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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
2章【絶対零度蒼炎の担い手~the blue flame performer~】
18/44

17『彼女宣言&嫁宣言』

「これ、白には知らせておく。出来れば、神葬具使いとしての考えを聞かせて欲しい」


 そう言われ黒羽から渡された一枚の用紙。

 対天人育成用教育学科明星学園死亡届。受け取った瞬間に、あぁこれかと冷静に感じた俺は、人として何所か麻痺し始めてるんだろう。

 用紙の名の通り、国へ提出する学園生の死亡届。アメリカの軍隊で、同じように名前が連なった紙を何度も拝見していたこともあり、動揺も湧かない。ただ、面識の無い人物の名前が無機質に並んでいる。

 全員で20人以上は逝ってるか。無理も無い。夜間に突然の襲撃、しかも中位のおまけつき。死者が出てなかったら奇跡としか言いようが無い。実際、エリーゼがいなかったら被害は倍増しだったろうし。


「死亡届ですの?」


 隣を並んで歩いていたエリーゼが、興味無さ気に言う。

 俺もこいつも、人の死を知り過ぎた。普通なら悔やんで復讐なんて物を誓ったりするんだろうが、仲間が目の前で何度も死ぬと、そんな感覚も薄れる。アメリカみたいに高頻度で出現陣が現れる地域なんて特にだ。神葬具使いの死体が山になる勢い。


「ここの生徒は警戒心に欠けているようですし、20だったら軽い方ですわね」

「人の命を軽いとか言うな」


 ケルビンがいない箇所の頭を軽く小突くと、エリーゼが口を閉じる。流石に言い過ぎだと自覚したんだろう。良い傾向だ。俺と出会った当時のエリーゼは、極道も尻尾巻いて逃げ出すような問題児で、味方まで凍らせかねない性格だったし。これでも随分と丸くなった。


『ですが、お嬢様の言う事も一理あるでござるよ。陣形も直ぐ作れず、個人個人で戦う生徒が目立っていたでござる』


 灯火とやってみせた『pursuit』という陣形。その他にもあるが、天人との戦闘時は通常、陣形を作り堅実に戦うのが基本。味方同士で守り合い、可能な限り陣形を崩さず戦闘を続けるのが最優先なのだが――、その基礎を教わってない点からして、ここの生徒は危機感が薄い。

 楓を筆頭に、仇を目前にして頭に血が上り突進する奴。きっと死亡届の大半がこの性質だろう。

 まだ実習やダンジョン授業を受けていないから学園の訓練方針はわからないが、アメリカとは随分違いを感じる。向こうは血反吐を吐くまでって言葉が適合するからな。他の国に比べて天人の襲撃頻度が低いのも相まって、日本自体の危機感が引き下がっているんだろう。

 死亡届の紙を仕舞い込むと、違和感無く後ろを付いて来ているエリーゼの肩を掴む。


「あぁ白様……こんな廊下でなんて」

 端整な顔立ちの頬を紅く染めるエリーゼ。それに微笑みで返すと、人差し指で天井を示す。

「お前2年だろ。教室は一個上の階だ」


 俺は記憶喪失だから実年齢は不明だが、エリーゼは列記とした17歳。舞佳と同じ学年だ。俺自身、こいつよりも年下というのが信じられないが、書類上の事実なんだから仕方ない。これで記憶戻って20歳辺りだったら真剣に人生を考える所だ。

 予想通りに俺の言うことを聞かず、エリーゼは首を横に振る。


「白様、わたくしと白様の絆は一生。故に学年なんて物では引き離せないのですわ」


 年齢超えるレベルの絆って悪魔の楔並みだな。

 その絆のお陰で、アメリカの死の防衛線と呼ばれる場所にまでこいつが付いて来た時は本気で頭を抱えたぞ。結局、2人で大暴れして無事に帰還したが、アメリカの重要戦力のエリーゼが戦死とか洒落にならなくて肝を冷やした。傷だけでも大統領から苦情が殺到するレベルだろう。


