15『蒼炎の狼と猫と美少女』
俺が両手に構えたSteyr TMPマシンピストルで敵を牽制しつつ、楓が闇討ちを仕掛ける。
徐々に数は減っているが、それでも出現陣を壊さない事には天人の増援を抑えられない。時間を掛けなければ高火力の銃器が出せない点が痛いな。直ぐに創り出せるのは、拳銃に創り慣れた短機関銃程度。対物ライフルなんかの高火力銃器を創ろうとしたら確実に5分は掛かる。
アメリカの戦線だと味方が熟練された神葬具使い達だったから安心して任せられたが、今はそうも言ってられない。戦闘慣れしていない灯火を守りつつ、無茶な戦い方をする楓の援護を担当。
「はは……銃を創り出せる暇がないな」
マシンピストルなんて脅しも同然。神葬具の銃器とはいえ、そう易々と天人の西洋鎧は打ち破れない。
おまけに中位の天人も混じってると来た。確実に死人が出るレベルだな、これは。天人との戦争規模の戦いよりは全然マシだが、中位がいるといないとでは差が大きい。
10体の中位を盾にして核一発を防ぎ切れる。これだけ言えば大抵の人間は青褪めるだろ。
鎧の硬さも、武器の威力も、下位とは次元が違う。これの上に上位なんてものが存在するんだから呆れ返らざる終えない。
突き出された槍を危なげ無く躱すと、お返しとばかりに純白のオーラを纏った拳を天人の兜へ叩き込む。素手でやったら確実に拳の骨が全部逝くな。
「これで一体……先は長い」
「白、また新しい天人が出て来てるよ!」
もはや息を吐く暇さえないのか。円月輪を投擲しながらの灯火の言葉通りに、数体の天人の新手が出現陣から現れ、真紅の翼を羽ばたかせて優雅に地面へ着地。もう本日何度見たかわからない西洋甲冑へ銃口を合わせる。
「解放!」
引き金を引こうとした瞬間に、射線上へ自前の長い金髪を靡かせながら楓が登場。危うく誤射する所だった。止めろ、その突撃的な戦い型。敵と間違えて頭を撃ち抜きかねん。
俺の斜線上に立つ楓の脚に巻き付く黄金の帯。あれって、俺との戦闘時に見せた楓の解放だよな。
まだまだ天人の増援が予想出来るのに、何で解放するんだ、あのバカ。他の奴が釣られて解放し出したらどうしてくれる。
楓は天人の斧の大振りを屈んで避けると、屈伸の要領で相手の体を蹴り上げる。かなりの飛距離が出てた。脚回りの強化具合は賞賛を挙げても良い。突撃癖を直せば及第点。
他の連中も学生としてはしっかり動けてるし、紛れてる中位に遭遇しない限りは大事無い筈。
今度は中位発見作業か。またもや仕事が増えた。
「レッヂ!あれ中位じゃない!?」
攻撃を受けて吹き飛ばされたのか、地面を削りつつ勢いを殺し、俺の隣へ戻った楓が1体の天人を指し示す。視界に捉えると、大柄の盾を構え、もう一方に鋭い穂先の突撃槍を装備した天人。どう考えても装備からして普通の天人とは違うな。翼も一回り大きく感じる。
意外とあっさり見付かるものだ。アメリカでは乱戦に次ぐ乱戦で、相手の外見なんて注視する暇ないし。攻撃して異様に硬い相手がいたら、そいつが中位という大雑把な決定方法だった。そりゃ味方の首が何個も飛ぶわな。中位探知機とかあれば別だが、そんな便利な物があれば困りはしない。
中位は下位を指揮している為か、先程から棒立ち体勢のまま。攻撃されてからでも応戦可能という余裕の表れだろうか。
「楓、あれに近付くなよ!下位を頼む!」
流石に中位に突っ込む気にはなれない様で、楓は素直に頷くと、某特撮ライダー張りの勢いで身近の下位天人に蹴りかかる。猛獣か己は。
マシンピストルを放り投げると、AK-47のアサルトライフルを創造。グリップ越しに確かな重量を感じると、余裕かましている中位へ引き金を――、
『あの天人、旦那しゃまだと直ぐに倒せるレベルでしゅね』
『こらケルビン。旦那様の邪魔は止めるでござる。ささ、旦那様、あの天人めにどうぞ一発』
驚きで思わず両手が緩み、アサルトライフルが手から離れて、地面にぶつかり霧散。あぁ、勿体無い。結構精神力使うのに、これ。
現実逃避していても仕方がないので、うんざりしつつ懐かしい声を頭に響かせる連中に視線を向ける。
こんな戦場に不釣り合いな2体のミニマム小動物。
先ず餅みたいな体つきの暢気そうな猫、ケルビン。尻尾の先で蒼い炎が小さく灯っていて、これだけでもう普通の猫と違うと分かる。
次に、理知的な雰囲気の、一見ハスキー犬に見える子狼、ダイゴロウ。毛皮が青い部分以外特筆すべき点が無いのが泣ける。名付けの親の俺が言うのもなんだが、その顔でダイゴロウはなくない?飼い主とお前が気に入ってるならいいんだけども。
「お前等……アメリカにいたんじゃねぇの?」
『お嬢様に言って欲しいでござる。拙者は止めたでござるよ』
止めたってことはあれか。やっぱりこいつ等の飼い主もここにいるのか。有り得ねぇ…来る訳ないって笑ってたの今日だぞ。絶賛天人からの強襲中で時間経過の感覚が少々狂ってるな。
急いでアサルトライフルを再構成しつつ、スコープを覗き込む。中位を視界に捉えながら、
「とにかく、お前等は後ろに下がってろ!あの中位をやってから話聞いてや――」
