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二十三話

縁庵を閉めた後、大志は夢香の言っていた店に向かった。

彼女が言っていた肉球を模した型がすぐに見つかり、それを購入した。

その帰り道で、コンが愛助に声をかけたことを思い出した。

客に対しては一定の距離を取っていたコンがなぜ愛助にそんなことを言ったのか。

そう思って、彼の足は万岳寺に向かっていた。

そして寺の白い壁を前にすると、コンと愛助の声がして来た。


「お主、厄介なものに憑かれているな?」


コンの声に足を止める。


(憑かれている? 愛助さんが? なんで……?)


顔を覗くと、石畳の上に愛助の前にコンが座っていた。

愛助の顔は見えない。だが、ただそこに立ってコンの話を聞いている。

そして愛助はようやく口を開く。


「……気づいておいでだったんですね」

「ああ。祓ってはいるようじゃが、どうも縁は切れていないようじゃな。何か深い事情があるのか?」


コンの淡々とした言葉に、愛助は少し間をおいて答える。


「俺に憑いているのは、実の父親です」

「ほう……」


彼は滔々と語っていった。

愛助の実の父親は地元の名士であったが、何もかも自分の思い通りにしなければ気に食わず、物心ついた時には息子に暴力を振るっていた。

母親は息子よりも名士の妻という肩書を愛しており、夫の暴力を見てみぬふりをしていた。

生まれつき体が大きく頑丈で、表情が表に出にくかったことが、愛助の父親の加虐性をさらに増していった。

最初は平手だったものが拳になり、足になり、小物を投げるようになり、自前のゴルフクラブで殴る事が定番になった。

家でも学校でも居場所を見つけられず、喧嘩にあけくれているうちに八海連合のトップになった。

それも、組織の腐敗に嫌気がさし、強引なやり方で解散を宣言した。

八海連合のアジトを住処にしていた愛助は、久方ぶりに実家に向かって、必要なものを回収して街を出ようとしていた。

そんな時だ。

愛助は父に鉢合わせしてしまった。

運悪く彼の機嫌は最悪であり、飲酒していたのもあり、罵詈雑言を浴びせられた上に暴力を受けた。

しかし、愛助はもう昔の愛助ではない。

苛立ち紛れに抵抗し、手で払う。

たったそれだけで愛助の父は転倒し頭を打った。

それが原因で彼は半身不随となった。

親戚たちはこれを「事故」として片付け、愛助に姿を消すように命じた。

最初からそのつもりであった愛助は転々としていくうちに、万岳寺に辿り着いた。

以来、順鶴のもとで仏門に入ったそうだ。


「それからだ。アイツが出るようになったのは……最初はアイツが死んだと思った。でも違った」


愛助の言葉にコンはうん、と唸る。


「なるほど。身内で、しかも生霊か。これはまた難儀なことじゃ……」

「でしょうね。和尚にも頼れませんし」

「生霊は成仏が出来ん。執念があり続ける限り何度でも蘇る。それにだ、これはお主も気づいておるだろうが」


瞬間、周囲の空気が冷たくなる。

大志の背筋がゾクとおぞけが走る。


「お主の父親はただの生霊ではない。吹き溜まりの連中に目を付けられておる」


吹き溜まり。

聞いたことのない言葉だったが、明らかによくない存在の言葉ということだけは大志にはわかった。


「死霊や落ちてしまった妖や神は、仲間を求めている。憎悪に塗れ、腐りかけた魂を見つけると、すぐに取り込もうとする。お主の父親は、余程恨みを抱えておったのだろうな」


コンにそう言われると愛助は目線を微かに下に動かしていた。


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