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目の前に何かいる。
ただならぬ気配がする。
障害物も何もない荒れ地の真ん中に点のような大きさが見える。
おそらく距離にして400mから500mくらい。
俺は、ひとつ深呼吸をして考える。
ギルドに所属するものとして災害級の何かを調査するべきか。
それともこのまま立ち去ってギルドに報告するか。
……調査するべきなんだろうなぁ。
分かっているものの気が進まない。当たり前だ。面倒事の予感がプンプンする。
ただ、立ち去ったとしても結局俺が調査することになりそうだ。それだったらここでさっさと事を終わらせたほうが負担は少ないはず。
でも、面倒事の予感がする。極めて遺憾だが、俺の勘は良く当たる。
どちらにしても面倒事に巻き込まれるならば、程度が軽い方がいい。他の奴らと再調査に来ることになったら更に面倒なことになる気がする。
気が進まない俺は、腰の位置を深くし物陰に隠れるように歩みを進めた。
距離にして10m進んだくらいの所の岩陰に隠れる。
この辺り一帯は、師匠がやらかしたせいで草木も生えない土地になってしまった。
おかげで標的に見つかりやすい。
俺は慎重に標的を観察した。
はずだった。
目の前に大変かわいいわんこがいる。
毛並みはふさふさでシルバーにつやつや光っている……災害級のオーラがまるで可視化したようだ。
おまえだったのかぁぁぁあ!
いや、待て。
見えていたのはもう少し大きいサイズだった。
もしかして、このわんこに食べられかけている何かがいるのか?
災害級のわんこに見つかってしまった俺は、岩陰から隠れる事もなく標的のいた付近を見る。
やはり、何かはまだ動かずにその場にあるようだ。
どうしたものかと思案する。
素早く適切な判断は冒険者の基本だ。俺は冒険者じゃないけれど。
わんこがうるうるとした目で俺を見つめる。
なんだろう。すごく悪いことをしている気分になる。
「どうした?」
俺はわんこに問いかける。その潤んだ瞳で見つめられると、話が繋がらないとわかっていても話しかけずにいられない。
わんこは俺のマントの裾を咥えて優しく引っ張る。
あまりの可愛さに堪らず俺は問う。
「わかった。ついてきて欲しいのか?」
わんこは軽くうなずくと歩みを進めた。
標的のいる方へと。