「チェンジで」と言った聖女様
※生理に関しての話が出て来ますのでそう言ったネタが苦手な方はご遠慮ください。
恋愛要素は欠片もありません。
「聖女様にはこちらが用意した者達を世話役につけようと思っておる」
「チェンジで」
「ん?ちぇんじ、とは?」
「交換、交代、変更、とかそういう意味です」
私こと藍田未希、17歳の女子高生はなんか色々あって異世界に召喚されて聖女としてどうこうというラノベあるあるな事を言われた。創作設定が現実に起きて呆然とはしたし、誘拐じゃねぇか、とか色々文句を言いたいこともある。
だけど、そんなことはまあ置いておく。
聖女のお仕事とか色々聞いたけど、この世界にとっての異世界、私からすれば地球には魔力が無いのでその体は空っぽも空っぽ。で、異世界を越える時に超常的な力というか神様の力的な物を体いっぱいみっちみちに詰め込んでやってくるらしい。その力はこの世界に不足しちゃってるものなのでゆっくりと長い年月をかけて放出してバランスをとるらしい。
偉大なる力というか凄まじい力なので一気に放出しちゃうと均衡が崩れて世界が崩壊しちゃうから、少しずつで、それも普通に生活していれば勝手に溢れ出てくるから特に意識はしなくていいらしい。
とは言えども元の世界には戻れないそうだ。それは世界の構造的にそうらしい。この世界の人が神様から言われたのは、地球のある世界は上層にあってこの世界はその下にあるから、上から下に引っ張るのは出来ても、下から上に持ち上げるのは出来ないって事らしい。
ものすごくはた迷惑すぎる。これが蛇腹のように横になってるならまだ可能性はあるんだけど、上から下には落ちるしかないという。ちなみのこの世界の下には別の世界があるし、地球のある世界の上にもまた別の世界があるそう。
私にとって運が悪かったのは、この世界と地球のある世界が接していた事と、神様がこの世界にはいて信仰されていた事かもしれない。因みに私は都合のいい時だけ神様や仏様にお願いするタイプです。
まあ、そう言うのも説明を受けた。女であれば聖女、男であれば聖人とするのは一番最初に召喚した人が言い出した事らしい。正直言えば確かに聖女とか聖人ってなんかいい感じの響きだしね。それにほら、神様的な力を突っ込まれてそれを世界の為に使うんだから、奇跡を起こしてるようなものかもしれないし。知らんけど。
思う事はあるよ。家族はどうすんの、とか。高校卒業まで後少しで、大学受験頑張ってる、って事とか。色々あるよ。でも帰れないなら仕方ないじゃん。あっちの生活が嫌とかそんなことはない。だって溢れんほどのサブカルに美食というか悪食極めすぎて発展しすぎた料理とか、当たり前にある機械とか、本当に色々ある日本が大好きだよ。
でもね、どうしようもない事で泣き喚いても時間は無駄に過ぎていくだけだってのも分かってる。絶対に寝る時に泣くと思うし、ふとした時に帰りたいって叫ぶだろうけど、今はそれどころじゃないんだよ。
うん、あのね、ラノベあるある。
聖女召喚の後に世話役として見目麗しいタイプ色々の男を並べて世話役にするっていう奴。あれ、私的には信じられないんだけど。
「お世話してくれるのは、ありがたいです。こちらの世界の事を全く知らないから。でも、なんで男性ばかりなんですか?」
「というと?」
「あのですね、一日の大半を一緒にいることになると思うんです。教えてもらう事は沢山あるから。なら、同じ女の人が良いです。寧ろ女の人じゃなきゃ嫌です」
ここは王城でね、実質面倒を見てくれるのは侍女さんとかかもしれないけどね、見るからに明らかにお偉い立場の子供って感じの男たちが並んでるんですよ。多分同年代かちょっと上かそこらの。
そう言うのにずーーーーーーーーーーーっと引っ付かれるのはお断りなんですけど?
