09『vs神葬具†脚鎧』
俺の手に持たれた拳銃が彼女の脚を塞き止める。
突風が目前で吹き荒れる様に感心していると、金髪はノーモーションでバク転し、俺から距離を取った。
今の金髪からは目の前の敵を突き崩す、その一心しか見えない。
「はは。あの天人の時もそうしてりゃ楽勝だったろうよ」
二丁の拳銃を交互に発砲して距離を取った楓を狙うが――速い。
流石に神葬具で強化された筋力は伊達じゃないようだ。拳を繰り出さないところから察するに、神葬具の強化能力は脚回り限定ってとこか。
拳銃の片方を放り捨てると短機関銃を創り出し、即座に発砲する。
「くッ!?」
弾の射出速度が短機関銃と拳銃の混雑。楓もこれには少し戸惑い――それでも宙へ跳んで回避する。棒高跳びの選手張りに体を反りながら、俺の上空へ。
「はぁぁぁぁああああああ!」
気合を込めた滑空蹴りに対してトリガーを弾く。
銃口から発された青い銃弾は真っ直ぐ楓の脚鎧へ向かい、跳ね返される。だが跳ね返した楓の体も体勢を崩して俺への狙いを空振る。正確には、紙一重の空間を楓のライ〇ーキックが通り抜けた訳だが。
「な、何よその武器……。神葬具同士でかち合って打ち負かすわけ……?」
闘技場の地面を削りながら勢いを殺し、止まった楓が目を見開く。見方によっては俺の拳銃の威力と楓の脚鎧が相殺し合ったようなのか。
首を横に振ると楓の脚鎧を指差して、
「いんや。威力はお前の方が高いが、見え易いんだ、お前の場合。どこにどんな技が来るか。どんな体勢で打って出るか……とかな。顔にも出る。そして、体勢を崩しやすい場所を撃つ。ほら、簡単だ」
言葉は要らないと言うかのように突進して来る楓を、銃で牽制しながら、不意に笑いがこみ上げて来た。久し振りだ、ここまで食い下がってくる奴は。
今まで俺に戦いを挑んできた奴のほとんどは『こいつだからしょうがない』と小言を言っていたが、目の前の金髪は違う。どんなに力量差を見せても噛み付いて来る。まるで家を必死に守ろうとする番犬のようだ。
「シッ!」
目にも留まらぬ速さで繰り出された回し蹴りを紙一重で避ける。
その動作を待っていたかのように左脚でのサマーソルト。顎に当てて昏倒を狙っているのだろうそれを仰け反って躱す。前髪が風で持ち上がった。
反撃を兼ねて無理な体勢からの射撃。威嚇射撃といった方が正しいか。
楓はそれに直ぐ気付いたのか運動のお兄さん真っ青のバク転5連続で難無く安全地帯へ移動する。
「まぁー……そこも俺の圏内なんだがな」
拳銃を放り捨てて意識を集中し――もう片方の手にも存続の短機関銃と同じ物を呼び出した。短機関銃の二丁。ずっしりとした仰々しい重さがグリップ越しに伝わって来る。
中距離間での一方的射撃というのは嫌いじゃない。勝てば生きれるんだから正義だ。
「さぁ、もっと行くぜ。火薬庫は最大出力だ」
【小波 楓SIDE】
出たら目だ。目の前にいる男、神葬具使いであることを疑ってしまう。
先ず手に持たれた次々に種類の変わる銃。拳銃から短機関銃、アサルトライフルにショットガン。手品師にでもなるつもりかと問いたくなるほど武器を貯蔵している。例えるなら歩く火薬庫。
信じられないことにあれが全部神葬具……愕然としそうになる。
神葬具は天人から刷り込みで得られる武器の筈で、西洋の武器にありがちな古めかしい大剣や今あたしが装備している脚鎧なんて物がほとんど。銃器……それだけでも不可思議なのに。
(神葬具を何十と持ってる?いや、そんな雰囲気じゃない。神葬具を出す時の独特の威圧感が全く無いし。だったら、あれは何?)
