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十九話

男子会の翌日。

縁庵の客席でも女子会が始まっていた。

一人は菜々穂。今回は誰にも化けてはいない。

彼女の向かいには黒髪の美しい、妙齢の女性が座っている。

黒髪の女性は獏の夢香ゆめか

セラピストをしており、人の相談を聞くのが得意な女性だ。

縁庵で出会った二人はすっかり意気投合し、菜々穂は夢香を姉のように慕って彼女に接していた。


「王子様に会いたい?」


夢香の言葉に、大志も織部もそちらを向く。

菜々穂は照れながら、その赤い頬を手で包んでいる。


「うん。そうなの。ナナの初恋の王子様……絶対見つけて、もう一度会いたいんだぁ」

「どんな人なの? その王子様は」


異性の自分が聞くことでもないと思い、通常の仕事をしながらも大志は耳を傾けていた。

菜々穂は夢香の言葉に、うっとりとしながら昔話を始めた。


「あれはナナがまだ子供だった時……ちょっと家出してたんだ。人の姿じゃ見つかっちゃうから、狸になってね。でね、きったないガキンチョ達がナナのこと見つけて、いじめてきてさぁ……絶体絶命! って思ったら現れたの!」

「王子様ね?」

「そう! その人が現れた瞬間、ガキンチョ達はひーひー言いながら逃げていってね……カッコよかったなぁ。凛々しい目元。高い背。赤い蝶の舞った白いバイク……あの人こそ、ナナの王子様よ!」


ピタリと、大志の手が止まった。

白い車体に、赤いトライバル模様の蝶。

そんなバイクに乗った人間を彼は知っていた。

八海連合総長、愛助だ。

場違いなのはわかっていたが大志は菜々穂に声をかける。


「ねえ、菜々穂ちゃん。その王子様って、眉毛が太くて、蝶の模様が書かれたバイクに乗ってたんだよね?」

「え? そだけど?」

「瞼が厚くて、ジト目っぽくなってて、歳の割りに大人びてた感じしてなかった?」

「……なんで、知ってるの?」


菜々穂はただでさえ大きな目を更に見開く。

確信が持てた大志は、彼女に言う。


「君の言う王子様は、俺の知ってる人なのかも知れないんだ」

「うそ! マジでタイちゃん!?」

「うん、学生時代にお世話になった人でさ。今度の日曜のお昼にこのお店に来るはずで――」

「行く! 会いに行く! マジでありがとう!」


菜々穂は席から立ち上がり、きゃっきゃっと跳ねていた。

夢香もガムシロップをたっぷり入れたアイスコーヒーをカラカラとかき混ぜ、微笑んで妹分の幸せを喜んでいる。


(俺もオーナーに似てお人好しになったな)


そんな事を思いながら大志は笑った。



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