二十六話
愛助の父親、そして彼を蝕む吹き溜まりの悪霊を調伏する場に選んだ場所。
それは愛助の生家だった。
両者に縁が深い場所であれば彼を誘い込みやすいと思ったのだ。
「ここが、そうだ。もう許可はとってある」
「はい……」
大志、そして織部とコンは愛助の背を追っていく。
彼の生家は郊外にある閑静な街、そこにあった。
家の買い手がつかなかったのか、そこは愛助が家を出てからそのままになっていた。
庭には雑草が生い茂り、美しかったであろう外壁は所々剥がれていた。
幸い窓ガラスは無事なようだがどことなく無機質で不気味な雰囲気を放っていた。
「相変わらずだな」
愛助はそう呟いた。
「この家は、ずっとこうだった。鉄の塊がただそこにあるっていうだけで、人間がいるのに、生気が全くないんだ」
そう独り言を吐くと、手に持った鍵で玄関を開けた。
暗い廊下から埃と重たい空気が流れてきた。
「土足でいい。入れ」
「あ、おじゃま、します」
愛助の言葉に大志は返す。
言葉が詰まる。
酸素が薄い。
呼吸をしても空気が肺に届かないかのようで、とても苦しい。
「大丈夫か?」
そんな大志の肩を織部が支えた。
瞬間、呼吸が楽になって、体が軽くなった。
「あ……ありがと……」
「俺から離れなければ、楽になるから。無理してでも、大志はいるだろうし」
「俺が、言い出したことだし」
「……行こう」
大志がよく見ると自分の体から青く揺らめいているものが出ていた。
まるで炎のようだ。
おそらくこれが、織部のなんらかの力なのだろう。
リビングに付くと愛助は足を止めた。
感慨に耽ることなく、椅子を一つ引っ張って腰かける。
「ここで、迎え撃つ」
「そうか」
「わかっているだろうが、もう、アイツらはこっちに近づいてきている」
彼がそういった瞬間、壁が揺れた。
最初は地震かと思ったが違った。
カタカタと震える窓を見ると、大志は青ざめた。
そこにはびっしりと手形が張り付いていたのだ。
「……もう来やがったか」
「すぐに事に運ぶぞ、よいな?」
「よろしくお願いいたします。金色稲荷様」
本名で呼ばれたコンは織部の顔を見る。
「窓を開けた瞬間奴らは乗り込んでくる。気を抜くなよ、みどり」
「はい……その前に、大志」
織部はいつものように笑いながら大志を見つめる。
その笑みを見ると、胸が苦しみが軽くなった。
「大志には少し、刺激が強いと思うけど……見なくていいからな」
そういうと織部は窓の方に向かい、意を決してからそれを開けた。




