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きみは無慈悲な夜の女王 ~リュシオル・ファナーリは間違える~  作者: 中村朱里


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24.人々、汝らを除名すべし

私が譲る気がないことを悟ったのだろう、リヴァルは悔しそうに歯噛みをして、やがて低く「解った」と唸った。


「その代わり、次に会ったときは、必ずまた勝負しろ。そして俺が勝ったら、また俺の願いを聞いてもらうからな」

「またそれか」

「また、で、悪かったな!!」


噛みつくように怒鳴り付けられ、思わず溜息を吐く。

先達ての夜、私がその願い通りに『リヴァル』と名前で呼ぶようになったことが、どうにもお気に召したらしい。


大人しく”ファナーリの申し子”が願い事という名の命令に従ったことを誇るのはまあそうだろう、そうだね、私が言うことを聞くのは基本的にカルルと父上様だけなので、リヴァルは例外中の例外を叶えたことになるのだから。

とはいえ今度こそ何を願われるのか解ったものではないので、今後一切私は負けるつもりはなく、現状その通りの勝利記録が続いている。

それでもなお諦めないのだから見上げた根性だ。


「きみも飽きないね。そこまで私に何をさせたいの?」

「そ、れは」

「うん。聞くだけ聞きたいのだけれどな。内容によっては、勝負に関係なく叶えてあげるのもやぶさかではないよ」

「~~それじゃ、意味がないだろうが!!」

「そうなの?」

「~~~~そ、うだ! 俺は、俺が勝ったら、リュシオル、お前と……っ!」

「うん、私と?」

「~~~~~~俺が勝った時にちゃんと伝える! だからそのときは、絶対に俺の願いを聞いてもらうからな!」

「ええええ……」


それができるか解らないから今のうちに検討しておきたいのに、リヴァルはなぜかいつぞやのように顔を真っ赤にして、びしっと私に人差し指を突き付けてくる。


そうは言われてもなあ、どうしようかな。

そもそもの話をここですると、リヴァルの願い事を叶えるという条件について、あまりにも私にメリットがない。

私もまた「私の願いを叶えてもらう」と言い出したら、リヴァルはどうするつもりなのだろう。

今のところ戦闘訓練代わりにしているからこそ私からの条件を提示していないだけで、私にもその権利は発生するはずなのに。


うーん、次の勝負で、「きみの願い事を教えろ」とでも言ってみるべきか……と、ついつい難しい顔をしていたら、リヴァルはそれを私の苛立ちと受け取ったらしい。焦ったように彼は「俺だって!」と声を荒げる。


「お前が言わないから聞かないだけで、リュシオル、お前が言うのなら、お前の願いを叶える覚悟はできている! だから、何だって俺に言えばいい。そうでなけば、その、不公平だろう」

「いや別にいいよ」

「っ!」


私の願いも望みも、リヴァルには逆立ちしたって叶えられないことなので、だったらこのままひたすら私の戦闘訓練に付き合い続けてくれればいい。

それ以上は別に特に何もしてほしいとは思っていない。

だからそんな覚悟など不要なのだと安心すればいいのに、なぜだかリヴァルは大層傷付いた表情を浮かべた。


本当にこんなにも自分の感情が制御できないで、今後大丈夫なのだろうか。

まあ確実にリヴァルは将来、国に重んじられるカーバンクルとして“完成”するだろうから、まだ“未完成”である今のうちだけなのかもしれない。

そういうことにしておこう。私がフォローする義理もない。


さて、そろそろ馬車が用意できる頃合いだ。


「それじゃ、私はこれで。……せいぜい休暇のうちに研磨して、次こそ私に勝ってみせてね」

「……っああ! 絶対に、お前に、勝つ!!」


そう、フォローする義理は一切ないのだがしかし、まあ、今後も私に都合のいい障害になってもらわねばならないので、挑発はしておく。

鼓舞ではない。あくまでも挑発、質のよろしくない煽りである。

リヴァルとてそれが解っているだろうに、それでもたやすく挑発に乗ってくれるのだから、本当に将来が他人事ながら心配になる。まあいいけど。


そして私は今度こそきびすを返して歩き出す。

リヴァルの視線が背中に突き刺さるのを感じたけれど、すぐにそれは消え失せた。

私の背後をついてくるベルが、リヴァルからの視線をその華奢な背で遮ったからだ。


ベルはベルでそのまま物言いたげな視線を寄こしてくるので、肩越しに軽く振り返ってみる。

ばちん、と、紫の瞳と目が合った。

そこに宿る光は、先ほど見たばかりのリヴァルのそれとそっくりだ。


「ぼっちゃま、あの小僧の二番煎じとなるのは大変癪ではございますが、わたくしベルとて、ぼっちゃまが望んでくださるのであれば、あらゆる願いを叶えてみせる覚悟にございます」

「知っているよ」

「はい」


ベルに望むことは、私に知識を授けてもらうことで、後は普通に日常生活の手伝い、それから将来的には私にとって使える手駒になってもらうこと。

言わずともベルはそれを理解してくれている。

だからこそ彼は微笑んで頷きを返してくれるので、私はまた前を向いて歩き出す。


ああほら、ファナーリの馬車が見える。

一年ぶりの”実家”に、私は今から帰還する。


そして一年前と同じように三日後。

眼前にそびえたつは我らがファナーリの牙城である。

いざカルルのもとへ……と言いたいところだけれど、一応その前に父上様にご挨拶だ。


「一年ぶりだな」

「お久しぶりです」


一年も経過すれば何か変わるかと思いきや、父上様は何もかも相変わらずでいらっしゃる。

この人はもう“完成”しているらしいので、容姿も何も変わることはなく、何もかも若々しいまま、そこに立つだけで圧倒的な存在感と覇気を放つ。

ここで気圧されてはたまったものではないので、素知らぬ顔で粛々と礼を取ると、くつくつと彼は笑った。

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