表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみは無慈悲な夜の女王 ~リュシオル・ファナーリは間違える~  作者: 中村朱里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/35

32.犬のための本当にぶよぶよとした前奏曲

「さっきはよくもやってくれたなぁ!!」


そして始まった極めて一方的な暴行は、まるで嵐のようだった。


リーダー格の男の命令を守って、顔だけは狙わないでくれているが、それにしたって後はやりたい放題好き放題である。

殴り、蹴り、踏みにじり、唾を吐きかけ、嘲り笑う。


私が表情も変えず声を上げないことがよっぽど気に食わないらしく、ますます暴行はヒートアップしていくけれど、誰がお前達のために泣いてやるものか。

私のすべては、カルルのためだけのものだ。


「兄上、兄上っ! やめろ、やめて、兄上ぇえっ!!」


ああ、カルルが泣いている。

リーダー格の男に頭を固定されているせいで視線を逸らすこともできず、泣き叫びながら私に手を伸ばしてくれる。


いいの。いいんだよ、カルル。

こんなの、痛くなんてない。苦しくなんてない。

大丈夫。大丈夫だから。見たくないなら目をつぶって。

何も見なくていいの。

ごめん、ごめんね、こんな姿を見せてしまって。

大丈夫、大丈夫なんだから、何一つ心配する必要なんてないのだから、だからお願い、どうか泣かないで。


だいたいそもそもこの程度、父上様からたまわるありがた~~い戦闘訓練の日々に比べれば本当に大したことないしな。

はははは、まさかここで父上様に感謝する日が来るとは思わなかったわ。

ありがとうございます、地獄に堕ちろクソ親父。


私が悲鳴を上げるどころか、微笑みすら浮かべていることに、余計に男達はいきり立つ。

そろそろ虫の息になり始めた私の胸倉を掴み上げ、いかにも腹立たしそうに、苛立たしげに、男達は唾を吐き散らかしてがなり立てる。


「かっわいくねえな! ああああくそ、なあアニキ! このサークレットが無事なら、何してもいいってことにしやせんか!?」

「おっいいじゃねえか! そうっすよアニキ、そっちのチビほどじゃねえが、こいつはこいつでおキレイなツラしてるし、男でもオレ、イケるっすよ!!」

「なっ!!」


あ、それはさすがの私もちょっと嫌かも、なんて私が思うかたわらで、男達の言葉の意味をどうやら正しく理解してしまったらしいカルルが顔色を変えた。


おいこれちょっと待て、誰だ私のかわいい弟にそういう余計極まりない下世話な話題の理解の仕方を覚えた馬鹿は。


私が表情を変えずとも、カルルのその反応がいたくお気に召したらしいリーダー格の男が、さも重々しく、そしてそれ以上に何よりもいやらしく頷いてみせる。

私の服に男の手がかかって、破り裂かれて、そして。


「――――ははっ! こりゃあいい、お前、女か!!」

「~~~~~~~~~~あにうええええええっ!!」


あらわになった肌と、無理矢理締め付けている無駄な胸の脂肪を見て、男達が笑み崩れる。

カルルの悲鳴が上がって、その悲痛さが気に障ったらしいリーダー格の男がカルルを殴りつけ、倒れ込むカルルを踏み付ける。



――――――――――ぶちっ!



私の中で何かが音を立てて切れて、そのままそれが燃え尽きる感覚がした。

何本もの薄汚い手が伸びてきて、私の額のサークレットを奪って、それが放り投げられて、そして。


「お、まえ、カーバンク……ッがああああああああああああっ!!!!」

「うわ、ひ、あつ、熱っ!! あが、あがああああああああああああああああああっ!!」

「やめろ、やめ、ぎゃ、あああああああああああっ!?!?!?!?」


ほのお、が。

炎が、燃え盛る。


額が熱い。まるで燃えているみたい。

変なの。

燃えているのは私ではなくて、汚らわしい男達のほうなのに。


燃えろ、燃えろ。燃えてしまえ。

そして思い知るがいい。

私のかわいい弟に手を出したことを、地獄の炎に焼かれて後悔しろ。


身の内からあふれ出る炎が止まらない。

何もかもを根こそぎ舐めるように、炎が燃え広がっていく。

しりもちをつくように座り込んでいる私を中心に、炎はいっそ美しいくらいに見事に燃え広がっていくばかりだ。

それをただぼんやりと見つめて、そして、悲鳴を上げたくなって、でも、声にならない。


どうしよう。なんてことだ。だめ、だめだ、カルルが。


意識を失って倒れ伏しているカルルを、巻き込んでしまう。

それだけは駄目なのに、そんなことは誰よりも解っているのに、どうして、どうして、どうして!

どうして私は、炎が抑えられないの。

どうして私は、動けないの!!


カルル、カルル、私のかわいい弟、私の光、私の運命、私が死なないでいられる理由。


お願い、お願いだから誰かカルルを助けて。

私はこのまま燃え尽きたっていい、どうなったっていい、ただただカルルが無事ならそれでいい、それだけなのに、どうしてそんなことすら私は自分で叶えてあげられないの?


「か、る、る」


だれか、たすけて。

そう音にすらできずに呟いた声音に、対する答えは、誰からも得られない。


そう、そのはず、だった、のに。



「――――派手にやっているな」



何もかもがあいまいになっている思考に斬り込んでくる、涼やかな声音。

燃え盛る炎の中ですらなおも上品に、優雅に、まるでそよ風に吹かれているみたいに、そこに立つ、私の“父”。


ファナーリ家当主、グラナート・ファナーリが、気付けばそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