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失恋確定したので、魔王討伐の宴でヤケ酒したら勇者(好きな人)の嫁になっていた件 〜酒は飲んでも呑まれるな〜

作者: ゼン
掲載日:2026/05/08

 


 ララの座る席だけが、宴の光から取り残されているようだった。



 頭上には、小さな色硝子をびっしり貼り合わせた球形の灯りがいくつも浮かんでいた。内側の魔光がくるくると揺れるたび、青や金や白の光が宴の床に散っている。


 白布の卓横のメニュー表には、『ロワイヤル・ド・なんとかエトワール』だの『ヴァンブラン仕立てのなんちゃら』だの、呪文のようにわちゃわちゃした名前の料理が並んでいた。

 どれもこれもお上品すぎて、ララには食べ物なのか、何かを召喚するための儀式なのか分からない。

 ナニコレ。どうやって食べるの?


 ……芋を出してくれ。

 焼いた芋でも、潰した芋でも、揚げて塩を振った芋でもいい。

 名前を聞いただけで途中で迷子になる料理より、ララにはそちらのほうがずっとありがたい──芋よ、シンプルで飾らない君に会いたい。


 金の皿も杯も眩しすぎて、触れただけで罰金を請求されそうだ。

 爵位順に並ぶ貴族たちの笑い声と楽団の音が重なるたび、ここにいる自分だけが間違いのように思えて仕方がない。


 喧騒の中、ララはひっそりと肩を丸めてグラスを握りしめた。

 笑い声も音楽も遠い。厚い硝子越しの音のように、ぼやけて届く。


 玉座の前では自分以外の勇者一行が並び、幾度も杯を掲げていた。


 王の祝辞、貴族の賛辞。

 響くのは、勇者・クロードの名ばかり。


 仲間たちは席を動かそうとしたが、当日では難しいらしい。

 爵位順に並べば、平民のララが末席になるのは当然だ。呪文みたいな名前の料理なんて食べたことのないド平民なのだから文句はない。


 遠くで笑う仲間たちを横目に、ララはグラスを見つめる。


「──クロードったら」


 鈴の音のような声に、顔を上げると光がいっせいに目に差し込んだ。


 王女が笑っていた。

 白絹の裾が光をすくい、宝石のごとき青紫の瞳まで眩しく見える。

 その隣で、杯を掲げるのはクロードだ。

 艶やかな黒髪に日に焼けた肌、形のいい鼻筋に凛々しい眉。整った顔立ちながら、きらきらしい王子というより、姫を守る騎士のような逞しさがある。


 並ぶ二人は、祝宴そのものの華だ。


 ふと、旅の情景がにじむ。


 雨に濡れた野営地で泥を踏みながら歩く背中。

 焚き火の煙にむせて笑っていた顔。

 凶器並みに固いパンを分け合って笑った声。

 怖いと泣いた夜に寄り添ってくれた肩。

 庇うように、守るように差し出された傷だらけの手。

 ララが好きになったのは、あのときのクロードだ。


 魔王討伐の旅に出た頃は、彼のことをただの陽気な前衛だと思っていた。


 一つの町を越えた先で、彼が侯爵家の次男だと知ったけれど態度を変えなかった。

 いや、ララは変えようとした。でも、それを彼が嫌がった。

「クロード」「ララ」と呼び合い、背中を合わせて戦った。


 旅は過酷だったが、確かな信頼があった。


 あの頃は、近くにいられるだけでよかった。

 本当に、本当に、そう思っていた。嘘じゃない。

 なのに、浅ましい自分はいつの間にやら『欲』を抱いてしまった。


 彼は、自分の届かない場所にいる。

 泥と汗と血にまみれたクロードはいない。

 そこにいるのは、王女の隣に立つ遠い世界の人だ。彼は王女の幼馴染だと聞く。仲が良くてもおかしくない。


 苦しいなら、見なければいい。

 見なければ済むのだから。


 ララはグラスを傾け、酒を煽った。


 飲むのは初めてだった。

 舌に触れた瞬間、甘い果実の香りが広がる。

 渋みがなくて、すいすい飲める。

 思っていたよりずっとずっと美味しい。

 喉を滑り落ちる感触が心地よく、舌に残る甘みが、体の芯へじんわり広がっていく。

 グラスを置くと、すぐにまた手が伸びた。


 こんなときでも味を感じるんだ、と思ったりもするが、美味しいものは美味しい。

 失恋したって、苦しくたって、腹は減るし、酒は美味いのだ。


(これくらい、いいよね? お酒はたくさんあるんだし……)


