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ロッテは目覚めると、俺に深く頭を下げて言った。
「お願いします。
私を弟子にしてください。
偉大な偉大なマスター・ブルーレッド様のお弟子様ならとっても偉大だと思います。
私が寝ている間ロボ丸を改良してくださったんですもの!
どうかどうか何卒よろしくお願い申し上げます。」
いや、師匠は偉大というより厄介だと思うぞ。
それよりも俺は弟子を取る気がない。
「申し訳ないが、俺は弟子を取ろうと思っていないんだ。」
ロッテの目に涙が浮かぶ。
俺はこういうのに弱いという自信がある。
「それこそ、師匠が戻ってきたら弟子入りを志願すればいい。
いつ戻ってくるかはわからんが、それまでだったら好きなだけここにいればいい。
戻ってくるなら多分ここになるだろうからな。」
いつ戻ってくるかもわからんし、そもそも戻ってくるかもわからん。
生きているかどうかすらわからない。
気が済むまでここにいればいい。
先の見えぬ不安からいつか諦めるだろう。
俺もいつかは待てなくなる日が来るのかもしれない。
「まあ、師匠は情に弱い所があるから多分弟子にしてくれるだろう。
俺のことは兄弟子とでも思ってくれ。」
それが俺の妥協できるラインだ。
師匠にまだ教わり足りない未熟者の俺が弟子を育てられるわけがない。
「ありがとうございます。」
ロッテは深く頭を垂れる。
「私、お師匠さんが戻ってくるまでこちらで待たせてもらいます。
本当に心の広さに感謝します。
ところで、どうやってロボ丸を改良したのですか?
ロボ丸はごはんが食べられなかったと思っていたんですが。」
そう、ロボ丸は上品に果物を口にしている。
「ロッテ様ガ、ワタクシヲ合成サレタ時ノ事ヲオ話シシマシタ。
ワタクシニ人格ヲ形成シヨウト魔方陣ヲ作成シ、AIト融合シヨウトシタ時ニ
ウッカリ精霊ガ魔法陣内ニ侵入シタ時ノ事デス。
ロッテ様ハナントナクイケルト思ッテ、ソノママ魔法陣ヲ発動サセタラコウナリマシタト説明イタシマシタ。」
頬を赤くしてもじもじしながらロッテが続ける。
「なんとなくイケるかなぁって思ったんです。
いつも錬金術は、思っているのと違う結果になっちゃって。
みんなはロッテならできるよって言ってくれるけど、
思った通りにできるようになりたくって師匠に弟子入りしたかったんですぅ。」
多分それはなんとなくイケるはイケてないってことに気が付いたら解決できると思うぞ。
ソファーでゴロゴロしていたワンコロも続ける。
「ロッテは失敗ばっかりだから、心配で僕が見ててあげるの。」
子犬に保護者発言されるとは。
中身は災害級の幻獣だけれど。
「おそらく、動力装置として一部の精霊がコアになってくれたため精霊の魔力が動力源になったものと思われる。
その精霊自身が生成する魔力では足りないという事だと考えたんだ。
という事で、コアでも魔力生成が可能な状態で外部からも魔力を変換してコアに蓄積できるように少しいじっただけだ。
大したことはしていない。
外部からの魔力供給は魔力を含むものなら何でも大丈夫だ。
魔力が濃いものほど効率よく摂取できる。
そのあたりはワンコロが詳しく教えてくれた。大変優秀で知識も豊富なんだな。」
金属と精霊の融合なんて聞いたことがない。
やれば出来るものでもないと思うんだが今度試してみる価値はある。
ただし、精霊を捕まえることができればだが。
ロッテに説明した俺は更に注意事項を述べる。
「そもそもメカやロボは外部からのエネルギー供給が基本だ。
ロボ丸の設定として、食べ物を体内に取り入れバイオ技術で液状にして燃料にしているとしたほうがいいだろう。
そしてあくまでもロボットだからAIで会話しているという設定だと皆が納得するだろう。そう間違ってもいないしな。
あとはワンコロだが、訓練でお話しできるようになったという設定にした方がいい。
舌の構造を見たが人類とよく似ている。
人間も精霊種と融合したんだ。
同じ原理で錬金術の実験中にたまたま狼と融合してしまったことにしよう。
偶然の産物だから再現性は低いこととする。
しゃべる動物が欲しい奴には偽のレシピを渡すが、後は各自頑張ってくれという方向でいこう。
隠すとバレた時に大変なことになるからな。
すべてを隠すより本当に隠したい一部だけにした方が信憑性は高くなる。
言わなければバレない、調べなければバレない事以外は隠さないようにしよう。」
まて、お前ら。
キラキラした目でこちらを見るんじゃない。
大人の処世術だ。
「これから一緒に住むことになると思うが、
ルールは“わからないことは聞くこと”だ。
相談でもいいしとにかく何かあったら話せ。
俺は薬師を営んでいる。
一階は店舗と生活スペースだ。リビングとキッチン、浴室などがある。
地下は倉庫。二階は作業室と俺の部屋と師匠の部屋がある。
それ以外の使われていない部屋は好きに使っていい。
質問は?」
尋ねた俺にロッテが答える。
「ありがとうございます!
今は質問がありませんが、わからない事がでてきたらその都度聞きます!
ありがとうございます!」
こうして師匠を待つ俺たちの共同生活が始まった。
波乱万丈の予感しかしない。