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婚約覇気お礼参り嬢。その場で王子にジャーマンスープレックス、王にアキレス腱固めを決める。シュートの合図を無視して他の男に泣いて縋る?そんなブック【お約束】は不要!即ぶちのめせばいいではありませんかッ!

作者: 福郎

一応連載候補。一応。

「レイチェル! 君との婚約は破棄させてもらう!」


 突然の凶行に、パーティー会場は静寂に包まれた。


 キャンベル王家の王太子、マクシミリアンは若き美男子である。


 冷たい美貌とも称される金髪碧眼の彼は、あらゆる女性を惑わす覇気を纏っているが、同時に気が強いため扱いにくい人物としても知られている。


 その気の強さが悪い方向に働いたのだろう。マクシミリアンは許嫁を勝手に決められたことが気に入らず、その相手である公爵令嬢、レイチェル・クラークに婚約破棄を言い渡したのだ。


 哀れである。


 レイチェルもまたマクシミリアンに劣らぬ美貌の持ち主だ。


 腰まで流れるウェーブのある金の髪は美術品のように煌めき、パチリとした青い瞳は宝石のようだ。そして世の貴婦人が羨むほどにスタイルがよく、マクシミリアンの隣にいることができたなら似合いの二人になったことだろう。


 だがその白い肌はうっすらと赤みを帯び、屈辱と羞恥に身を震わせる……程度の女なら色々楽だった。


「てばゃ!」


 奇声が響く。


 込められた意味を翻訳すると、手順を踏めやこの馬鹿野郎。と言ったところか。だがマクシミリアンに、意味だけではなくその奇声を理解する暇があったか定かでない。


「むっ⁉」


 マクシミリアンは顔に急接近した女性用の、長いオペラグローブを手に取る。


 それ即ち決闘の成立である。


 赤いドレスが舞い、レイチェルが床の絨毯を踏みしめ飛翔するかのように襲い掛かった!


「むおおおお⁉」


 あれよあれよという間の出来事。


 一瞬でマクシミリアンの背後に回ったレイチェルは、男の太い腰をがっちりと抱え込み、その勢いのまま体を思いっきり反る。


 美しいアーチが描かれた。


 ブリッジの姿勢となったレイチェル。


 頭からふかふかの絨毯に叩きつけられ失神したマクシミリアン。


 勝者は一目瞭然!


 これぞ秘儀・ジャーマンスープレックス!


「ご安心なさい。表の技で死ぬことや後遺症が残ることはありませんわ。ましてやこの絨毯があったのなら尚更のこと」


 マクシミリアンは白目を剥いて口から泡を噴き出しているが、彼を床に放り出したレイチェル曰く、表の技で重傷者が発生することはないようである。


「まさかこの私が、婚約破棄を受けてめそめそ泣いたり、他の男の手を借りて復讐を計画するような女と思っていたのでしょうかね。舐められてその場でけじめをつけられないのなら公爵令嬢の名折れ! 必要なら歯でも爪でもなんでも使うッッッ!」


「おおっ!」


 相手が婚約破棄ならレイチェルは覇気! 公爵令嬢として見事な啖呵! 辱められたから今すぐ! その場で! 有無を言わさずけじめをつけたのだ!


 これにはパーティーの出席者も感嘆の声を漏らし、模範的な貴族の鑑を称える雰囲気で満ちた。


 しかし、次なるレイチェルの行動には肝を潰す。


 彼女の視線の先には四十代ほどの男性がいた。


 苦労したのか肩まで伸びた金髪には白髪が混じり、青い瞳が輝く目の周りは皺が刻まれている。


「もう一人けじめをつける必要がありますわねえ。そうでしょう未来の義父様。いえ、元未来の義父様。息子さんの教育はどうなっていまして?」


 なんとレイチェルは残ったもう片方のグローブを、マクシミリアンの父。つまりは現国王のトラヴィスの顔に投げつけたのだ。


 しかもトラヴィスはそのグローブを握ってしまい、決闘が成立したではないか。


「全面的に私が悪い。しかし、決闘を申し込まれたとあっては避けられないのが王だと分かっていような?」


「おほほほ。ご自分が勝てると思っているあたり、親子揃っておめでたいですわね」


 王は頂点なのだ。そうであるが故に、目と鼻の先にいる者に決闘を申し込まれたなら受けねばならない。例えそれが息子のやらかしの結果だとしても、全力で戦う必要があった。


「ならば言葉は不要」


 トラヴィスがごきりと首の骨を鳴らし、貴族社会の中心に相応しい闘気を纏う。その闘気はすさまじく、パーティー会場の空気が揺らめいているような錯覚を他の者に与えた。


 しかもだ。


 トラヴィスは全身全霊である。


(あれは王の構えッ!)


(実在していたのか!!!)


 トラヴィスの行動に貴族達が慄き震える。


 王の構え。


 それは頭に被った王冠を守るかのように腕を上げて肘を曲げ、掌で優しく王権の象徴を包む構えである。


 この態勢になった者は百万の軍勢が襲い掛かろうと凌ぎ、ドラゴンから迸る灼熱の吐息すらも打ち消すと伝えられていた。


「しゃらわっ!」


 だがレイチェルは、しゃらくせえですわ! という意味を込めた気合の叫びを発しトラヴィス王に襲い掛かる。


 愕然。


(こ、これはっ⁉)


 トラヴィス王の右腕を掴んだレイチェルは、がっしりと大地に根を張った万年樹の巨木を幻視する。


 風雨に耐え、纏わりつくツタにへこたれず、堂々と天に聳え立つ巨木だ。


「どうしたレイチェルよ」


 その巨木が愚かな小娘を見下ろし、天から言葉を発して他の人間を委縮させた。


 これがトラヴィス王。これが貴族達の主。彼こそが王権そのもの!