お話していたのはこの国の王様で、ここは謁見の間と呼ばれるところで、王様の隣には王妃様が座ってるんだけど、私の発言を聞いて王妃様の目が「こいつ、何やら面白そうだな?」という感じになったのを私は見たよ。王妃様にとっての「おもしれ—女」枠をゲット出来たかもしれない。
「私は平民ですのでお綺麗な言葉を使えませんし、あけすけに言わせてもらいますね。女には月の物があるわけですよ。私は重い方です。その期間は立ってるのも辛いし腰痛腹痛頭痛は尋常じゃありません。その前の段階でも情緒不安定になって攻撃的になるし、ちょっとしたことでもイラっとします。そう言う辛さを欠片も理解出来ない男の人が役に立つんですか?それよりも私は女の人の方がまだ理解してくれるから世話役っていうならそっちが良いです」
「う、うむ…王妃、そなたはどう思う?」
あまりにもあけすけに言いすぎてどん引きなのはわかるけど、本当に切実な問題なんだよ。だって私はそろそろその期間が来そうなんだよ。学校帰りの召喚だったから鞄は持ってて、いつ来ても大丈夫なようにナプキンと薬はあるんだけど、足りるわけないんだよ。
しかも私は下手したら痛み止めが効かない時もある。痛みで腹抱えて唸って脂汗は出るし泣きそうになることもある。腰は痛いし重いし、そんな時に女性なら理解してくれるだろうけど、そんな事を知らない男の人の対応はしたくない。量も多いから下手したら漏れて汚れる。女性なら理解してもらえるだろうけど、男の人には言いたくない。
まあね、同じ女同士でも理解しあえない事はあるよ。でも100%理解出来ない男性よりもまだ苦しみを理解してもらえるじゃない。
「わたくしも聖女様のおっしゃることはもっともだと思いますよ」
にっこりと王妃様が笑いかけてくれたのでちょっと安心。説明の時に学園があるらしくて、そこに通う事も出来るって言われてたんだよ。だったら余計に一緒にいてくれるのは女の子の方が良いよ。
「男性と女性では礼儀作法が異なります。それよりも陛下。元々召喚の儀を行う時にどちらの性別の方が来るかわからないからお世話役は両方用意しておきましょうと申し上げていたはずですのに、何故男性しかこの場にいないのですか?」
「う、うむ。聖女様がお越しになられたと聞いたのでな…やはり、見目の良い男の方が良いかと」
あ、ちょっと王妃様お怒りですね。わかります。王妃様も考えて下さってたんですね。そりゃあね、歴代には見目麗しい男がいればラッキー☆って感じでそっちを選ぶ事もあったと思うんだけどさ、私は男だらけの中で女一人の逆ハーレムっていうのはノーサンキューなんですよ。あと、普通にタイプじゃないし。かっこいいと思うけど観賞用イケメンっているじゃん。観賞用は遠くから見てるからいいのであって会話したいわけじゃない。
「色々と教わるなら女の子が良いです」
「ええ。陛下がここにいる令息達しかこの場に呼んでいないと聞いたので、わたくしのサロンに令嬢を招いています。後で案内しますね」
「ありがとうございます」
なお、この間呼ばれていた令息とか言われていたイケメンたちは完全に置物になってた。観賞用イケメンなので見栄えの良い置物だよね。
まあ、そんなこんなで色々と話を詰めた。
私はこの世界の知識はこれっぽっちもない。世界線移動特典のおかげで会話は出来るけど文字は分からないのでそこの勉強をしたり、この世界の事を勉強しましょうって事で。
で、学園に通って個別に教えてもらえるらしい。ありがたいことだ。会話が出来るだけマシらしい。大昔には会話も出来なかったらしいよ。そう考えると会話が出来るっていうのは便利だよね。
で、卒業したらこの国に基本的には滞在するのが前提で住むところは自由にしていいけど、世界のバランスを保つのが一番のお仕事なので護衛は付けられるそうだ。国外に行く時には申請を出して期間も滞在先も明確にした上で滞在先から受け入れ許可が出たら行けるらしい。
聖女とか聖人は一人しかいないからね、国際問題になっちゃうんだって。でも旅行しちゃ駄目って言われないだけいいかもしれない。
恋愛は自由だし子供も産んでいいけど、犯罪者とは結婚しちゃダメ。相手は王族だろうが貴族だろうが平民だろうが自由。ちゃんと調査はしてくれるらしい。何の調査って、愛人がいないかとか何かトラブルを抱えていないか、とか。虐待が起こりうる環境は当然最初から排除されるそう。
あれだよね、結婚前の身辺調査。何かで見たことある。離婚経歴のある男性と結婚する予定のお嬢さんの両親が身辺調査で前妻の所に離婚理由を聞きに来たから身体や経済DVかましたので離婚したけど養育費は送って来ないっていうのとかを全部ぶちまけたとかそう言うの。