またアイツは持っている拳銃を捨てて、新しい銃器を出現させる。二丁の短機関銃を向けて来る敵に八重歯を噛み締めた。
「何よそれ……ッ。弾切れも無いってこと!?」
不満を漏らしながら走る。止まっていたら蜂の巣確定だ。神葬具はダメージを与えられないが、それでも恐怖が迫って来る。
どんな天人と契約したらあんな神葬具になるのだろう。
現代兵器を真似た神葬具。そんな物が有り得るのか。天人はプライドも高く人間の兵器なんて使う筈ない。今まで見て来た神葬具でも、あの男の物は別格だ。
神葬具の能力を全力で引き絞り、銃弾の雨を駆ける。銃弾が紙一重で移動するのを感じると冷や汗が伝う。
おまけに神葬具が遠慮なしに喰らい続ける体力や精神力。泣き言を言うと限界に近付きつつある。底を尽きた瞬間あの短機関銃があたしの色々な物を奪うんだろう。
「そ、そんなの許せないッ!」
緑で色付いた風を目の前に展開しつつ、バカの一つ覚えのように猛進。
風の守り。あたしの神葬具の特性である風の制御を応用した防御結界。ぶっつけ本番で使うのは不安だったが、どうやら完璧に成功したみたいだ。
風の守りが銃弾を受け流し、銃弾の軌道を変更。
「いっけぇええええええッ!」
サマーソルトに展開している風を全て乗せて、"かまいたち"さながらの風の刃を飛ばす。
これなら一矢報いれる筈という賭け。迫るかまいたちを目前に、アイツはまたも銃を構えた。短機関銃の小さな銃口がブラックホールの巨大な口に見えて背筋が震える。
銃器の神葬具の意外性に埋もれそうになるが、アイツの状況判断やそれを惑い無く実行する度胸。攻撃を避け、反撃へ移る際の身体能力。どれを取ってもあたしじゃ到底叶わないことに差を感じた。何よりアイツは本気なんて全然出してはいないのだろう。
あたしの全力のかまいたちを難無く相殺させた男は、今度こそあたしへ銃口を向ける。
天人の殺人人形に次いで今度は世界最強の神葬具使い。戦ってる相手が自信喪失させる相手ばかりだと言うのもむかつく。
「むかつく……そうよ、銃が何よ。一昨日はもっとやばい奴と戦ったじゃない。斧槍だったじゃない。だったら……」
世界最強がなんだ。だったらそいつに少しでも本気を出させてやる。
残された体力を振り絞り風の防御結界を展開して…屈む。脚鎧に手を当てて――、
「解放!」
脚鎧が吹き飛び、霧散する。後に残っているのは脚に巻き付く黄金の帯。必殺技はド派手とよく言われるが教師陣にも絶賛されるほどの派手さ。あたしの最後の奥の手だ。
風の盾を突き抜けながら、黄金に輝く脚に力を集中させる。
「確かに良い考えだ。意表を突くには打って付けだろうしな」
アイツも両手の短機関銃を投げ飛ばし、天人と交戦時に見た解放の体勢。
あの白い手が……あの男の神葬具?
解放は神葬具を母体にして瞬間的に能力を爆発させるオーバーヒートのような物で。言うなれば必殺技。悪く言えば今まで使っていた体力、精神力を共に蒸発させる奥の手。
天人との対戦時。最低1対1という決まりは、ほとんどこの解放を使わなければ天人を仕留め切れない神葬具使い達の限界の為。もし天人を2体一気に相手したら解放で力尽きた時にザックリ行かれるだろう。
そうそう連発できる物でもなく、戦いの前に神葬具を1時間以上現界させていたあたしはHPをガリガリ削って発動しているのに。
目の前の男の神葬具を母体にしない解放。手の淡い白が蹴り出された黄金と衝突する。
(こいつ……ただ解放した手を前に突き出してるだけッ!?)
黄金の帯に包まれた脚。全力全開で繰り出したその蹴りを、男は白い手の光のみで抑えている。
そう、ただ突っ立って手を前に突き出してるだけ。愕然とした瞬間にあたしの風へ吹き付ける一筋の暴風。蒼い光に包まれた手の平が、拳として握られ――、
「Io lo lascio」
黄金の帯が吹き飛ばされて、その拳があたしの腹部を押すように当たる。
もしあたしの頭の上にHPゲージがあったなら今ので全て吹き飛んでいただろう。何せ――、
「……はぁッ!?」
目の前の"それ"をやった張本人が目を見張る。遠くの灯火に至っては口を半開き。
体に全ての外気が当たり…肌寒い。それ以上に羞恥が増し――あたしは真夏と真冬が同時に到来したらこんなんだろうか、と冷静に考えていた。
「い、いいいいい……」
口が回らない。噛み噛みの口から出た言葉は――、
「いやぁぁぁぁぁああああああああああッ!!!!」悲鳴である。
何故なら……神葬具の攻撃がクリティカルヒットしたあたしの服は、枯れ葉のように全て消し飛んだのだから。
はい、全然間が開きませんでしたね。
バトルは執筆がスルスル出来てですね。丸々一本を白VS楓にさせて頂きました。
バトル大好きです。書くのも読むのも。
次からはコメディー(?)パートになります。