「この独活の大木があ! はっ⁉」


 迂闊! 咄嗟に叫ぶレイチェルの三下ムーブは、レスラーにとって敗北への片道馬車券! お嬢様失格!


 慌てて平静を取り戻そうとしたレイチェルは一歩下がり、腰を低くして手を突き出した姿勢になる。


「おほほほほ。お見事ですわトラヴィス王。流石は国王陛下と言ったところでしょうか」


「王とは力の象徴。即ち最強の存在が王なのである」


「おおう。おおう。それはそれは。てっきり書類仕事ばかりだから腕が強くなったのかと思いました。ああ、ペンは特注の重り付きですか? それなら納得ですわ」


「口はよく動くようだ」


(ちっ!)


 舌戦を仕掛けたレイチェルだが、トラヴィス王はそれに乗らず不動である。


 伝説に曰く、王の構えは守りにこそ真価を発揮するものであり、カウンターを狙っていたレイチェルは心の中で舌打ちをする。


(膠着した塩試合など許されない。しかし……!)


 令嬢としてのプライドがあるレイチェルは、トラヴィス王の態勢を崩すために彼の前腕を両方とも掴み、思いっきり引っ張った。


「ぐううっ」


 だが無意味! 王の構えをしているトラヴィス王は冷静な瞳で足掻くレイチェルを見下し、下々の努力を寄せ付けない。


 その時、レイチェルの脳に電流が奔った。


(私はなぜ腕に固執を?)


 溢れ出る疑問は、トラヴィス王の腕だけを狙っている自分の戦闘計画だ。そこにはなんの柔軟性もなく、まるで火に突っ込む虫のような考えなしの行い。


(ま、まさか王の構えとはっ!)


 更にレイチェルの脳が活性化して王の構えのカラクリを見抜いた。


「おほほほほほ。王の構えを堪能させてもらいましたが、なんと見事なのでしょう」


「うむ」


 まるで負けを認めたかのようなレイチェルに、トラヴィス王は自分の勝利を確信した。


 しかし!


「王の構え、破ったり!」


「し、しまったああ⁉」


 トラヴィス王はレイチェルが自分の腰めがけて飛び込んでくると、先ほどまでの余裕をかなぐり捨ててしまう。


 更にレイチェルは、その勢いのまま仰向けに倒れ込んだトラヴィス王が立ち上がる前に、腕でトラヴィス王の足を抱え込みながら両脚で挟み込む。


 そしてレイチェルは手首から前腕にかけてを、トラヴィス王の足の腱へ垂直に当てて圧迫した!


 これこそが異なる次元で、大英雄すらも悶絶して降伏するとことから命名されたアキレス腱固め!


「ぐあああああああああああああ!」


 未だかつて経験したことがない痛みを味わったトラヴィス王は悶絶しながら暴れ回る。しかしレイチェルは決して逃がさず、王の構えの弱点を責め立てた。


(王の構えとはそれ即ち、王冠へ手を伸ばしたい人の真理を突いた防御態勢! ならば心を強く保って足を狙うべし!)


 そう。王冠に手を伸ばしたい。奪いたいと思うのは人の本能である。それ故に王は、馬鹿正直に手を伸ばしてくる者達に対処すればいいだけであり、徹底的に腕の力を鍛えて防いできた。


 しかし、類まれなる戦闘本能を持つ一部の者達は、王冠の誘惑に打ち勝って王の構えが想定していない足を狙うことができるのだ。


(痛!)


 一方、トラヴィス王の思考はただ一つ。痛みが足首から脳天に突き抜け、全細胞が今すぐこの痛みを止めろと訴え、涙すらも流してしまう。


 こうなるとトラヴィス王にできることは一つだけである。


「ギ、ギブアアアアアアアップ!」


 巨木、朽ちる。


 天の頂にいたトラヴィス王は床に倒れたまま、自らの敗北を宣言して一刻も早く地獄の苦痛を終わらせることしか頭になかった。


「勝った……!」


 レイチェルはトラヴィス王を開放して立ち上がると、右腕を掲げて己こそが勝者だと誇示する。


「お見事!」


「お見事!」


「お見事でごわす!」


「それでこそ令ス羅ーでごわす!」


 祝福。


 厳つい男達がレイチェルの下克上を祝福する。


 まさに令嬢的戦闘スタイル修羅。略してレスラーとしての本懐。


「見事だレイチェル……この王冠はお前のものだ……」


 その祝福はトラヴィス王、いや、トラヴィス元王も同じだ。


 彼はレイチェルを称えながら、最強の証明である王冠を譲り渡そうとした。


「おほほほ。見くびってもらっては困りますわ。お断りします」


「なに?」


 だがそれをレイチェルは断る。


「私が目指す場所はテッペン。王冠など被れば身動きが取れなくなるではないですか」


 人差し指を天に向け、堂々と宣言する公爵令嬢の姿に全ての者が拍手を送る。


 その姿、その立ち振る舞い。


 まさに公爵令嬢。


「おほほほほほ。おーっほっほっほっほっほっほっ!」


 笑いながら優雅に去るレイチェル。


 楽団も彼女に合わせて勇ましい音楽を奏で、その栄光を称えるのであった。


「学園に通え。ちょっとはお淑やかな作法を身に着けて帰ってこい」


「うげ」


 なおレイチェルの父親はまとも。つまりこの世界基準ではちょっと変人だった。


 レスラーレイチェル。お勉強生活決定!

こんな話でしたが面白かったと思ってくださったら、ブックマーク、下の☆で評価していただけると作者が泣いて喜びます!



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に、肉のカーテン・・・!
いいよねリングに稲妻走り炎で照らされそうな世界観 心に愛がなければ真の貴族にはなれないのさ
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