 乾杯のたびに新しいワインが運ばれてくるのだから、いいに決まっている。


 席は遠く、人を挟んでいるのに、クロードと王女の声だけは分かる。

 どれほど『見ない』を徹底しても、耳が勝手に拾ってしまう。

 無視できるはずがない。


 噂は、討伐の帰路からずっと聞こえていた。


 ──勇者への報酬は王女との婚姻。

 ──引き裂かれた二人は再会し、想い合う幼馴染同士の結婚式はもうすぐ。


 酔った貴族の誰かがまたその話をして、笑い声が波のように広がる。


(明日、王都を出よう)


 焼かれた村に戻って、まだ名を刻めていない墓の前に立ち、仇を取った報告をしよう。


 優しかった母、寡黙だけれど温かい父、甘えん坊の弟妹たち。

 声も姿も、記憶は年々薄れていくが、忘れたことなど一度もない。


 魔王軍が最初に襲ったのは、ララの故郷の村だった。

 燃える家々の中で、ララはただ一人、生き残った。

 そして、そこで初めて魔法が発現した。

 この国では、生まれつき力を持つ者もいれば、強い感情に突き動かされて目覚める者もいるという。

 ララは後者だった。

 祈るように叫んだ瞬間、光が弾け、炎も刃も目の前で止まった。


 けれどその魔法は、家族でも村人でもなく、自分一人だけを守った。

 それが、生き残った理由であり、誇れない理由でもあった。


「──ララ! おいっ、この馬鹿ッ! 飲み過ぎだ!」


 少し離れた席から、ザックが声を飛ばす。

 共に戦った仲間のその響きに、ララの肩がびくりと跳ねた。


「ねえ、お水を飲んだら? あなた、お酒を飲んだこと、ないでしょう?」


 メロディまで心配そうにララのもとへ来て、水の入ったコップを差し出した。


 けれど、ララは「いいのぉ!」とワインを一気に煽った。


(だって、今日で吹っ切るんだもん!)


 まごうことなき、ヤケ酒である。


 ララは飲み過ぎ……四杯めを傾けたところで、記憶が途切れた。



 ◇



 薄いカーテン越しに陽の光が差し込んでいた。


 ララは顔をしかめ、億劫に目を開ける。


 起き上がった瞬間、頭がずぅんと重く痛んだ。

 胃液のような酸っぱさが喉元までせり上がり、腹の中をかき混ぜられているみたいに気持ちが悪い。


 ララは口元を押さえ、「うっ」と唸る。


 気を抜いたら、何かが出そうだ。


()()()()るいぃ……」


(というか、ここ、どこ?)


 見知らぬ天井。豪奢なカーテン。柑橘の香り。身にまとっているのは、着慣れない柔らかな寝巻き。

 ベッドはもちもち、布団はふわふわ。

 快適で、文句のつけようがない。

 ……二日酔いでなければ。


 ふいに枕に落ちた手に、違和感を覚えた。

 左手の薬指に、冷たい感触。

 顔をしかめて見やると、知らない指輪が光っていた。

 細工は細かく、繊細な線で模様が彫られている。宝石こそ使われていないが、金属そのものが柔らかく光を返していた。


「ん?」


 引いてみる。

 が、動かない。


「んん?」


 きつくもないのに、抜けない。くるりと回すことはできるのに。


「なんで? ……あっ」


(これ、魔法だ)


 解読魔法をかけると、古い結界系の符が淡く光を帯びた。


 解呪を試みたが、術式は読めない。いくつもの結界魔法が絡み合っている。

 根幹の符が『祝福』を示したことで、呪いではないと分かったが、それ以上は理解できなかった。


(まあ、呪いじゃないなら、いっかあ……って──)


「──うっ、頭、痛ぁい」


 安心した途端、痛みがぶり返す。頭を押さえる。

 ララは魔法使いなのに、治癒魔法だけはからっきしだった。

 火も水も風も扱えるくせに、自分の二日酔いは治せない。


 ここはどこで、どうして自分がここにいるのか。

 この指輪は何なのか。

 二日酔いは、一体どれくらいで治るのか。


 ララは「うーうー」と情けない唸り声を出した。


 その声に応えるように、ノックが三回。コンコンコン!


