第四章 アリーファの憂い
ある日、アリーファが私にある事を打ち明けてきた。
「オルリカ、実はわたくし……意図せぬ結婚を迫られていますの……」
その声は弱々しく、怯えたように震えている。
こんなに怯えて……一体どうしたんだろう?
「えっと……どなたと結婚するように言われているのですか?」
「アルフレッド侯爵のご令息よ。あの人は……とても恐ろしい人なの……」
えっ……!?
アルフレッド侯爵のご令息って……あのグレイソン・アルフレッド!?
アルフレッド侯爵の令息、グレイソン・アルフレッド。
彼はゲームの中でも悪役として登場し、多くの女子生徒を苦しめていた人物だ。
現実の世界でも黒い噂が絶えない。
彼は狙った女はどんな手段を使っても手に入れ、飽きれば捨てる。
それもただ捨てるのでは無い。
グレイソンは性に奔放で、手に入れた女を身も心もボロボロになるまで弄ぶ。
使えなくなったり飽きた女は、平民であれば娼館送りにされ、貴族の娘であれば変態貴族へ性奴隷として売り払われる。
でも顔だけは国内でも指折り数えても上位に入る程良く、また紳士的な振る舞いに騙され被害者の女性は数知れなかった。
そう『恋する薔薇の園』の公式ガイドブックの裏設定でも書いてあったし。
何もかもゲームと違うこの世界でも、グレイソンの性格はゲームと変わらなかった。
必要悪と言う奴なのだろうか?
腹立たしい事だ。
……何にしても、そんな彼がアリーファに結婚を申し込んだ……か。
アリーファ曰く、アルフレッド侯爵はアリーファの父親であるアルテミス公爵の弱みを握り、息子をアリーファと政略結婚させようと画策しているらしい。
だから皇太子と婚約していなかったのか。
「あんな人と結婚だなんて……わたくし絶対に嫌ですわ!」
確かに……そんな危険な男のもとへ嫁ぐなど、どんな事をされるか分からない。
アリーファが怯えるのも無理はないだろう。
涙ぐみながら叫ぶアリーファを、私は思わず抱きしめた。
「大丈夫です、アリーファ様。私がついています」
「ありがとう、オルリカ。あなたはわたしくの本当の友達ね」