突然、スコープ越しに中位の天人の体が燃える。ケルビンの尾の先に灯っている火、ダイゴロウの毛皮と同色の蒼。それが、天人の翼に燃え移り、余裕の雰囲気を出していた天人がもがき苦しむ。武器を振り乱し、狼狽の中で、徐々に体が焼失していく。
普通の神葬具使いならば、その光景に度肝を抜かれていたのだろうが、俺はアメリカで何度も見た光景。慣れの恐ろしさが身に染みて分かる。
「ケルビン、ダイゴロウ。白様は見付かりまして?」
止めの一撃と言わんばかりの斬撃が中位の背後から見舞われ、天人の体が真っ二つに分断。ぐろい絵面になる筈のそれも、蒼の炎で掻き消えた。
強固な天人の鎧を容易く両断した人物は、仇討ちのように襲い掛かって来た下位をも、視界に収める事もなく叩き切る。
瞳と髪から噴き出す大量の蒼色の炎。ツーサイドアップで纏められ、楓の金髪よりも大分白み掛かったそれ……プラチナブロンドと呼ばれる髪も、蒼で大半が染め上がっている。手に持った実体を持たない炎の刀も、威圧感をか持ち出すには十分。あれが中位の天人だと言ったら信じる奴もいるだろう。
『姫しゃま~。こちらでしゅよ~』
出来れば今出せる全速力でこの場から退却したかったが、戦闘中でそれを投げ出す訳にもいかない。諦めて受け入れよう。アイツが日本に、俺を追って来たという事実を。そして恨もう。深夜にこの事実を有り得ないと笑っていた自分を。
主人を小さい手を振りながら呼ぶケルビン。
それに気付き、こちらに視線を向けた長身の美少女は、冷徹な行いに反して煌びやかな微笑を浮かべる。
「白様……やっとお会い出来ましたわ」
いや、今生の別れからの再会みたいな顔しているが、別れて一週間経ってないからな俺達。
そして感動の再会を演出したいなら片手間で敵を片付けるのを止めろ。あぁ、天人なのに、殺すべき相手なのに。あんな殺され方だと同情の念が浮かぶ。
◆ ◆
"エリーゼ=ディ=アルフォート"。世界神葬具使いランカー2位の美少女。
『絶対零度の蒼炎』という神葬具の担い手で、神葬具の特徴は名の通り、凍てつく蒼い炎。
イタリア指折りの貴族だったアルフォート家の令嬢。実家は既に没落しているが、本人は気にしていないし、どちらかと言えば肩書きが失せて清々したと胸張って主張している辺りは好感が持てる。
しかし、完璧な人間なんていない物だ。人間誰しも、どこかに欠陥を抱えている。
身長170はあるであろうモデル体型のエリーゼに呆れながら、
「お前、アメリカどうしたよ…」
新聞読んでる時も言ってたが、アメリカは他の国からも睨まれていて大変だ。そんな時に世界2位の脅し看板がいなくなったら痛手じゃ済まない。既に1位もいなくなってるけど。だからこそ今のアメリカが2位を手元から離したりするだろうか。
「今まで守った恩は有給で返して頂きませんと。それに、一番は白様に会えない日々が堪え切れず……まるで放置プレイのようで気持ちい――えほん」
アメリカにいた頃もそうだが、こいつのストーカー癖とドM癖、段々酷くなってないか。しかも自覚なしの最悪のパターン。背中合わせで戦っていると悪寒が走る。頼りになるのに頼りたくないってどうなんだ、このジレンマ。
『旦那しゃま、後ろでしゅよ』
「何で日本に来た!?」
エリーゼの頭の上に乗ったケルビンの言葉通りに、突っ込んで来た天人に上段蹴りを当て、アサルトライフルで追撃。よろけた敵をエリーゼが紙を切るように捌く。確実に対応の速度は上がってるな。中衛担当の銃器だと頼もしい前衛がいてくれれば心強い。
「白様との再会の為ですわ。それ以外に理由なんてありませんもの」
アメリカはその理由だけで捨てられたか。哀れ過ぎる。まだ神葬具ランカー10位内が残っていることが救いか。
「泊まる所とか――」
「クレハという方に全て話は通っていますわ。白様との学園生活が楽しめると思うだけで胸が躍ります…」
義母黒羽よ、俺は一言も聞いてないぞ。せめてこいつが来るなら一言言ってくれ。防衛網引くから。
でもエリーゼが学園に通っても学ぶことなんて無いよな。俺が言うのも何だが、神葬具の基礎を学ぶ所だろ、ここは。何度も戦争並みの戦い経験してる奴には不必要に違いない。
「白様、あの剣は使いませんの?」
俺の銃器一筋の戦闘方針に疑問を持ったのか、エリーゼが敵を切り伏せながら暢気に訊いて来る。
「あー……奥の手なんだ、一応」
俺は天人に銃弾をお見舞いして、少し言葉に詰まった。
出来ればあれは普通の場所で披露したくないんだよな。危機的状況ならまだしも、銃とか使えなくなるし。エリーゼと戦った時は本当にしょうがなかったんだよ。
「ならば、わたくしが白様の剣になりますわ。しっかりと扱ってくださいましね?」
俺の目の前の敵を一刀両断し、蒼い炎が灯った瞳で上目遣いを使用するエリーゼ。こいつの中身を知らなかったら少しぐら付いていたかも知れん。だが、俺はこいつの本性のお陰で豪い目に会って来たのだ。
何事も経験を通過した今なら胸を張って言える。
全力でお断りします。
編集するかな…するな、きっと。
楽しんで頂けたら幸いです…ってか新キャラ動かすの難しい…。