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友達

昼休み。


「はあ……もうほんと何なんだよ。俺は資料もしっかり片づけたし、別に悪いことはしてないはずだが……」


(いや待てよ。さっきあいつ、俺が泣いた話を持ち出したら怒り出したよな。ってことは……昨日急に甘えてきたのが恥ずかしかったってことか?)


「いや、まさか。あの冷静な如月が、そんなことで取り乱すとは思えねえ……。よし、弁当でも食うか。」


席を探して歩く。


「ちっ、なんだよ……席取られてんじゃん。」


「なあ、あいつ外部生の桧山ってやつだろ?勉強しか取り柄のない無能野郎。」


「ほんと、一人で食っててかわいそうだよな。いや、家柄もかわいそうか。」


周囲からあざ笑うような声が聞こえてくる。


(なんだよ……わざわざ聞こえるように言わなくてもいいじゃねえか……。)


(……ちっ。最高峰の高校ったって、みんながみんないい奴なわけじゃない。……でも、まあ確かに俺は外部生で、貧乏だ……。)


そのとき、不意に如月の顔が脳裏によぎった。


(もしかして……あいつも、俺が貧乏だから……?)


そんなときだった。二人の女子生徒が俺の目の前に現れた。


「ごめんなさい、桧山君。ほかに席空いてなくて……ご一緒してもいいですか?」


「あ、ああ……。」


如月紅葉と、小奈津那奈だった。


「では、ありがたく。……で、あなたは何を考えていたんですか?」


如月が冷静な声で問いかける。


「え?、なんで。」


「あなたが何か深刻そうな顔をしていたので。」


「いや、別に。ただお前が昨日なんであんなに怒ってたのか、考えてただけだ。」


「ああ、そのことですか。……もう過ぎた話です。さっきは私も冷静さを欠いていました。……すみません。」


「そ、そうか……。てか、お前ら、俺なんかと座っていいのかよ。」


「え?なんでです?」


「いや……だって俺、貧乏だし……別に財力も何もないし……。」


俺は少し照れ臭そうに顔を背けて言った。


「何をいまさら、それがどうかしましたか?」


「え……?」


如月は真っ直ぐに俺を見つめる。


「だって財力なんて、もともとの運に過ぎないじゃないですか。どの家庭に生まれるかなんて、自分では決められないでしょう?それに……そのお金は自分で稼いだものじゃない。」


「それに、私は人を家柄や財力で判断する下種な人間とは違います。」


その時の如月は、いつもよりもずっと、輝いて見えた。


「そ、そうかよ……。」


「そうですよ、桧山君。」


小奈津も微笑みながら言う。


「私たちは、そんな体裁だけを気にする低俗な人たちとは違います。それに……私たちは君の友達じゃないですか。」


その言葉はなぜか、俺の心臓に優しく突き刺さった。


「そ……そうかよ。」


「ちょ、小奈津さん。私は別に、この人のこと友達なんて言った覚えありませんけど。」


「えっ、じゃあ如月ちゃんは桧山君の友達じゃないの!?」


小奈津は驚いた顔で如月を見つめる。


「いや、そういうわけじゃ……。ま、まあ……友達というか、生徒会の……仲間、ですかね。」


「またまた、如月ちゃんのデレツン~。」


「な、なによ。デレツンって……。」


(……そうか。この人たちは、俺の……。)


胸の奥が少し温かくなる。


「……ありがとな、お前ら。」


俺は顔が赤くなるのを感じて、そっぽを向きながら言った。


「いやいや、別にそれほどでも。」


小奈津は満足げに笑う。


「わ、私はそんな低俗な人間と一緒にされたくないから……。」


(相変わらず素直じゃないやつだ……。)


「そうだな。」


なんだか少し、笑顔を取り戻した気がした。


「……あ、ていうか。如月さん、怒ってたんじゃなくて。昨日泣いちゃったことを恥ずかしがってただけですよ。」


「え、そうだったの?」


「ちょ、小奈津さん、それは言わないって……!」


「なんだよ、驚かせやがって。てっきりもっと深刻な何かかと……はあ……。じゃあ生理は大丈夫なんだな。」


「は?」


その瞬間、二人の顔が一気に冷たくなっていくのを感じた。


「え、桧山君……なにそれ……最低……。ほんと引くわ、それ。君、人間?人として大事な部分、何個か絶対抜け落ちてるよ……。」


小奈津の冷たい声に、俺は慌てて如月の方を見た。


「な、なあ如月……そんな怒ることじゃないよな?お前からも何か……」


如月は何かを呟いていた。


「………。」


「うん?なに?」


「………。」


「へ?もう一回言って。」


「………。」


「おい、もうちょっと声大きく……」


「コロス、コロス、コロスッ!!」


その顔と表情は、まるで死神を目の前にしたかのようだった。


「ねえ如月ちゃん、こんなデリカシーのかけらもない猿と一緒に食べるのやめよ。生徒会室で食べよう?」


「……ええ、そうね。」


二人は席を立ち、生徒会室へと去っていった。


「……やっぱ俺、嫌われてんのか?」


呆然としながらスマホを取り出す。『生理 女性 失礼』で検索。


(……ま、まさか、こんな意味合いがあったとは……。やばい、やばい……俺、最低じゃん……。)


(……あとで謝ろう……。)







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