「入るわよ」


 返事を待たず、扉を開けて入ってきたのはメロディだった。

 栗色の髪を一つにまとめ、寝起きで二日酔いのララを見下ろし、「馬鹿ララ」と一言。


 聞けば、ここはメロディの実家らしい。

 爵位は男爵でも、王都で信頼の厚い家だと聞いたことを思い出す。


「昨夜のこと、覚えてないでしょ」と言いながら、メロディが治癒魔法を発動する。


「私の治癒魔法を『二日酔い』に使うなんて、あなたとザックくらいよ」


 頭の鈍い痛みが引いていき、胃のムカつきがスーッと消えていく。同時にダルさも抜ける。


「あー、生き返った……ありがとう」

「触手に捕まって助け出されたときよりも安心した顔してんじゃないわよ。ったく……さあ、着替えるわよ!」

「え?」

「皆、お願いね~」


 ぱんぱんっとメロディが手を叩くと、わらわらとメイド服のお姉さんたちが押し寄せ、ララはあっという間に捕まった。

 袖を通すより早く腰紐を結ばれ、髪まで結い上げられる。

 抵抗する暇もなく、立派な令嬢が出来上がった。


 気づけば、メロディに背中を押されていた。クロードとザックが待つという客間へ──



「ララ!」


 客間に入るなり、クロードが駆け寄ってきた。

 声がやけに嬉しそうで、ララは反射的に硬直する。

 次の瞬間、腰をがっちりと抱き寄せられた。


 鼓動の音が耳のすぐ下で重なった。距離のなさに、思考が追いつかない。


「え、え?」


 動揺するララの左右から、


「クロード、落ち着け! この馬鹿が!」

「あんぽんたんっ、ララから離れなさいっ」


 ザックとメロディが同時に叫び、クロードを引きはがす。

 そのまま二人がかりで少し離れた席に座らせた。


 状況がつかめぬまま、ララが呆然と立ち尽くしていると、メロディが一歩近づいて、慎重に訊ねてきた。


「もう一度、聞くけど、ララは昨夜のことを覚えていないのよね?」

「え? あ、う、うん」


 ララが頷くと、ザックが深くため息をつき、クロードは不機嫌そうに紅茶の入ったカップに口をつけた。

 メロディはこめかみを指で押さえながら話し始める。


「昨日のララなんだけどね、めちゃくちゃ酔っちゃったのよ。それは今朝の自分の状態で分かるよね? それで、私が確認しただけで七杯めで、クロードの前に千鳥足で歩いて行ってね──」


 メロディが身振り手振りで再現する。


「──『くろーろが、ちゅきぃ~! あたちと、けっこんちて〜!』って、言ったのよ」


 メロディが言い終えると、客間がしんとした。


 ララの顔に血が上り、熱が耳まで駆け上がる。息を呑んだ拍子に視界がぐらつく。


「でね、そのあとなんだけど」


 目配せされたザックが、重い口を開く。


「クロードが膝をついてララにプロポーズしたんだ。で、半分寝てるララを横抱きにして神殿まで運んだら、顔なじみの神官がノリノリで手続きを通しちまって、そのまま婚姻手続き完了。そのあと、勢い余ってララを連れて行こうとしたクロードをメロディが全力で止めて、全員でメロディんちに泊まったってわけ」


「じゃ、じゃあ、この指輪って……」


「私は止めたのよ?」


 ララの言葉に、メロディが唇を尖らせて前置きする。

 ──世界で一番怖い前置きである。


「その結婚指輪なんだけどね」

「けっこん、ゆびわ?」


 メロディが大きく頷く。


「ええ。魔王討伐の褒賞として、クロードに贈られた指輪なのよ。国庫の宝物庫から出されたもので、強い祝福の魔法が込められているらしいの。初代建国王アーサーが王妃に贈った指輪で、愛の象徴として伝わってるのよ。お互いに想い合っている相手にしか定着しなくて、いったんはめたら死ぬまで外れないって言い伝えがあるみたい。建国王って伝記では一途な英雄だけど、実際は愛が重い系のヤンデレなのよ。怖いわよねえ」


