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パンをくわえて走ってみた

作者: @siva2nd

パンを食べながら走ることは危険ですからマネはしないでください。


「聞いた?高橋君、彼女ができたんだって」

「えー」

「相手は誰?」

「三組の斉藤さんだって」

「いーなー」

「切っ掛けは?」

「それはわかんない」

「えー」

「使えないね」

「使えないってなによ」

「どうやって付き合ったんだろう」

「それよ」

「それよね」

「私も彼氏が欲しー」

「私だって欲しいよ」

「私だって」


 私たちはいつも恋をしたいって思ってる。彼氏が欲しいって。

 でもそんな機会はなかったからクラスメイトなんかの話を聞くだけでも心がときめく。

 うらやましい。


 でも恋がしたい、彼氏が欲しいと思っても誰でもいいって訳でじゃない。

 クラスの中にもちょっとカッコいいなとか思う男子もいるし、優しい男子もいる。だからと言って付き合いたいかと言うと少し違う気がする。

 仮にクラスの中に好きな男子がいたのなら、なんとか君と付き合いたいなってなってるはず。でも、そのなんとか君はいない。

 恋をしたいって思いっているのに恋する相手が存在しない。なんて悲しい矛盾だろう。


 そんなことを考えながら恋愛経験ゼロの三人がコイバナで盛り上がる。

 そしていつもと同じ結論にたどり着く


「出会いがないのよ」


 男子はたくさんいるけど、恋をしたいって相手は見つからない。

 いつもならこの話で終わっているけど今日は違ってた。

 ユウナがおかしなこと言い出す。


「出会いがなければ作ればいい」


 はいはい、合コンですかって思ったら、


「朝、パンをくわえて走ったらいいかも」って。


 アニメや漫画によくあるシーン。誰かとぶつかって恋が始まるってヤツ。

 頭がおかしいんじゃないかと思った。でも、


「それ、いいかもー」


ってリノが乗っかってくる。


 いやいやいや、それはないでしょって突っ込むけど話が進んでいく。

 合コンなんてしたことないし、うちらじゃセッティングもできないじゃん。後は運を味方に付けるしかないってユウナが言うと、「そうだよねー」ってリノが応える。

 確かに私たちは合コンなんかには縁がなかった。それでもって思っていたら、ジャンケンで負けた人がするって流れになる。

 ジャンケンはまずい。昔からジャンケンは弱かったから。それで抵抗したらアミダクジになった。

 その結果、私が走ることになった。

 そんなの絶対に嫌ってごねたら「サツキがジャンケンが嫌だって言うからアミダにしたんじゃない」って責められる。

 そうなんだけどさ。

 そして話し合いの末、明日、私がパンをくわえて走ることになった。




 朝、駅で待っているけど憂鬱だ。というか帰りたい。仮病でもと考えているとリノが来る。

 そして「お待たせー」って言ってから、バッグからラップに包まれた食パンを手渡してくる。

 硬い。しっかりトーストされていて、ご丁寧にイチゴジャムも塗ってある。

 パンを受け取ってほんとにやるんだって実感する。

 コースは駅から学校まで。普段は歩いて十五分くらいの距離。

 家から駅までだと出会いがなさそうじゃないってユウナが決めた。自分が走らないからって。


 食パンを持ったままでも通行人からの視線を感じる。

 もう仕方がないって思ってラップを剥ぎ取る。

 それでも決心がつかなくて食パンを見つめていると「サツキちゃん」ってリノが声をかけてきたから食パンからリノに視線を移す。

 そしてため息をついてから「行くよ」って声に出して食パンをくわえて走り出す。


 甘い。イチゴジャムが甘すぎる。そしてパンが落ちそうになる。歯でくわえていから走っている振動でパンがかみ切れてしまう。

 左手にバッグを持っているから、落ちそうになったパンを右手で押さえながらも走る。

 そしてかみ切ったパンを飲み込もうとするけどなかなか飲み込めない。水分は用意していないし、あったとしても両手がふさがっている。

 それでもなんとかしてパンを飲み込んでからもう一度パンをくわえる。今度はかみ切らないように唇でくわえる。でも走っていれば振動でパンが揺れて落ちそうになる。

 その上パンをくわえているから口がふさがっていて走れば走るほど呼吸が辛くなってくる。さらに口の中も乾ききっている。

 もう駄目だって立ち止まる。まだ半分くらいしか走っていない。

 走り始めたときは死ぬほど恥ずかしかったけど、途中からは苦しくなって恥ずかしいどころじゃない。そして今は腹立たしい気分だ。なんでこんなことをしなきゃならないんだって。

 もう口の周りも右手もジャムでベトベト。

 バッグを道路に置いて左手だけで制汗シートを取り出し汚れを拭き取る。そして右手にパンを持ったままで学校に向かって歩き出す。


 最初にパンをくわえて走って登校するって考えたヤツはバカだ。

 パンなんて飲み込めないし息苦しい。そんなのできっこない。

 おまけにみんなが見てくる。厚顔無恥じゃなきゃできない。そして今もジロジロ見られている。


 ようやく学校に着くと、校門でユウナが待っていた。


「なんでパンを持って歩いているの?」

「……」


 もう怒る気力がなかった。疲れきっていた。それは走ったせいだけではとないとわかっている。

 そして黙ったままトイレに向かう。

 トイレで顔と手を洗い、髪をブラシで整えて自分の顔を見て思う。なんでこんなバカなことをしたんだろうって。

 それから自動販売機でお茶を買って飲んでから教室に向かう。

 教室に入ったらにぎやかだった。というか盛り上がっていた。私のことで。

 女子だけでなく男子にも囲まれて話を聞かれる。

 みんなは楽しそうに話しかけてくるけど私は全然楽しくない。


 お昼にユウナとリナを責めた。でも流されてやったのは私だって返される。確かにそう言われたらそうなんだけど……

 そしてクラスメイトからもからかわれる。いい笑いものだ。

 すると知らない男子が教室に訪れた。


「今朝、パンを食べながら走ってた子がいるって聞いて来たんだけど、いる?」って。


 私は無視を決め込んだけど、みんなが私を指さす。

 するとその知らない男子は私のところに来て、自分は三年の新聞部だって言い、放課後取材をさせて欲しいって。もちろんパンをくわえて走ったことを。

 私はこうやって黒歴史ができていくんだって考えていたら、いいじゃんってリノが取材を受ける。

 待って待って、私のことなんだけどって思ってるうちに話が決まってしまった。


 仕方がなく放課後は新聞部の先輩が来るのを待っている。そして全てを聞き出された。


 次の週、正面玄関の掲示板に私の記事が貼りだされる。

 壁新聞の前でいい出来だろと言う先輩の背中を思いっきり叩いてやった。


 そして一か月後、私は先輩と付き合いだした。


 パンをくわえて走ったら彼氏ができた。




おしまい





最後まで読んでいただきありがとうございます。



この作品では専門家の指導のもとで安全に配慮をして走行をしています。

また本作品は彼氏ができることを保証するものではありません。


※残った食材は出演者一同でおいしくいただきました。




で、ここからは本当の話ですが、窒息の原因でパンって頻度が高いんですよ。だからマネしないでくださいね。





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