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二十一話

そんな時だった。

縁庵の戸が再び開いたのは。


「……!」


今、ここに一番来てはいけない人物が来てしまった。

愛助だ。

ブイネックのシャツにスラックスを履いたシンプルな普段着を纏った彼は、目の前にいる少女を人質に取った男が誰なのかすぐにわかったようだ。

愛助の登場に、赤星はカカカと笑った。


「愛助さぁん。お久しぶりじゃないっすかあ」

「……赤星」

「そんなとこに突っ立ってたら他の人の邪魔になっちゃいますよー? ほら、柿花だって困ってんじゃないですか」


そういうとナイフをわざとらしくちらつかせ、自分に従うように言う。

愛助は彼に従い店内に入り、静かに戸を閉めた。

縁庵が密室になった瞬間、愛助は堰を切ったように話していく。


「愛助さんよお……あんたのせいで何人年少にいって人生台無しになったと思ってんすか? ええ? 地獄だったよ、あの日々はよお~……今でもクソみてえな大人たちに警棒でぶん殴られた痛みが蘇っちまうよぉ……」

「その子を離せ」

「黙って聞け! 年少出てもどこにも居場所がなくてよお、わかる? どんだけ俺が寂しい思いしたのかさあ。街の皆から慕われたヒーロー八海連合だった俺が、ただの前科持ちのチンピラになっちまったんだよ。お前のせいでさあ! どう責任取ってくれんの? なあ!? 俺がここまで言っても土下座の一つもしねえってどんな神経してんだよ! そんなテメェは偉い人間なのかよああ!?」


理不尽極まりないことを喚く赤星を、愛助はただただ睨んでいる。


「俺の土下座があれば、お前は満足か?」

「満足なワケねえだろ! その後は指一本一本詰めて貰うからなあ!」

「わかった……まずは、その子を離せ。その子は、俺らと何の関係もない。そうだろ?」


自分のありったけの怒りをぶつけられても変わらぬ愛助に、赤星の怒りは頂点に達した。


「――ざっけんなああぁ!!」


絶叫した愛助は、そのナイフの刃先を菜々穂の首筋に当てる。


「そんなこのガキが大事なら、テメェの目の前でぶち殺してやるよ。全部テメェのせいだからなあ、愛助!!」

「やめろ赤星!」


赤星の暴走に大志が体当たりを仕掛けようとした、その時だ。

黒い煙が辺りに広がる。


「な!?」


間の抜けた声を赤星があげる。

次の瞬間、彼は絶叫した。


「いだだだだだだ!!」


彼はナイフを落とし、必死に片腕を振っていた。

その先には茶色い塊があった。

まん丸とした、狸だった。


「菜々穂ちゃん……」


必死に指に食らいつく菜々穂を引き剥がせず、赤星は訳も分からず叫ぶ。


「くそ、くそお! 皆ぶっ殺してやる! 愛助だけじゃねえ、柿花も、この店も、みんな地獄に落とし――」


瞬間、彼はバタリと倒れた。

愛助が殴ったかと思ったが、それは違った。


「間に合ったようじゃの」

「コン様! どこにいたんですか!」


もこもこと毛並みを揺らしながら、コンが現れた。

その側には夢香がいた。

ラメのように輝く紺色の煙を放つ彼女は、ホッとして腕を下ろした。


「私の術で寝かせました。柿花さん。今のうちにその人縛って下さい」

「わ、わかりました! ありがとうございます!」


大志は文房具のある棚から結束バンドを持ってきて、白目を剥く赤星の手足を拘束した。

何とか復活した織部は警察に通報したそうだ。

そんな中、元の姿に戻った菜々穂は赤星を踏みつけ、愛助に近づいた。


「初めまして! ナナの王子様!」


初対面の少女に、キラキラとした瞳で見つめられた愛助は唖然としていた。

そんな彼の様子に気づかずに菜々穂は続ける。


「ナナの事覚えてなくてもしょうがないです、ナナ、初めて会った時は狸だったから。ね、隣に座りますから、お話しましょ! ねえ、タイちゃん。その人お店の外に置いておいてくれる? それかゴミ箱の中でも入れといて」

「はあ……」


先程まで人質に取られていた少女とは思えないメンタルだ。

これは愛助は苦労することになるだろう。

そう思い、大志は苦笑した。



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