朱に交われば赤くなる
短編です
私はずっとここに存在しているのに、何故か誰も私の元へはやってこない。
正確には、皆、私の元へは来るのだけど、何故か私を取り囲んで何やら話をした後去って行く。
なぜ?なぜ私には誰も触れてこないの。
私の中には、ありとあらゆる宝飾品や金銀の財宝がたくさんあると言うのに。
あ、また誰か来た。そろそろ私を開けてくれても良いと思うんだ。
「おい、また宝箱があるぞ」
「えぇ・・・罠じゃないのか?」
「うーん・・・」
足の長い二足歩行の人間と呼ばれる生き物たちだ。しかし私には、彼らが何を話しているのかはわからない。
「おい、魔法使い、中身見れたりしないのか?」
「だから、さっきから言ってるけど、わからないんだって。そういうスキルでもないと」
「だよなぁ・・・正確なサーチはSSクラスだもんな」
「俺らみたいな一階層御用達のハンターじゃ、そんな高スキル持ってる奴なんて雇えないしなぁ」
今日の人間たちは私の前でずっと話をしている。珍しい。これは・・・あり得るかも!
「まぁ、強いて言うなら、怪しいよねぇ。だって一階層に似つかわしくない装飾だし」
「あぁ、それに、ここに来るまで十個以上、宝の入った箱を開けて来たんだ。そろそろ罠があってもおかしくない」
“わな”という単語を彼らはよく口にする。ソレが私に対してよくない言葉であるのはなんとなく理解できた。
私の中の宝飾品はどれも一級品。箱自体はそこらの木を切り倒して作ってもらったんだけど、宝飾品は、お母さんが丹精込めて磨き上げた一級品ばかり。装飾に関してはお父さんが腕によりをかけて綺麗に塗ってくれたんだもの。どうしてもたくさんの人間に見てほしい!そう思って、一番人間の多い場所を探して、ようやくたどり着いたこの場所に長い事居座っているけど、どうしても誰も開けてくれない。その理由が“わな”という言葉に含まれているんだろうか。
一人の人間が私に触れた。
「中身がわからないのが問題だよなぁ・・・」
「叩いて反響音とかでわからないかな?」
「どうでしょう?」
人間たちはまた集まって何やら話をしている。あぁ~もう、じれったい!早く開けなさいよ!そして私お母さんから受け継いだ宝を持って行きなさいよ!!
私の願いは空しく、彼らは“わなだな”と言って去って行ってしまった。
あぁ、今回もダメか・・・。私はいつになったら開けてもらえるんだろう。これじゃぁ私の役割が果たせないじゃない。
「お、宝箱だ!ラッキー!」
新たな人間がやってきた。この人間は私に興味を示してくれている!さっきの人間たちが最後じゃなかったのね!やった!待ってたわ!さぁ、開けて頂戴!
「おい、うかつに触れるなよ」
「あ、あぁ悪い」
もう一人、人間が現れて、興味を示してくれる人間を引き留めてしまった。あとちょっとだったのに・・・・。
「こんな一階層に、こんな上級の宝箱があるわけないだろ?怪しすぎる」
「えぇ~。絶対良いモノが入ってると思ったんだけどなぁ」
「一階層は比較的安価な宝しか出ないんだよ。装飾が豪華なのに一番安い薬草とか出てきたらがっかりするだろ?」
「確かに・・・」
「さ、行くぞ」
「はぁ~。じゃぁな、俺の宝箱ちゃん・・・」
興味を持ってくれた人間が、私の頭を優しく撫でて去って行った。
何よ!頭撫でてほしいわけじゃないんだけど!?
静かになってしまった。誰もやってこない・・・。私はいつになったら開けてもらえるのかしら。はぁ、こんなことなら、もっと装飾を雑にしておくべきだったかしら。
暗くなってはダメ、次の人間に願いを託しましょう。
——朱に交われば赤くなる——
環境って実は大事ですよね