そう言うのってお金かかりそうだけど国からやってくれるっていうならラッキーじゃない?しかも相手は犯罪者じゃなければ良いって言うんだから。
壁際の見栄えのいい置物から視線が凄かったけど無視無視。自由恋愛万歳。
で、王妃様からは四人の女の子を紹介してもらった。貴族の令嬢で、公爵令嬢のロザリーナ様、伯爵令嬢のフェミナ様、子爵令嬢のリズティア様、男爵令嬢のリリアン様。
中立派っていう派閥の人達で、私と同じ年齢で貴族特有の高慢さが無いタイプらしい。
ぶっちゃけ、美女美少女ばかりで目が肥えます。その中にモブ顔一人は超つらい。でも日本人らしいのっぺりとした顔立ちはこの世界ではあまりないし、染めてない黒髪も珍しいらしくてお世辞でも可愛いと言われてちょっと嬉しかった。あと、日本人は童顔って言われるけど17歳の同い年なのが信じられないと言われた。うん、私も皆さんと同じ年齢だとは思えないんだ…こう、胸とか…胸とか…。世知辛い。
「安心しましたのよ、実は」
「何がですか?」
私は貴族じゃないし礼儀作法も分からないから無作法は見逃してもらえるというか、そう言うのは聖人聖女の場合免除らしいんだけど、まあそう言う感じで出来るだけ丁寧に紅茶の入ったカップを持ってる時にロザリーナ様がそう言ってきたので聞き返した。
「聖人聖女召喚の歴史書があるのですが、数代前の聖女様は男性ばかりと共にいて…いくつかの婚約がなくなったことがありましたの」
「うわぁ…」
「ですので、ミキ様がどうなさるのか緊張してましたのよ。王妃様から呼ばれていましたが、陛下には呼ばれませんでしたから…」
どうやら逆ハーレム的なのを狙った女がいたらしい。私的にはないわーとしか言えない。だってないわーじゃん。複数の男と同時進行とかちょっと…頭おかしい女じゃない?元の世界ならビッチ扱いだし裏でクソ女とか叩かれるタイプじゃん。はっちゃけたのかな。
「そもそもですけど、私の居た世界とこの世界って別の世界じゃないですか?」
「そうですわね」
「病原体が同じとは思えないんですよ」
「びょうげんたい…とは?」
「病気になる原因のものです。えーっと、王妃様や貴族の令嬢の前で言ったら怒られそうですけど…」
優雅に座ってる王妃様に視線を向けるとにこりと笑う。生理の話をした時も止めなかったからいいのかな。
「えーと、何と言えばいいんだろう…そう、子作りをする行為の時に移る病気があるんですけど、それが同じとは限らないし、もしかしたら死に至る可能性だってありますよね?環境に慣れて体が適応したらいいんですけど、でもそれって一年そこらでは早いと思うんです。最低でも三年くらいは様子を見ないと」
「ま、まあ…そうですわね…」
「そういう事もあり得るのですね…」
うーん、純粋培養的なロザリーナ様とかフェミナ様には刺激が強かったらしい。それに対してリズティア様とリリアン様、それから王妃様は平然とした顔をしてるし何なら頷いてる。
「私は閨教育が早かったのもありますから」と微笑むリズティア様と「平民の親族がいて話は聞くので」と笑うリリアン様。貴族にもやっぱ色々あるんだなぁ。
「こう言ってはなんですけど、いくら聖女を大事にしてくれるとは言っても学園に通う事も考慮するなら絶対に女の子の方が良いじゃないですか。女には女の付き合い方があるっていうのに」
貴族社会でも何でもない、こちらで言う所の平民だらけの地球でも女友達と男友達では付き合い方は変わる。普段あけすけに話し合う異性でもセンシティブな話は出来ない。男の子の前での態度と女の子の前での態度が違うなんてざらなのに騙されるのが男だと思う。そう言う意味では姉妹がいる男子は割と現実を見てたなぁって今更ながら思う。
「とりあえず、色々助けてもらうと思うのでよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた私に、皆は「こちらこそ誠心誠意お助けいたしますわ」と優しい言葉を返してくれたのが何よりも心強かったし、この世界で精一杯頑張って生きて行こうと覚悟を決める事が出来た。
リハビリ作品です。
召喚された聖女の世話役を男性(特に王子とか)がしてることが多いけど、現実問題として色々行動する時に傍に男がいるのってトイレに行くのすら大変では?と思ったのがきっかけ。
女同士なら「ちょっとトイレ行ってくるわー」と言えても、男の人の前ではやはり遠慮しちゃうところがあるし、生理来たけどナプキン持ってないからちょっと一個もらえない?と言えるわけないし、絶対に不都合しかないよね、と。
生理ネタぶちかまし過ぎてすみません。一番わかりやすい性差だったので取り扱いました。