ちょっとレッヂ、聞いてるの!?」


 何時の間にか話題が特撮戦隊物へ移っている。このまま語り続けさせたら夜まで続きそうだ。

 頭を抱えそうになりながら、灯火はいつもこんなのを相手にしてるのか、と同情の念を覚えた。灯火には胃炎から離れた健やかな老後を送って欲しい。



 【小波 楓SIDE】

「半分払うって言ったのに……何で払うのよ」


 昼食を済ませた後、少しの間化粧室に行っていたら、会計を済ませたレッヂが喫茶店の出口で手を振っていた。割り勘だと決めて、払う金額まで計算しておいたのに。

 半分は払うと意固地になりつつ食い付いても、「こういう時には男に見栄を張らせるもんだ」の一点張り。石で固められたかのような頑固さに、遂には白旗。どうあっても譲る気はないらしい。

 でも、やっぱり納得いかない。強引にでもお金を受け取って貰って――、と考えていた時に、前を先導するレッヂの背中を眺めて、ある出来事が思い起こされる。


(も、ももももしかして、レッヂは……デートって思ってるの……?)


 随分前に、灯火が他の生徒から押し付けられた女性雑誌を、2人で読み耽った事がある。デートの事やその時の服装、相手の行動。女子なら絶対に、一度は興味を持つ内容が所狭しと綴られていた。その中に書かれていた一行の文。

 男性は異性へのアプローチの際に、奢りを提示する事が多い。女性から見たら何気ない外出でも、男性の方はデートと決め付けている場合が多い。


(ち、ちち違うの!あたしは灯火と映画に行くつもりで!でも灯火が行けないから、レッヂに付いて来て貰って……付き添いなのよ!デートじゃないデートじゃない……ッ)


 熱くなり掛けた頬を両手で押さえて、首を何度も横に振る。こうでもしないと、予想外な事態過ぎて、発火しそうな程恥ずかしい。

 自慢出来る事じゃ無いけど、あたし、小波 楓は生まれてこの方、デートなんて物をした事がない。体を鍛えて、神葬具に慣れる訓練をする毎日。娯楽も殆ど無いに等しい日々で、自分がこんな状況にいる事さえ信じられない。

 きっと今まで普段通りでいられたのは、映画に気が逸れていたのと、異常事態過ぎて事態の重さに気付いてなかったから。


「ん?どうかしたか金髪」

「な、ななななんでもないない!気にしないで先に行って!」


 絶対に赤くなっているだろう顔を見られるのが嫌で、振り返ろうとしたレッヂの背中を強く押す。

 不自然かどうとか関係ない。今こいつに顔を見たら、比喩抜きに逃げ出してしまいそうだ。それこそ、神葬具を装着して周囲の人を薙ぎ倒しながら。

 もう映画を観て昼食を終え、帰路に就くだけだが、駅前まで正気を保ってられるかも定かではない。


「見られてると……変になりそう……」



 【野々宮 灯火SIDE】

「楓……楽しんでると良いな」


 休日の教室。教師から頼まれた資料を片付けている最中、ふと、送り出した友達の顔が思い浮かんだ。

 僕自身、男の人と2人っきりなんて状況は、天人に襲撃される前の、あの夜が初めてだった。楓の寝相で目が覚めてしまい、深夜に寮のロビーに行くと白がいて。変な勢いで散歩に誘っちゃって……今思い出しても自分の大胆さに頬が熱くなるのを感じる。

 あんなに短い時間でも、恥ずかしさで胸が苦しくなったのに、今の楓の状況だと尚更だ。

 出掛ける時は緊張感なんて微塵も感じさせなかったけど、楓って妙な所で鈍感だし。


「後々緊張し出すんだよね、楓って」


 やり始めは顧みずに何にでも特攻するが、改めて根本が分かると慌て出す。友人の短所の1つである。

 きっと楓は、少し時間が経った後、初めて自分が男の人とデートをしていると気付くんだろう。映画館だと映画に夢中で、そんな事気にも留めないと思うけど。1つの事に集中し出した時の楓の集中力は、目を見張る物があるし。

