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神葬具 †AVENGE WEAPON†  作者: 神楽友一@今日も遅執筆
1章【神葬具使い達~avenge weapon players~】
14/44

13『月灯りの中の散歩』【挿し絵】

 嫌な予感がする。こう、第六感が囁く様な。

 黒羽の部屋から失敬した英国新聞のガーディアンタイムズを広げて、『中国の万里の長城が天人により崩壊』の記事を熟読最中に感じた悪寒。慌てて辺りを見渡すが、それらしい人影は居ない。

 月明かりに照らされている寮の1階。何時もは生徒が往々する大広間のロビーだが、夜遅くの静まり返っている空気と、消灯済みの薄暗さが相まって幻想的な場を醸し出す。

 まぁ、月明かりを頼りに読む新聞が乙なんだ。


(アメリカにいた時以来だな、この寒気)


 こんな悪寒を感じる程の鋭い視線を放てるのは、俺は一人しか知らない。

 だが、あいつのいるアメリカは現在、テキサスを筆頭にした重要地域に天人の襲撃を受け続けている。こんな手を取り合わなきゃいけない時期にも土地の争いが起こってたり、国間で神葬具使っての戦争が起こり掛けたりと。

 危険が蔓延ってるこの時に俺なんかを追って日本に来たら拍手を送ろう。

 ってか中国は前も同じようなこと言ってなかったか?重要拠点が凍ったとか。確か中国は神葬具使いの人数が世界2位だった筈だし、訓練が行き届いてないとしか――、


「あれ……?白……?」


 突然呼び掛けられ、新聞から顔を上げる。

 見ると、薄暗い中に、百合の花柄をあしらったパジャマに身を包み、ポニーテールで結んでいた髪を解いた灯火の姿。もう深夜だし、寝る前の格好なのは当然か。


挿絵(By みてみん)


「えっと、何してるの?」


 お互い様と言いたくなったが、月明かりに照らされた普段とは違う灯火の姿に若干見惚れて、それを隠すように新聞を掲げて見せた。


「眠れなくてな。新聞読んでたんだ」


 これで灯火と俺に面識が無かったら俺は変質者と勘違いされそうだ。何せ女子寮のロビーで深夜に堂々と新聞広げてるんだから。就寝時間はとうに過ぎてるし。

 灯火は突き出された新聞を受け取り、感嘆の声を挙げる。


「英語の新聞……」


 俺が英語を読めるのがそんなに意外か。これでも2年留学してたんだぞ畜生。

 おっかなびっくりの表情を浮かべる灯火に不満を抱えるが、いつも親切にしてくれているのと、その可愛いパジャマ姿で許そう。日頃の行いはこういう所で作用するんだな。


「ところで、灯火はどうしたんだ?もう2時だぞ」


 これは俺の想像だが、灯火は規則正しく日常生活を送る人柄だろう。こんな真夜中に起きているとは到底思えないのだが。

 かく言う俺は夜更かしが基本。新聞とか小説に没頭していると時間を忘れてしまうんだ。


「白……聞いてくれる?」


 深刻気な表情の灯火に頷く。なんだか核爆弾発射して中位の集団がピンピンしていた時の大統領みたいな顔してるな。そこまで気負う内容か。


「楓がベッドから落ちて……僕のベッドを寝たまま蹴ってね。僕も背中から床に落ちたの」


 意識しているなら未だしも、無防備で背中に衝撃はきつい。背骨もあるし延髄とかやばい部分てんこもり。寝てる状態でそんな目に逢ったら瞬間起床物だ。

 あの金髪、性格と同じで寝相も荒いんだな。灯火に同情の念が浮かばざる終えない。


「お陰で目が覚めちゃってね。散歩しようかなって思ってたんだ」

「へぇ、夜の散歩か。良いな、それ」


 眠気が全然湧かない今、夜の散歩にかなりの魅力を感じる。今度俺もやってみるか。

 思考を巡らせている最中、灯火がいきなり俯いて――「…しょに…く?」――何かを呟く。上手く聞き取れなかったので、わんもあぷりーず。

 再発言を願い出ようとすると、意を決したのか、灯火が俯いていた顔を勢いよく上げる。赤面癖でもあるのか、顔が真っ赤に染め上がり、物凄い緊張感を物語っていた。


「い、一緒に、さんぽ、しませんか……ッ?」



 【野々宮 灯火SIDE】

(わぁ、わぁ……きょ、距離とか遠過ぎてないよね?自然だよね?)


