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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
2章【絶対零度蒼炎の担い手~the blue flame performer~】
17/44

16『義母への禁句』【挿し絵】

 【黒羽=レッヂSIDE】

「一年から五人の――死者」


 学園長室、私室と化した部屋で無意識に万年筆を強く握り締めた。

 他にも二年、三年、それぞれに三人以上の死者が発見されている。まだ出現陣完全破壊まで二時間経っていないし、瓦礫に埋もれている者も合わせれば倍に増えると安易に予想出来る。

 天人の攻撃で建物、特に寮近辺は手酷くやられて、睡眠時を襲われた生徒も少なくない。

 だが、去年に同じ出来事が引き起こった際はこの五倍近い被害が出たのだから、最小限に食い止められたと安堵したくなる。でも死んだ生徒は、どう抗っても帰って来ない。


「死んだ生徒の大半が孤児……」


 親御さんから「人殺し」と言われる回数を少なくしてくれる天人の配慮だろうか。自分で言っておいて真に笑えない。

 神葬具使いは『対天人育成用教育学科』に入学を同意した時点で、生死与奪権を国に渡すことになる。学科を卒業するまでは無いが、必修学科を収めた後、国へ配属され任務へ駆り出される。国からの命令は絶対。その代わり、生きている限り人並み以上の生活の保障。

 刷り込み用の天人の死骸は有り余っているのに、神葬具使いは一向に増えない。国に命を差し出すくらいなら普通に働くという人間が大半を占めているからだ。

 現在の神葬具使いの殆どが、天人の襲撃で家庭を壊された人間だと言っても過言ではない。きっと死んだ生徒は、憎悪に突き動かされて不十分の訓練の中、天人に飛び込んで行ったんだろう。


「――――カレン、どうするのが正しかったのかな…」


 思わず、記憶の中の親友へ問い掛けてしまった。

 過度な訓練では生徒が伸びてしまう。だからと言って二年から本格的に始めますでは遅い。今の事態がそれを物語っている。

 天人の出現陣の発生場所に目安はつかない。警戒態勢は何時までも続く物じゃない。平穏が続けばそれだけ警戒心も薄れ、突然舞い込む天人の襲撃に対応が間に合わない。

 欠伸を噛み殺しつつポケットから取り出した懐中時計の短針が、既に5時を過ぎている。これは丸々徹夜覚悟で取り掛かる必要がある。

 低い身長を強調する様で嫌だから滅多にやらないのだが、今日だけは疲れたので伸びを取り入れる。


「んー、さてっと。シャワーでも浴びてから、また作業し――」


 休憩へのスイッチ入れ替えを行う言葉が、扉の開く音で遮られる。

 ここで補足。普通の学生、教師はこの部屋に立ち入りを禁止している。ノック無しなんて問題外。それを遣って退ける無礼者は一人しか心当たりがない。

 とりあえず、その人物が話題を切り出す前に、常套句になりつつある注意を掛ける。


「白、ノックはマナー」



 ◆ ◆

挿絵(By みてみん)

「白様、どこへ行かれますの?」


 頭に眠りこけている白餅のような猫のケルビンを乗せ、シベリアンハスキーの子犬もどきのダイゴロウを引き連れたエリーゼが、俺の三歩後ろで疑問を口にする。あの後天人を駆逐し続けて出現陣を2個破壊し、まだこの余裕具合。銃器を使っては捨て作り変えてを繰り返していた俺は、直ぐにでもベッドに突っ伏したい気分。

 だが、まだ仕事が残っているんだ。ある種、最優先事項かも知れん。その目的の為に疲れた体を引き摺って学内の階段を登っている訳だが。いつもより長く感じるのは疲労のせいか。

 真面目に返答するのも面倒なんで「着いてくりゃわかる」と一言返しておく。


「わたくし、白様と一緒なら何所にでも床にでも参りますわ」


 マジで朝起きたらベッドに潜んでそうで怖いな。軽くホラーを超越してる。そんなことされたら本気で自室の窓突き破って逃げるぞ。そういうのが許されるのは漫画とかの仮想の中だけだ。