 映画を観た後は、真っ直ぐ帰って来るのかな。楓は、映画の感想を、目を輝かせながら教えてくれるに違いない。


「……なんでだろう、胸が苦しい……」


 楓と白が並んで歩いている場面を思い描いて、不意に心臓の辺りが小さく疼く。

 白との散歩を呼び起している時のような甘い痛みじゃなくて、胸が締め付けられる感じの、息苦しい窮屈さ。喉が渇いて、手元に置いておいたペットボトルのお茶を手に取る。

 応援しなきゃ、友達が頑張ってるんだから。この胸の苦しさは、作業が長引いているからだ。

 お茶を無理に喉へ流し込むと、自分に言い聞かせながらペンを掴む。早く終わらせて、楓が帰って来たら笑顔で出迎えよう。大丈夫、きっと、楓が帰ってくる頃には笑顔でいられる筈だから。



 ◆ ◆

 何故か俯きつつ俺の後ろを歩き続ける楓。

 どうせもう駅まで行って帰るだけだし、隣にいてくれた方が色々と都合が良いんだが。楓と話そうと振り向こうとすると、背中を叩いて制止して来る始末。これじゃ灯火への土産の相談すら切り出せない。本気で土産がパンフレットになるぞ。

 それでは余りに灯火が哀れなので、怒鳴られる覚悟で振り向くと、肝心の金髪が失踪。


「おい待て、迷子の達人か」


 予想以上の失踪具合に、自分でも訳の分からない言葉が誕生した。

 このまま見失ったら洒落にならん、と辺りを見渡すと、道一本隔てた向こう側に、目立つ金髪が揺れていた。人混みに紛れても、バカみたいに自己主張する髪は看板のよう。今回は本気でアイツの金髪に感謝しなくては。

 子供でも親から離れる時は一言残すぞ、と呆れてると、横断歩道の前で運悪く信号が赤に変わる。立ち往生。

 目を凝らして人混みの隙間から楓を見ると、屈んで姿勢を低くした金髪の前に、涙目の幼女の姿。


「そっか、ママとはぐれちゃったんだ」


 普段とは違い、優しい顔を浮かべながら子供の頭を撫でる楓に、怒る気力が失せてしまう。でも、せめて一言は残して行け。お前もその子と同じ状況になり掛けてるぞ。

 信号が青に変わり、迷子と思われる子供をあやす楓に、歩み寄りながら遠くから声を掛けようとする。


「おーい、かえ……で」


 子供を慰める楓。その後ろの空間が、――――波打つ水面のように激しく歪む。

 目を見開いた。何度も見た光景だ。そう、何度も何度も。あれを見る度に人が死に、鮮血で場が赤く彩られる。

 歪んだ景色を食すかのように取り込み、突如出現する紫に発光する文字の陣。楓の後ろだけではなく、其処彼処に、同じ円陣が、目視できる限りで4つ出現。魔法陣と言っても過言ではない禍々しさに、周囲の人々が悲鳴を上げる。そこからはもう、見るに耐えない大騒ぎだ。


「楓ッ!そこから離れろ!」


 予想してなかった訳じゃない。でもまさか、こんな高頻度で近辺に出現陣が現れるとは。しかも、狙っていたかのように分断されている最中で。

 出現陣から必死で遠ざかろうと押し寄せる人波を、強引に掻き分けながら楓に向かって叫ぶ。

 しかし、目に映ったのは逃げようとする姿ではなく、呆然と立ち尽くす楓の姿。何故か共にいた迷子の姿が見当たらない。背後の円陣から現れているのは、楓の背中を狙っているであろう槍の穂先。


「かえでぇえええええええええッ!!!!」

前投稿した21話の改正版です。

変に長かったので取り置いておいたこちらを採用。

エリーゼと舞佳が消えたのは残念ですが、また次回にでも出せると思うので、

その辺は大丈夫かな・・・と。

他にも改変している話があるので、暇があれば読み返して頂けると幸いです。

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