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4、善意で舗装されていく

「俺たちはこの辺りは庭みたいなものなんで、まぁ、任せてくださいよ」


 組合長自らが手配した案内役は、仲の良さそうな雰囲気の良い四人だった。

 冒険者ギルドの建物は、町の中央に位置する石と木の混在した頑丈な造りで、入口の看板が風に揺れ、内部からは酒と汗と鉄の匂いが混じって漂ってくる。外の通りは石畳が続き、遠くの峰々が朝霧に霞み、時折鉱夫たちの歌声が谷間に響いていた。


 冒険者としては当たり障りのない剣士、戦士、僧侶、魔法使いという構成である。しかしこの構成は実は難しいのだ。人は自分と似たタイプとはうまくやれる。そうなると剣士剣士剣士剣士、というような四人組の方が「楽しい」し「うまく回る」だが冒険者というのは友達同士のグループではない。気心が知れつつ、お互いの職業ジョブが被らないパーティー作りが必要だ。上位の冒険者になるにつれ、絆というより契約で結びついている、なんていうのは契約書と条件があることで何か些細な問題を「大人同士」「社会人同士」対応しよう、という気にさせるのであろう。


「よろしくお願いします、聖騎士様!」


 元気に手を差し出してくるのは、火に焼けた肌に軽装の鎧を纏った剣士。無駄のない体つきで、動きは素直そう。声に活気があって、笑顔が眩しい。(この時点でジャンヌが面倒くさそうな顔をしたのを、ジルは苦笑しながら眺めた)


 剣士の隣で腕を組んでいる戦士は、一回り大きい体躯。重装の鎧が陽光を鈍く反射し、黙って立っているだけで壁のように頼もしい。この二人は幼馴染らしく、視線や間合いがぴたりと噛み合っていた。


「こちらは新しく入った僧侶の――」


 剣士が紹介しようとしたところで、本人が一歩前に出る。


「リリーディアと申します」


 柔らかく微笑む。色素の薄い髪が風に揺れ、森の神の祝福を受けたような深い緑の瞳が輝く。白い法衣は新品に近く、泥一つ付いていない。手も綺麗で、鉱山の町に似合わないほど整った美しさ。彼女が立つだけで、周囲の空気が少し優しくなるようだった。


「こちらは魔法使いのハロルド」


 最後に紹介された男は、けだるげに杖に寄りかかるように立っていた。町の人間だが、剣士たちとは「幼馴染じゃありません」と否定し、剣士と戦士が苦笑した。つまりは幼馴染なのだろう。


「山の遺跡までの案内、ということで」


 剣士が話を進める。

 町の外では、風が谷を抜けて木々をざわめかせ、遠くの峰から鳥の影が滑るように飛んでいく。


 剣士は少し戸惑う表情を浮かべた。


「道はわかっていますよ、ただ、最近は魔物の動きが少し活発でして……その」

「えぇ、承知しています。あなた方には道案内を頼みたいのです。戦闘は私が行います」

「い、いえ。そんな、戦闘だって十分にできますよ!ビビッてなんかいません」

「それはもちろん、そうでしょう。ですが私は私の主人に、良い格好を見せたいのですよ」


 ジルが穏やかに頷く。煌びやかな甲冑の騎士の承諾に剣士たちはあからさまに安心した。険しい山岳地帯の魔物は元々厄介だが、活性化している今はどれほどか。


「騎士様は、中央からいらしたんですよね?」

「ええ」


 戦闘職の面々に緊張感が漂う中、僧侶リリーディアが柔らかな声でジルに話しかける。声のトーンが、他の人に向けるより明らかに高い。


 ジルは一歩、自然に下がる。僧侶は一瞬表情を止めたが、すぐに笑顔を作り直し、あれこれとジルの興味や町の感想を聞き出そうとする。だがジルが笑顔を保ちつつ「親しくしたい気持ちはない」という態度を取り続けるので、剣士たちが慌てて彼女を呼び戻した。僧侶はつまらなさそうな顔で杖を持ち直す。


「……あぁ、そうだわ」


 話題を変えるように、僧侶は頷く。


「先ほどの方、見ましたか?」


 あの「犬」と呼ばれた男の話らしい。


「報酬が不当に減らされたとかで、揉めていたみたいで……少し、可哀想でした」


 剣士が苦笑する。


「まぁ、ああいうのは珍しくないだろ」

「でも……あぁ、そうだわ。ねぇ、荷物持ちとして、雇ってあげるのはどうでしょう?」


 僧侶は自分の思い付きが素晴らしいように、ぱぁっと顔を明るくして言った。さすがに一瞬、空気が止まる。


「だって、このままじゃ食べていけないでしょうし。私たちの荷物も軽くなりますし、彼にも仕事ができる。ね、そうでしょう?それがいいわ!あ、お金のことなら心配しないでね。お父さまに言って出して貰います」


 その口調はとても慣れていて、男三人が顔を見合わせてため息をつく。ジルとジャンヌは「このパーティーの主人が誰か」を暗に悟った。なるほど、妙に小ぎれいな、そして僧侶だとしても冒険者らしからぬ雰囲気。この町の良いところのお嬢さんらしい。幼馴染三人が大人になっていくのを窓から眺め、「私もまだ一緒にいるわ」と強請って冒険者になったのか。


「オタサーの姫……?あ、それよりタチが悪そうな……」


 ぼそっと、ジャンヌがこぼす。


「私は承服しかねますが」


 嬉々と「野良犬」を荷物持ちにする自分の考えを楽しむ僧侶に、ジルが待ったをかけた。ジルはこの仕事の依頼主だ。拒否する権利がある。


 ジルの胸には、あの汚れと汚臭のする不審者をジャンヌの傍に置きたくない、という強い拒否感があった。あのような男の記憶に、少しでもジャンヌが入ることが嫌だった。


「身元の分からない者を雇うなど、危険です」

「でも……可哀想だわ」


 僧侶は食い下がる。ジルが自分に興味を持たない男であることから苛立ちが見え、反対されるほどかえって通したくなる気持ちさえあった。


「ねぇ、ジャンヌちゃんだって、あの人をかわいそうだと思うでしょう?」


 ジャンヌちゃん。

 仮にも雇い主に「ちゃん」付けである。


 この時点でジルは「この冒険者たちを送り返して別の者を雇おう」と考えた。


 だが意外にも、ここでジャンヌが口を開く。「役に立ちそうではあったよね」 あぁいう人は色々知ってそう、とジャンヌが珍しく興味がありそうな声で言った。



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