『お嬢様、余りそういう事を嫁入り前の淑女が仰るのは如何かと思うでござ――』

「うるさいですわよ、ダイゴロウ」

『しくしくしくしく……』


 ただ注意しようとしただけで跳ね除けられるとは不憫な。階段で泣き崩れているダイゴロウを放置し、そのまま用事の相手がいる校舎の5階へ。

 目的の階に来ても廊下の最深部に部屋があるってどんだけ不便なんだ。1階の玄関正面とかに移動させようぜ、この部屋。


 ノック無しでドアノブを回すと、重々しい扉を開ける。普通ならこんな時間に学園長室なんて開いていないだろうが、今は天人襲撃から2時間も経っていない。学園長の黒羽だったらこの部屋に缶詰になっている、という予想が大当たり。

 事務作業を片付けていて疲れが溜まっていたのか、伸びをしていた黒羽に遭遇。

 やっぱり小さいな。我ながら義母とは思えない。アメリカで仲間に写真を見せたら、妹かと質問されて思わず肯定してしまったほど幼児体系な義母である。


「白、ノックはマナー」


 そういえば日本発つ前から言われてたな、この注意。直す努力をしないと何時か大目玉喰らいそうだ。


「黒羽……お前なんでこいつのこと黙ってた」


 黒羽の注意を無視してエリーゼを指し示す。

 挨拶から始まらない交渉術。アメリカで会得した交渉技術である。拳から始まる英会話なんて物もあるが、女性にはNGだな。主に喧嘩っ早い男への対処用。


「あら、もう蒼炎の転入生と仲良くなるなんて、プレイボーイな息子」


 黒タイツに包まれた細く艶かしい脚を組み直して、含み笑いをする黒羽に文句を言う気が失せる。絶対に俺とエリーゼの関係知ってた上での行為だろ、含み笑いも転入工作も。悪魔如きの所業――いや、この場合天人の如き所業。

 振り向くと、ケルビンがずり落ちそうなのを整え、黒羽を訝しげに観るエリーゼ。なんか嫌な予感がする。今直ぐこの部屋から出て行けと警告音が鳴っている。


「白様、このおちびさんは何方ですの?」


 明らかに学園長室内の温度が5度は冷めた。無論、クーラーもエリーゼの神葬具も無しで。

 エリーゼ、今お前凄く空気読めてない。(ん?何か不味い事言ったかしら?)みたいな表情してる時点で凄く空気読めてない。誰かさんの逆鱗に蹴りかましてる事くらい気付けバカ。一見小学生みたいな外見してるけど、これでも学園長なんだよ。身長も地味に気にしてるんだよ。