 却下されると確信していたのに、まさか承諾して貰えるなんて。

 男の子が隣を歩いてる。この状況だけで頬が再沸騰するのが分かる。今まで何度もした夜の散歩の時間が、別物の様に長い。

 でも、嫌な心地じゃない。遅い歩調の僕に、白が揃えてくれる足並みが、恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。今直ぐ頬を隠して身悶えたい衝動に駆られた。

 黒い空の下、月を眺めている白を横目で盗み見ると、同じ年齢とは到底考えられないくらい大人びた表情が視界に映る。


(背……大きいなぁ。僕も高い方だけど、やっぱり男の子なんだよね)


 世界最強の神葬具使い。全然驕らないで、普段は余裕綽々の雰囲気を身に纏っている男の人。かと思いきや楓と言い争ったり先輩を弄くったりと。

 正直、会う前の白を噂だけで判断すると、悪意に満ちた魔人の外見しか候補に上がらなかったり。


(女の子と一緒にいること、慣れてるのかな。全然、緊張してないみたいだし……)


 こちらはと言えば、余裕なんて雑巾絞りしても出ない訳で。楓だったら、喧嘩しながらでも、もう少し明るい雰囲気を作れるんじゃないだろうか。

 いや、悲観的になるのは良くない。自分から話題を提供する努力も必要だと、一大決心。白から見えない様に拳を握り締める。

 深呼吸で喉の調子を整えて、声が裏返らないように気を配り、さて話し掛けようとした時に、


「そういや気になってたんだけど、灯火と楓はどうやって知り合ったんだ?」


 凄い勇気を絞り出したのに一瞬でへし折られると涙が出そうになるね。

 きっと白は、僕と楓の性格の違いを考慮した上で言ってるんだろう。今だったら未だしも、出会った当初は、僕も楓と友達関係が生まれるなんて想像出来なかったし。


「え、えっと、楓と知り合ったのは、この学園に入学してからなんだ」


 よくよく考えると、まだ楓と知り合って3ヶ月程度しか経ってないんだよね。寮で同室な事もあってか、ずっと前から友人だった気さえしている。


「最初は名前とかも知らなかったんだけどね。初めてのダンジョン授業で――」

 


 【野々宮 灯火SIDE】

 楓は初授業にも関わらず神葬具を使いこなしてて、驚かされたのが記憶に新しい。何より、あれだけ目立つ外見。第一印象は強烈だった。

 楓と同室に割り当てられた頃、僕はまだ、"あの出来事"から全く立ち直れてなくて。自分で言うのも何だけど随分暗い印象だったと思う。

 ルームメイトだったけど、僕はいつも俯きがちで。楓と顔をまともに合わすことなんてなかった。

 そんな時期と初訓練が重なり、初のダンジョン授業の最中、チームメイト無しの僕は迷宮内部で迷い、困り果てていた。一人で進めるような場所じゃないし、何より未だに戦闘への恐怖が拭えない。

 其処彼処に設置された松明の灯りの中で、最低得点かなと諦め掛けていた時、耳障りの金属音が聞こえた。鳴り続く音を頼りに、迷宮の奥へ恐る恐る進んで行くと、


「っち!解放(アテンド)!」


 苦戦しながらも、3体の訓練用天人相手に単独で交戦している女子生徒の姿。

 所々破け散った制服に、体の動きと共に縦横無尽に動く長い金髪。脚に装着した西洋鎧の脚鎧。

 無謀、勝てる訳ないと普段なら考えてたかも知れないが、その時の僕は1人で奮闘する楓の姿に、希望を抱いていた。あんな風に戦えれば、あんな風に前を向けたら、僕は変われるんだろうか。

 剣、槍、盾をそれぞれ装備した天人に勇猛果敢に突っ込む楓を見て、無意識にあれだけ嫌っていた神葬具を呼び出していた。



 ◆ ◆

「結局その戦いが長引いてね。僕と楓は1層止まりだったけど……それから、ちょこっとずつ楓と話すようになったんだ」


 宙に視線を浮かべながら思い出を語る灯火を見ていると、さっきまでの緊張していた顔とは違い、自然な微笑を浮かべている。

 それで凸凹コンビの出来上がりか。割りと意外なのは、楓と灯火の関係がまだ短期間だったって事くらいか。結構早くからの関係だと予想していたが見事に外れてしまったな。


「ご、ごめんね。僕ばっかり話してて」


 謝っている割りに嬉しそうな顔をしてる灯火は、やはり癒し系だな。幾分上気して赤く染まった頬が更に高ポイント。

 いやしかし、友達の事を話す灯火を見ていると、俺もアメリカの仲間を思い出してしまうな。戦時真っ只中だし、無事だったなら何よりってとこか。苦手だが近い内に手紙でも出すかな。

 袖を捲って腕時計を確認すると、もう午前3時。話し込んでしまった分、明日の朝が辛そうだ。


「いや、楽しかったし良いさ。んじゃ、良い時間だし、そろそろ帰って――」



『警告、警告。学内に出現陣を確認。警告、これは訓練ではない』

けっこう遅れてしまい申し訳ないです。

今回甘ったるい感じにしようかなと考え、この有様である。

灯火可愛いよ灯火。お気に入りのキャラナンバー2です。

1位は……まぁ、今後文にも現れると思うので、探してもらえたら…

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