「は? 純愛だろうが──」

「んで、その指輪をララにはめた、と」

 クロードのツッコミに、ザックが被せる。

「そうなの、酔いつぶれてるララに、ね」

 刺々しい口調のメロディも追随する。

「……」

 黙り込むクロード。


 ララの胃がきりきりと痛み出す。

 さっき治癒魔法をかけてもらったはずなのに、内臓が別の意味で捩れそうだ。


 昨夜の光景が思い出せなくても、宴の噂は耳に残っている。


 王女と勇者の婚姻、それが国中の喜びだ、と。


「ごめんなさい!!」


 ララの謝罪に、ぶわっと客間の空気が重くなった。

 ここで勇者の『気迫(オーラ)』を出さないでほしい。

 ザックとメロディは揃ってそう思った。


「何に対しての謝罪だ?」


 とんでもなく低い声のクロードの問いに、ララはすぐさま答える。


「王女様との結婚が決まっていたんでしょう?」


 指輪の祝福のせいか、クロードの放つ禍々しい気配に気づかないまま、言葉を続ける。


「それなのに、私が酔って公開告白しちゃったせいで、恥をかかせまいとプロポーズしてくれたんでしょう?」

「は? 何の話だ?」

「知らないふりとかいいから! 私、クロードが優しいのを勘違いとかしないし! そ、それに、昨日は酔ってたから……だから、今から神殿に行って、婚姻を撤回してもらおう?」

「……は?」

「なかったことにしちゃえば大丈夫だよ!」


 家族で唯一生き残ってしまった記憶は、ララに『自分の感情より誰かの幸せを優先するべきだ』と刷り込んでいた。


「は、はは……はあ……俺……魔王になっちゃおうかな……全部、焼き払いたい気分……」


 クロードは口角を上げていたが、目はまったく笑っていなかった。


 その殺気を浴び、ザックとメロディの顔色が瞬時に青を通り越して白くなる。


「お、おい、クロード、落ち着け……な?」

「ぴぇ……」


 この男が魔王になったら世界の終わりである。

 ガンギマりなやべえ目で世界征服を語るな。


 指輪により祝福されまくりのララは、そんな不穏さにも気づかず、また口を開く。


「私、すぐ王都を出る! 二度と戻ってこない! 愛し合う二人の邪魔なんてしない! 指輪が外れないなら、指を切り落としてでも──」

「そんなに俺が嫌いか!?」


 クロードの声がララの言葉を遮った。


「指を切るなんて許さない!! 俺とララはもう夫婦なんだ!! 酔っていたから撤回? そんなの許すはずねえだろうが!」

「でも……! クロードは王女様のことを愛しているのでしょう!?」


 負けじと声を張り上げたララが、続きを言おうと息を吸い込んだとき、メロディに口をおさえられた。


「スト~ップ、ララ!」

「クロードもストップ!」


 見れば、クロードはザックに羽交い絞めにされている。


 荒い息が交錯し、客間は戦場の直前みたいになっていた。


「人の恋路に足突っ込むのは良くねえって分かってるけどよぉ!!」


 ザックが力づくでクロードを押さえながら叫び、メロディが諭すように言う。


「あなたたちが話すと話がややこしくなるし、せっかく世界が平和になったのに、また暗黒時代が始まるとかごめんだから。まず、私とザックの話を聞いてくれる?」


 返事を待たずにメロディが、ぱんっと手を鳴らした。


 その一音で、騒ぎがすっと鎮まる。


「ララ、あのね、クロードと王女殿下は結婚なんてしないの。王女とクロードの幼馴染エピソードが民衆の英雄譚として脚色され拡散しただけなの!」


「えっ」


「王族側は噂を否定すると政争になるから、黙っていたの。そのせいで真実みたいに膨れ上がったみたいね」


 ララは瞬きを繰り返した。


「王女様はね、ララのファンなの。あなたを推してるのよ。端の席になったのは、王女様の親衛隊の騎士が勝手に手を回したせい。当日まで誰にも分からないようにされてたの」


 メロディは一息に言い切ると、さらに早口で捲し立てる。


「そいつ、ララを勝手にライバル視してたのよ。本当は当日に席を変えることもできたんだけど、安全面を考えて、そのまま端にしたの。あ、もちろん罰は受けてるから安心して?」