「ふ、ふふふ……面白い子ね」


 お義母様。その握り締めた自慢の万年筆は何に使用するんだ。

 慌てて2人の間に割り込むと雰囲気転換。話題を持ち直す。これ以上やらせると学園長室で惨劇が起こりかねん。


「ってかこいつが学園に編入って本気か?確実にアメリカが文句言うだろ」


 今のアメリカは危機的状況だし、蒼炎の使い手のエリーゼはかなりの脅し看板。手放す筈ないだろうし、本人が希望したからと言って簡単に異国へ渡れない。

 しかし黒羽が机の上にある一枚の書類を掴み、俺の前へ提示する。正に俺が認めたくなかった事実が、そこには記されていた。


『エリーゼ=ディ=アルフォートの対天人育成用教育学科女子学園、明星学園への編入を許可する』



 【野々宮 灯火SIDE】

「痛い染みるぅぅ……ッ!」


 舞佳先輩の体中に出来た切り傷や打ち身。校舎内の医務室で、慣れた手付きで処置を施していると、上半身裸でうつ伏せに寝ている先輩が悲鳴とも取れる声を出した。


「だ、大丈夫ですか!?」


 当てていた消毒液が染み込んでいるガーゼを離す。

 これでも最小限の痛みで傷が残らないよう心掛けているのだが、ここまで傷が多いと流石に根気がいる。これくらいでしか役に立てないから、確かに充実するんだけど。


「大丈夫…痛くない痛くない…」


 ベッドにある枕へ顔を埋めながら、痛くないを繰り返す先輩。その呟きは僕への返答というより暗示みたいに聞こえます。


「むしろ手早くやった方が痛みが少なくて良いんじゃない?」


 医務室の壁に寄り掛かり、楓が言う。楓の言うことは尤もだけど、丁寧にやらないと切り傷とかは痕が残っちゃうんだよね。先輩の自身の為にも、ここは我慢して頂きたい。女の子が肌に傷を作っちゃいけないし、こういう学園だからこそ、次の戦闘で傷が開きましたじゃ洒落にならない。

 ちなみに楓も頬に絆創膏を付けていたり、腕に包帯を巻いていたりと、結構怪我を負っている。


「痕残らないといいんだけど……」


 楓が最近、女の子らしく肌を気遣ってくれるようになって嬉しい。白が来てくれたお陰かな。今までは怪我しても舐めれば治るって言って聞かなかったし。楓を真面目に治療出来たのは、今回が初めてだった。

 最後に舞佳先輩の切り傷へ軟膏を塗り、「ひぐぅ!?」治療完了。


「あ、ありがとよ灯火……中々に痛かったぜ」


 良薬口に苦しという言葉は身に染みて分かるよね。

 僕も楓も、先輩もそうだけど、怪我とは違って内部にも疲れが及んでいる。神葬具をここまで行使したこと自体、1年生は初めてだ。白のような例外もいるけど、素人が神葬具を扱った次の日は、漏れなく疲労が押し寄せる。

 楓は痩せ我慢をして冷や汗を流しているが、僕はそこまでじゃない。きっと、楓のように接近戦の戦い方じゃないからだと思うけど。


「それにしても、変な奴もいたもんだ。蒼い炎で敵をぼーって燃やして」

「あー、それあたしも見たわよ。なんかレッヂの近くで凄い火の手上がってたし。後、めちゃくちゃ寒かったわ……」


 僕は遠目でしか確認出来なかったけど、舞佳先輩から聞いた話だと、蒼い炎の使い手は現れて出現陣を壊し、直ぐに別の場所に向かったらしい。それで、次に楓の証言。中位を意図も簡単に燃やした蒼炎。

 どう考えても世界最強の白の知り合いだよね。そうとしか考えられないよ……ごめんね、白。

 心の中で謝罪していると、午後の授業開始の鐘の音。午前の授業は天人の襲撃で無くなったけど、午後はちゃんとあるんだよね。その間に寮の修理等を進めるみたいで、破損が酷い部屋の生徒は他の寮生の部屋へ一時的な移転。対策が早い点がこの学園らしい。


「授業終わったら寮に帰って直ぐ寝てやる……」


 舞佳先輩は、何の宣言かわからない言葉を呟きながら力無く医務室を去って行く。


「灯火、あたし達も行くわよ。確か5時限目って数学だったし」


 数学は厳しい教師が担当なので、楓が急ぎ立てる。楓って確か数学苦手だったし、授業に遅れると絶対に指されるから回避したいんだろうなぁ。


「うん、今行くよ」


 何故だか嫌な予感がするんだけど、天人の出現陣は全部破壊された筈だし、気のせいだよね。

色んな意味で死ぬかと思うほど書いた…

4000字がデフォになるよう頑張ってます…死ぬかもしれん

今回は最初から絵師、あおクマさんの挿絵入りです

エリーゼ…可愛くなって…嬉しい限り

ケルビンの容姿とかハッキリしてない人もいるだろうし、すっごく助かった…

ありがとうございますあおクマさん、これからもよろしくお願いします

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