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楽園のからくり

 楽園へと通じる階段をゆっくりと登っていく。




「階段なんて登るの、久しぶりだなぁ。」


 俺は率直な感想を漏らした。




「なぜ階段にしているんだろうか?」


 


健崎は冷静に語る。


 


言われてみればそうだ。この時代階段なんて珍しい。しかもこんなに金がかかっていそうな施設なのに。




「運動も業務内容ってことで、いいんじゃない?」


 


 ポジティブな恋羽の言葉に、緊張感や不安が薄れる。


 


 階段を登るとそは室内だった。


 


外から見えていた大きな建物から出るとそこには「楽園」が広がっていた。




 緑のあふれる庭園。さえずる鳥。花壇を彩る花々。


 これが「楽園」なのか。




「す、すごい!」


 思わず口に出す。


「きれいなお庭ー!」


 恋羽は無邪気に庭園に駆け出す。




 俺はゆっくりと歩いて追いかける。




 一人建物の入口に残っている健崎が案内ロボットに質問する。




「なぜ誰もいないのですか?3つの区切られた施設があって被験体を移動させているのではなかったのですか?」




 鋭い質問に対しロボットは答える。




「確かに施設は3つありマス。でも入れ替えを何度もしていると被験体が監視員が入ってきたことに気づいたりしませんカ?」




「なるほど」




「ABC3つの施設があるというのは本当デス。でも実際に同時に稼働しているのはABCの内の2つデス。」




「3つあるように見せかけることで見たことのない住民がいてもごまかしが効くように調整できるというわけで、監視員を忍び込ませるのにもちょうどいいシステムってことですね」




「流石ですネ。医者の息子なだけありマス。」




「それはもう言われ飽きたからよしてください」


 するとロボットは黙り込んでしまった。




「おーい!こっちに来いよ!」




「ほらほら!もっと楽しまないと!」


 遠くから2人に呼ばれ、健崎も向かう。




「せっかくの楽園だしな!」


 健崎らしくもないセリフを放つ。




 彼も先ほどのことは忘れて庭園へ入ってきた。やはり勉強漬けの生活からの開放に喜びを感じているのだろう。




 しばらく3人で雑談をしながら庭園を見て回っていると建物の方からロボットがやってきて




「お時間デス。参りまショウ」といった。




 俺には感情のこもっていないようでどこか不気味さを感じるところがあった。




「ついに対面するのね……被検体の人たちと……」




 先程まで無邪気にはしゃいでいた恋羽の顔が緊張で少し歪んでいる。




「大丈夫だよ。仕事とはいえここは楽園だ。きっと楽しくなるよ」


 俺がそう言うと彼女も




「そ、そうね。気楽に行きましょ!」




「国の仕事だ。福利厚生もしっかりしてるにきまっている」


 健崎も不安になる恋春を励ます。




 ロボットは突然パノプティコンの壁際に来ると、隠し扉のようなものを開けた。




「「「そこ開くの!?」」」




 本当にびっくりした。セキュリティがあるとはいえ、被検体に見つかったりしないものなのか?




 2人も驚きを隠せていない。




 隠し扉をあけるとフローリングの床が広がっていた。




「これから1年間あなたタチが暮らす家デス。こちらで明日の朝まで待機していただきマス。それまでは玄関のドアは開きまセン」




 どうやら明日の朝にシャッフル後の住民と顔を合わせるようだ。




 家に直接つながっていたのか、確かに始め外から見たときも家は壁側にピッタリとくっついていたな。




「え?3人で?」


 突然恋羽が戸惑いながら質問する。




「ハイ。ソウでございます」




「私、年頃の男の子2人と同棲するってこと!?」




「話のジャンルが変わりそうな発言はよせ!」


 おっと、俺としたことが失言を……




「俺達がやましいことを考えているとでも思っているのか?もしそう思っているならやましいのはそっちの方だろうに」




 健崎が反論する。




 これには恋羽も「そ、そういうわけじゃないけど」




 ひと悶着あったが、なんだかんだで俺達は同居することになった。




 家は2階建てで、1階はリビング、キッチン、トイレ、風呂、洗面所などがあり、2階は3人の部屋が別々に用意されていた。




 部屋が1つとかいう展開を期待していた人には申し訳ないが、非常に住みやすそうだ。


 明日の朝になればドアが開き、被検体と対面する。




 怪しまれないようタブレットで見ることのできる施設の情報を3人で確認することにした。




 被験体にバレないのも一苦労かもしれない。


 


 3人でタブレットを覗き込み、ビル内の施設を確認する。


 


 1階 カフェテリア ロボット調理の美味しい食事がいつでも食べられます!




「美味しいご飯!?早く食べたいなあ〜」


 恋羽は1階から欲望丸出しだ。と言っても、俺もすごく魅力的に思う。きっとキッチンを使うことはないだろう。




「こりゃ1年後の体重が楽しみだ」


 健崎がいじるように言った。




「ノンデリメガネェ!」恋羽が怒りをあらわにする。




 それを軽くあしらう健崎。流石に口論では勝てなさそうだ。




 というか2人共こんな感じだったっけ……?




 緊張がとけてきていい感じだということにしておこう。




 2階 注文センター タブレットで注文した品を受け取れます。




「本当になんでも注文できるみたいだな」




 通販サイトと同じくらいの品揃えに驚きだ。注文してから12時間以内に到着という速さも魅力的だ。


 


 3階 レクリエーションルーム




 ダーツ、ビリヤード、ボウリングなどたくさんのレクリエーションが楽しめます。




 「結構いいじゃないか」


 思わず興奮して声が出てしまった。




「明日早速行ってみましょ!」


 恋羽は機嫌がもうなおってしまったようだ。意外とちょろい。


 


 4階 図書館




 様々なジャンルの本を取り揃えています。





「外界の本があるのか……?」


 健崎はまた疑問をこぼした。




「きっと検閲済みのだろ」




 流石に外界について書かれた本があっては良くないだろうから流石にフィクションばかりだろう。


 


 5階 監視室




 建物内の監視ができます。少しの期間なら遡って見返すこともできます。


「監視ツールを被験体に与えるのか……?」




 疑問点が多いが明日以降の探索で理解することにして結局各自部屋に戻って眠りについた。




 ベッドに入るとすぐに眠りについた。




 一日いろんなことを見たり驚いたりして思っている以上に疲れていたのだろう。




 きっと明日から楽しい日々が待っている。




 だってここは「楽園」なのだから。




 続く

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