『お嬢様、白様の仰る通り、ここは引き下がることも大切でござる』

「うるさいですわよ、わんこ」


 飼い主に注意しようとした子狼が、犬呼ばわりされて主の腕の中で、『しくしくしく…』静かに涙を流す。涙脆くなったと言うより打たれ弱くなったの方が適切か。頑張れ、ハスキーもどき。


 まぁ、この2体……蒼い炎が灯っている点から推測可能だとは思うが、ケルビン、ダイゴロウ共にエリーゼの神葬具から創り出された生き物で、主の命令には絶対服従。だが正直、両方育て方が極端だ。ケルビンは寝てばかりの舌足らず能天気。ダイゴロウは主人の間違いにも注意出来る生真面目な侍口調。

 こう言っては何だが、普通の従者はいないのか。

 従者といえば忠実なゴーレムとかが真っ先に候補に挙がる俺は、そう思う訳だ。


 爆睡中のケルビンを落としかけながら、エリーゼは"蒼炎の神葬具"の影響で青く染まった両目で俺を射抜かんばかりに見詰めている。外見にコロッと騙されたら一瞬で人生終了だ。


「何がいけませんの?わたくし、白様の為なら何でも直しますわ」

「強いて言うなら年齢だな、神に言え」


 こいつは俺と離れるだけなのに表現が過剰。アメリカにいた頃も結構面倒な性格だったが輪に掛けて悪化の一歩を辿っている。何時か他の女子と歩いているだけで包丁持ち出しそうで怖い。いや、こいつの場合神葬具で斬り掛かるか。余計恐ろしい。


「とにかく、お前はさっさと上の階に――」

「おーい、白ぉ…」


 もういっその事引っ張ってでも連行の言葉が浮かびかけた時、助け舟の呼び声。上の階から階段で下りて来た舞佳が普段と違い、大分疲れた表情で手を振っている。声にも潤いと張りがない。

きっと戦闘時に神葬具を酷使した反動を受けたんだろう。精神的にも肉体的にも、神葬具を使用した後は急激な疲労が襲う。エリーゼも俺も慣れた疲れだし、これくらいなら何度も経験済み。舞佳の疲れ具合が酷く懐かしい。


「あら、あの方は……大剣の方ですわね」


 お前まだ人を神葬具で判断する癖治ってないのな。覚えるのが面倒とか言っていたが、それは人としてどうかと思うぞ。軍に挨拶に訪れた大統領を見て、俺に「あの偉そうな方は誰ですの?」と言った辺り筋金入りだ。せめて大統領の名前くらい覚えろ。

『……しくしくしく』ってか、まだ泣いてたのかダイゴロウ。そんな滝級の涙をずっと流してると体中の水分全部飛ぶぞ。そこまで犬呼ばわりが嫌なら常時あっちの形態になってりゃ良いのに。エリーゼが疲れるからダメなんだっけ。

 舞佳は壁伝いにやっとこさ近づいて来ると、息を切らせつつ俺達へ視線を向ける。


「白、エリーゼって奴、知らないか……?」


 俺の隣にいる目立つ容姿のがそのご本人。しかし、舞佳が何故エリーゼを探しているか疑問。エリーゼが舞佳の神葬具を知っている事からして、面識はあるのだろうか。


「担任の奴がわたしに、そいつの探索を押し付けやがったんだ…ッ」


 小さな体躯で木に吊り上げられたりと不便な人生。今度喫茶店とかで飲み物を奢ってやろう、500円まで。

 ってかやっぱりエリーゼは2年部の転入生なんだな。凄く安心した。こいつが1年部で、増して同じクラスなんて事になったら常時楓と争いかねん。同じ金髪同士、仲良くして欲しい。いや、エリーゼの白みがかった金髪はプラチナブロンドだったか。本人力説していたし。


