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第八章 最終決戦


 数日後、再びグレイソンがアカデミーを訪れる。

 今回は父親のアルフレッド侯爵も同伴らしい。


「喜べ、アリーファ。僕達の正式な婚約が決まった」


 グレイソンは書類をアリーファへと突きつける。


「そん……な……」


 絶望に打ち拉がれたように、アリーファは膝から崩れ落ちた。

 まるでゲームの終盤にある悪役令嬢の断罪イベントのようだ。

 しかし、ここは現実。

 ゲームの中ではない。

 もっと言えば、この世界のアリーファは悪い事を何一つしていない。

 断罪される所以はないのだ。


 けど……一体どうすれば……。


「その婚約、お待ちください」


 そう言ってグレイソンの目の前に立ったのは、リリスだった。

 目の前のリリスを見るなりグレイソンは、その美しさにうっとりと目を細める。


「君は確か……リリス・ハートだったかな? 平民出身とは思えない麗しさだ。どうだ? 僕の恋人にならないか? 次期アルフレッド侯爵の側室として迎え入れてやろう」

「結構です」


 即答するリリスに気分を害したのか、グレイソンは顔を顰めた。


「そうか……ならその平民如きが僕に何の用だ」

「私は皇室から派遣され、このアカデミーにやって来ました」

「……何……!? 皇室……だと!?」


 リリスの言葉にグレイソンだけではなく、その場に居た全員が驚いてザワめく。


 リリスは皇族の血を引く騎士で、アルフレッド侯爵やその令息であるグレイソンの悪行を暴く為、情報を集める為に皇室から派遣されてきたらしい。

 アリーファと皇太子は幼子の頃から仲が良く、時が来たら婚約する予定だった。

 それが当然アルテミス公爵に婚約を断られ、疑問に思った皇帝陛下がアルテミス公爵を問いただしたところ、アルフレッド侯爵に弱みを握られグレイソンとの縁談を持ちかけている事を話したそうだ。

 それで、リリスが平民のフリをしてアカデミーに潜入したらしい。


「グレイソン・アルフレッド、並びにアルテミス侯爵! あなた方の悪事の証拠はここにある!」


 リリスは高らかにそう宣言すると、資料の束をグレイソン達へと突き付けた。


「言い訳なら地下牢でするんだな。連れていけ!」


 皇室の騎士団により、アルテミス侯爵とグレイソンは捕まり、連行されていく。

 残された私達はそんな様子を、呆然と眺めるしかなかった。

 リリスはグレイソンから取り上げたアリーファとの婚約の資料を手にすると、それをビリビリに破り捨てる。


「アリーファ様、これで結婚話も無効となりました」


 にこりと微笑みかけるリリスは勇ましく、とても格好良く見えた。


「アリーファ様、オルリカ様、ベルタ様。これまで本当にお世話になりました。今度の事で私なりに恩返しを出来た気が致します」


 リリスは跪くと、私達に深々と頭を下げる。


「ありがとう、リリスさん。ありがとう、皆様。あなた達が居てくれたから私は自由になれましたわ」


 涙ながらに感謝する彼女の手を、私は両手で確りと握りしめた。


「アリーファ様、これからも私達はあなたの味方ですわ」

「ええ、これからもよろしくお願いしますね」


 ベルタも泣きながらながらも何度も頷いて、アリーファへと抱きつく。

 その場に居たリリスも、感動したように目元に涙を滲ませていた。


「素敵な友情ですね。私もいつか、このような友達を持てたら……きっと幸せなのでしょうね」

「リリスさん、あなたも友達ですわ」


 そう言ってアリーファがリリスの手を握ると、彼女は目を丸くして驚いた後。


「ありがとう……ございます」


 嬉しそうに微笑んだ。


 全て片付いた数日後、私は図書館でひとり本を読むリリスのもとへ向かった。


「リリスさん……あなたはやはり、ただの平民ではありませんでしたのね」

「オルリカ様……申し訳ありませんでした。隠していた訳ではないのですが……任務の為にも、自分の出自を公にする事が出来なかったのです」

「そう言う事だったら仕方ないわ。私こそ、探りを入れるような事をして申し訳なかったわね。ごめんなさい」

「いえ、オルリカ様。お気になさらないでください。私は、オルリカ様の事を……その……」

「?」

「……な、何でもありませんっ!」


 リリスが何か言いかけたが、途中で言葉を濁す。


 なんだろう?

 ま、いっか。


「そう? なら良いのだけれど。それで、リリスさんはこれからどうなさるの?」

「私はこのままアカデミーを卒業したいと思っています。皇室からも許可を頂きました」

「そうですか。では、これかも宜しくね、リリスさん」


 私はリリスへと手を差しのべた。


「はい! 宜しくお願いします、オルリカ様!」


 そんな私の手をリリスは強く握り返し、熱い握手を交わしたのだった。


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