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第六章 私に出来る事は


 グレイソンは確かに悪事を働いているが、それは私が公式ガイドブックを読んでいるから知っている事であって、今現在グレイソンの悪事は噂の範疇でしかない。

 確固たる証拠がないのだ。

 自ら調べようにもオルリカの父親の爵位は伯爵で、資金力も権力もない。

 何より、表立って調べればアルフレッド侯爵に妨害され、潰され兼ねないし、下手をすればお父様やお母様に被害が及ぶかも。

 親を大事にしていたオルリカの気持ちは私にも引き継がれていて、親に迷惑をかけたくなかった。

 皇室なら、アルフレッド侯爵やグレイソンの身の回りを隠密に調べる事も出来るだろうが……。


 兎に角、何か行動を起こさないと。


 そう考えた私は、私に向けられたグレイソンの興味を利用する事にした。

 グレイソンの恋人になり内側から内情を探る。

 その為にはグレイソンの接触する必要があった。


 とある屋敷で行われる夜会にグレイソンが参加する事を聞き付けた私は、こっそり夜会へと参加する。

 煌びやかなシャンデリアと豪勢な料理が振る舞われている夜会の会場には、多くの貴族達が集っていた。

 グレイソン好みの胸元がざっくりと開いた露出度の高いドレスを身に纏って、会場に姿を現した私は、一通り周囲を見回しグレイソンを探す。


 グレイソンの目につきやすいようにメイクも派手目にしたけど……大丈夫かな?

 て言うかこのドレス寒い。

 足元もスースーして心許ないし。


 そんな事を考えながらドレスを翻していると、私のその姿を見たグレイソンは迷わず私の元にやって来た。


「こんばんは、オルリカ嬢」


 グレイソンが愛想の良さそうな笑みを張り付けて挨拶してきたので、私は営業スマイルで愛想よく微笑み返す。


「ごきげんよう、グレイソン様」


 私は礼儀正しくカーテシーをして見せた。

 グレイソンはアバズレも好きだが、礼儀正しく大人しそうな貴族の令嬢を乱す事に快感を覚えるらしい。


 このヘンタイめ。


「こんな所でお会い出来るなんて運命的だな。まるで僕達が結ばれる事を、神様が祝福しているようだ」


 よくもまぁ……歯が浮くようなセリフをペラペラと……。


 引き攣りそうな笑みを堪えて、私は色っぽい眼差しで背の高いグレイソンの顔を、上目で見上げた。


「本当に……そうですわね」


 潤んだ瞳で見詰めて、その身体に然り気無く触ってみれば、グレイソンは驚いたように目を見開き頬を赤らめる。

 かと思えば、身体を寄せてきて、アカデミーの時のように耳元に顔を近付けてきた。


「今宵の君は……何だか接客的だな? アカデミーの時とは真逆だ」

「あの時は……アリーファ様の目もありましたし、隠しておりましたが……じつは私……初めて見た時から……グレイソン様の事が気になっておりましたの」


 色っぽく囁き返せば、グレイソンは私の腰に手を回してくる。


「ならば……僕と一緒にもっと楽しいトコロへいかないか?」

「もっと楽しい……トコロ?」


 グレイソンは私の腰に手を回したまま夜会の行われている会場から出ると、手慣れた様子で客間へと向かった。

 客間のドアを開けると、一応客間の体を成す為にキャビネットだのソファだのは置いてあるが……部屋の中心にベッドが置いてあるし、大きさもキングサイズだ。

 そこはいかにも“やり部屋”と言いたげな部屋だった。


「まぁ……とても大きなベッドがあるのですね」

「それはそうだろう。僕と君が愛を育む為の場所だからな」


 そう言うとグレイソンは腰から手を放し、私の身体をベッドへと押し倒す。

 グレイソンの顔が近付いてきて、キスをされそうになり私は咄嗟に口を手で守り顔を逸らした。


「キスは嫌いか?」


 しまった……!

 あまりにグレイソンが嫌すぎてキスを拒んじゃった……!


 私は一瞬焦ったが、恥じらう乙女の演技をする。


「いいえ……でもっ……き、キスはっ……結婚する殿方としかしないと決めておりますの……」

「お堅いな。そう言う所も嫌いではないが。……まぁ良いだろう。僕の側室になってもらった際は、思う存分キスしてやる」


 絶対に御免だわ。

 とは言えない……。


「楽しみにしてますわ……」


 グレイソンの首に腕を回し、身体を引き寄せた。

 キスは拒んだか、貞操を失う覚悟は出来ている。


 これでも一応、前世では彼氏とか居た事あるし。


 グレイソンは露出された私の首元に顔を埋め、鎖骨にちゅっとキスをしてきた。

 あまりの不快さに身体が強張る。

 すると、グレイソンは私の身体から離れた。


「グレイソン様……? どうなさったの……?」

「オルリカ嬢。君は嘘を吐いているな」

「……え」

「僕に気があると言うのは嘘だ」


 バレた……!?

 どうして……!?

 いや、今悟られる訳にはいかない……!


「な、何故そんな事をおっしゃるの!? こんなにもお慕いしておりますのに!」


 私が声を荒げると、グレイソンはプッと吹き出し、声を出して笑い始める。


「知っているか? 人は身に覚えの無い事を言われると驚くが、図星をつかれると怒り出すんだ。……今の君のように」

「……っ!」

「最初から何かあると思っていたよ。大方、僕の恋人になって、お父様や僕の内情を探るつもりだったんだろう?」


 そんな……。

 全て……読まれていた……だなんて。


 グレイソンがただの悪党ではなく、頭のきれる人物だと言う事を、まざまざと見せ付けられた気がした。

 本当はアリーファのように親の弱みでも握って、私の事を手に入れようと思っていたようだが。

 私の両親は清廉潔白で、どんなに調べても弱みになるような情報は手に入らなかったようだ。

 兄弟でも人質にとっていう事を聞かせようかともしたらしいが、幸いにも私は一人っ子で、人質になるような親戚もいなかった。


「まぁ、女の一人、手に入れる方法はいくらでもあるが。今夜は見逃してあげるよ、麗しのオルリカ嬢」


 そう言い残して、グレイソンは客間を後にする。

 一人客間に残された私は、膝を抱えて、顔を埋めた。


 私は。

 無力だ。


 乙女ゲームに転生したのだから、と、私はどこかで自分に特別な物と勘違いしていたのかも知れない。

 前世でも、その前も、漫画や小説のように上手く行く訳なんてないのに。

 そもそも私は、ヒロインの“リリス”でも、悪役令嬢の“アリーファ”でもないのだから。


 自分の無力さに打ちひしがれていると、客間の扉が勢いよく開かれる。


「オルリカ!! 大丈夫!?」


 顔を上げて扉の方を見ると、そこにはアリーファが居た。


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