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二十二話

運がいいことに、縁庵の近くに巡回中の警官がいてくれた。

それにより赤星はすぐに逮捕されて、彼らに連れていかれた。


「化け物なのは連中の方だ! ポリ公なんだから調査しろよ! あのガキは狸なんだ! 俺を噛んできやがった! 被害者は俺なんだ!」


二人の警官は完全に「ああ、コイツはまともな人間じゃない」という顔をして、無言で連行した。

恐らくここであった事は赤星の嘘だと言われるだろう。

平和が戻った縁庵では愛助を中心に盛り上がっていた。

と、いうよりも菜々穂がずっと喋り続けている。

やっと出会えた王子様に興奮し質問攻めをしている菜々穂と、それを微笑ましく見つめる夢香。その二人に挟まれていた。

表情は崩していないが、少し困惑しているようだった。


「はい。愛助さん、お持ちしました」


大志が出したもの。

それは試作中のスイーツだった。

丸く切り取ったコーヒーゼリーの小さいものを四つ、大きいものを一つ置いて、猫の肉球に見立ててある。

生クリームに包まれた肉球たちは艶々として、皿の中で愛らしくそこにあった。


「え~! かわい~!」

「素敵ねえ」

「万岳寺にいる猫たちをイメージして作りました。どうでしょう?」


コーヒーゼリーを見つめる愛助は嬉しそうに目を細めた。


「ああ、いいな。アイツらに似てるし、和尚も喜びそうだ」

「よかったです! さ、食べてみてください」


スプーンを持つと、小さい肉球を一つ掬った。

それを口に運ぶ。

ほろ苦くも爽やかな酸味のあるコーヒーの味が口に広がる。

つるりとした食感が心地いい。

甘くふんわりとした生クリームとの相性も抜群である。


「……いい味だ」

「よかった! 何か、こう、改良点とかあります?」

「そうだな……もっと猫っぽさが欲しいな。猫の耳とか入れるとか。丸く切るだけじゃなくて、肉球型があるといいんだが」


愛助の提案に夢香が「あ」と声をあげる。


「そういえばここの近くの雑貨屋さんで肉球の型が売ってたわ。ちょうどこのお皿に合うサイズで」

「本当ですか?」

「うん。ちょっと前の映画のアイテムだったかしら? ジュース入れて凍らせてアイス作れたりゼリー作ったり出来るようになっている奴。まとめて五個くらい売ってた気がする。未使用品って書いてあったし、可愛かったけどすごく安かったから、お店でも使えるんじゃない?」


その提案は大志にとっては願ってもない事だった。


「そのお店って確か本屋の側にある奴ですよね? 今度行って来ます」

「うん。それ使えばもっと可愛いコーヒーゼリー作れそうよね」

「いいかも~。ね、愛助さん、今度はナナと一緒に食べませんかあ?」

「……考えておくよ」


愛助は少し困ったように笑う。

菜々穂はデートがまた会えると信じて疑わないのか嬉しそうだ。

そんな四人を、カウンターから織部とコンが見つめていた。

コンは今日の神饌であるクラブハウスサンドを口いっぱいに頬張っている。


「よかったですね、菜々穂ちゃん」

「ふむ。だな」


コンは頬を膨らませて味わっている。

だが、その目は四人から離れない。

いいや、ある一人から離れない。


「……コン様?」

「気づいておるか? みどり」


コンが言った意味深な言葉に、織部は真剣な表情になる。


「イヤな空気は感じてました。ずっと言えなかったけど」


コクン、とコンが喉を鳴らして嚥下する。

そしてその瞳を織部に向ける。


「少し、話をしてくる」

「あんまり刺激しないでくださいね」

「無論だ」


そう言ってカウンターから降りていったコンはトテトテと小さな四つ足で、愛助の足元に向かった。


「のう、坊主。今日は災難であったの」

「稲荷様……」


姿を現したコンに夢香が首を垂れる。


「先程はありがとうございます、お稲荷様。お稲荷様が近くを通ったお店のことを教えてくれて、裏口からここに入れてくれたおかげで、犯人の不意をついて眠らせられましたし」

「いやいや。お主の協力にも感謝するぞ、獏のおなごよ。狸の小童も、よい機転であったの。よくやったぞ」

「そりゃ頑張るよ! ナナの王子様の為なんだもん!」


コンはいつものように偉そうに笑う。

そして机の上に乗ると、愛助の前に座る。


「ところで坊主。帰りに少し話せるか?」

「稲荷様が、俺に?」

「うん。お前の寺の様子を見がてら、少しな」


意味深なコンの言葉に横で話を聞いていた大志は少し首をひねった。


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