 まるで宴の裏側を暴露するかのような語りに、ララはぽかんと口を開けたまま固まった。


「話がちょっと逸れちゃったかも。つまり──ザック、続きお願い」


 メロディがわざと明るい声で促した。重たい雰囲気を軽やかにひっくり返すように。


「クロードも姫様もお互いに恋慕の気持ちはねえんだよ。まあ、噂は怖いよなあ。王族側でもこの噂には困ってたと思うぜ? なあ」

「ええ、王女殿下には婚約者様がいらっしゃるしねえ?」


 ザックとメロディの掛け合いが、漫才じみている。

 さっきまでの修羅場が嘘のようだ。


「そ。つーかよぉ! お前ら、(はた)から見たらお互い大好き同士だからな!? 『両片想い』ってやつか? 女子的に言うと、そんな感じだからな!」

「言い得て妙よねえ。誰が考えた言葉なの? 『両片想い』って言葉」


 ララはきょとんと目を瞬いた。


(……王女様は、婚約者がいらっしゃる? 私とクロードが……両片想い?)


「旅の間中、知らないふりしてた私たちを褒めなさいよね」

「まあ、俺らもよろしくやってたけど……って、痛っ」

「おだまり、ザック」


 軽口を交わすふたりに、ララは苦笑するしかない。

 その隣でクロードは相変わらず腕を組んだまま、むっつりと黙っている。

 怒っているのか、照れているのか。判断がつかない。


「いてて……とにかく、二人きりにしてやるから、自分の気持ちを伝えろ! 話し合え!」

「そうよ! 大体の揉め事は話し合いで通じるようになってるんだから! これは万国共通なんだから!」


 メロディは、ふうと息をつくと、「馬に蹴られる前に去るわ!」と、ザックの腕を引っ張って客間を出て行った。


 扉が閉まり、静けさが戻る。


 残されたのは、ララとクロード。


 指輪が光を受けて淡く煌めき、ララの鼓動が早まる。


 言葉が見つからず、沈黙だけが二人の間に落ちた。




 その日、客間の扉は一日中開かなかった。


 中で何があったかは──守秘義務により非公開である。




 翌朝。見事にバカップルと化した二人を見て、ザックとメロディは顔を見合わせ、鼻で笑った。




 ◇◇◇




 さてさて、このお騒がせ夫婦はこのあと結婚式を三回した。

 二回は王女プロデュースのもの。

 二つのコンセプト案から一つを選べなかったことで、二回することになった。意味が分からないが、事実、したものはしたのである。


 王宮中を巻き込み、会場は薔薇の花びらと祝福の声で溢れた。


 見目麗しいと評判の王女は終始ご満悦で、「推しの恋が成就したわ! ハッピー!」などと、やはり意味不明なことを言っていた。


 もう一回は、二人きりで挙げた式。

 場所は北方のレメ村、ララの故郷だ。焼け跡は草に覆われ、旧街道の石畳だけが昔の名残を留めていた。


 そのときに墓参りもした。

 クロードはララの家族の墓の前で、二時間も立ち尽くしていた。

 ララはその横で、風が草をなでる音を聞いていた。どんな報告をしたのかを尋ねても、クロードは答えなかった。

 けれど、彼の肩越しに見えた横顔には、確かな決意が浮かんでいた。


 とまあ、胸キュンほのぼのエピソードはここまで。

 あとはもう、バカップル丸出しなので割愛。


 ……え? 聞きたいって?

「この二人、まじでウザいからやめとけ」とザックとメロディが言っているので、ここは素直に従っておきなさい。

 やはり、割愛。





 結婚から五年ほどが過ぎた頃、クロードとララは王都の喧騒を離れ、小高い丘の葡萄園を買い取った。

 朝霧の残る畑で、二人は土を踏みしめながら苗を植えた。


 育った葡萄は香り高く、甘みの中に陽の味がした。

 評判はすぐに広まり、他国からも注文が届いた。


 ララが第二子を抱く頃には、クロードが樽を転がしながら新しい夢を語っていた。


「世界一美味いワインを作るぞ!」と。


 その笑顔に、旅の頃の彼がふっと重なった。


 ザックとメロディは時折訪れ、庭でワインを傾けては大声で笑い、子供たちと遊んだあとで帰っていった。




 陽の射す畑に立つたび、ララは旅の日々を思い出す。


 泥の道も、焚き火の夜も、失ったものも。

 今隣にいるクロードも、すべてが今日へとつながっている。


 ──世界は、今日も平和である。




 なお、ララは子供たちに口酸っぱく言い聞かせている。


「お酒は飲んでも、呑まれちゃだめ!」




【完】

芋(๑’ڡ’๑)o(酒) ♡

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