「教室にも来ねぇし、職員室にもいねぇし、何所にいやがる――って、昨日の炎女!?」


 やはり面識はあるんだな。お互いに神葬具は記憶に残っているらしい。2人共特徴的な神葬具持ちだから当然といえば当然か。蒼炎と、他人の双剣がくっ付いた大剣なんて全世界探してもこいつ等くらいだ。俺の神葬具も大概ではあるが。


「白の知り合いなのか?」


 エリーゼと俺を見比べながらの言葉に、違うと否定しようとするが、直ぐにエリーゼがダイゴロウを抱いている方とは反対の腕を俺の腕へ絡める。こいつ行動まで突発的になりつつあるのか。


「エリーゼ=ディ=アルフォート。白様のガールフレンド兼妻候補ですわ」


 やっぱりこいつ、すこぶる空気読めない。敢えて読んでないのか、ワザとやってるなら、その度胸は賞賛に値する。絶対に褒めたくないけどな。自己紹介が事故紹介になってるし。自分の事全く説明出来てないし。

 それと気付けエリーゼ。胸張って得意気にしているお前を哀れみの目で見ている舞佳の視線に。何言ってんのこいつ視線を。直に受けたら俺でも怯みそうなドン引きを、華麗に流すエリーゼの肝っ玉は直径幾つ何だろうか。



 【野々宮 灯火SIDE】

(やっぱり、痩せ我慢だったんだね)


 授業中、隣の席で机に顔をべったりくっ付け熟睡している楓。確かに、天人の襲撃の後なのもあって学園全体が意気消沈の雰囲気。授業所ではない。

 僕達が教室に入って来た時には、泣いている生徒もいた。何でも、部活の先輩が1人亡くなったみたいだ。僕と楓は友達自体の付き合いが薄いし、まだ学園内での知り合いの死者はいない。でも、身近な人物が消える恐怖は、この学園の殆どの生徒が体験済みだと思う。じゃなければ、危険な戦地へ自分から志願する気持ちは生まれない。


(僕も……あの出来事がなければ、普通に暮らせたのかな)


 天人学の教材。その中のページにある天人の弱点や武装、引き起こされた事件の数々。

 その事件の項目にある『流れ星孤児院襲撃事件』。これが、この事件が無ければ、僕は普通の一般人として、天人なんて恐怖から目を背けて、日常を送っていた筈だ。

 記事にはこう書かれている。

『天人6体が孤児院へ侵攻し、孤児院内の職員、孤児の子供を合わせ約47人を殺害。四肢が散乱している死体もあり、正確な犠牲者数は無判明。生存者1名。天人が意思を持ったかのような行動で孤児院を襲い、理由は不明。尚、その後の天人6体の姿は見付かっていない』

 覚えてる……絶対に忘れない。

 腕を切り落とされ、泣き喚きながら死んだ男の子。逃げようとして首を刎ねられた女の子。僕を庇って刺された先生。その時に浴びた血の生暖かさと、鼻を突く鉄の臭い。紅い翼を生やした天使の、見せしめと言わんばかりの残虐な振る舞い。

 鮮明に記憶が蘇り、頭が痛む。吐き気を抑えて、何とか教科書を閉じる。


(なんで……僕は生きてたんだろう)


 天人が僕に向けて剣を振り下ろすまでの記憶は、過去へ戻ったかのように思い出せる。だけど、肝心のその後が見えない。その状況だけ見れば、子供の僕は剣で斬られて死んでいる筈なのに。

(なんで、僕だけ生き残ったんだろう)

 優しかった先生や、仲の良かった友達。日が経つ毎に徐々に薄れていく彼等の面影。

 今の非力な僕を思うと、情けなさと申し訳なさで、また頭が疼いた。

改善版です。

いやー……改善しました、結構むちゃくちゃ頑張りました。

毎回思うけど、文章考えるのって難しいですよね。かなり頭を悩ませてくれますが、完成した時の感動が一塩です。

最近灯火メインの話多いなぁ…とか思っていたり。

まぁ、可愛いからいいじゃないですか…ねぇ?謎を出したいということもあって、思い切って二話とも灯火メインに

他のヒロイン空気じゃないか、とか言わないで下さい…

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