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「じゃあ、行ってくる」
「お肉ばっかり食べちゃだめよ。ちゃんと野菜も食べてね」
「わかってるよ」
「行ってらっしゃい」
今日もモニカに見送られ、ニコロは仕事に出かけた。今回の仕事は四日間、領内の北の町までの護衛だ。
あの後、ニコロは表向きは魔力が枯れ、魔法は使えなくなったことになっているが、実はすっかり元に戻っている。このことは、二人と世話になった辺境伯以外には秘密にしていた。
ニコロの魔力が弱まる理由。それが「満腹」だからではないことにモニカは早くから気付いていた。
モニカは自身には魔力はないが、昔から魔力を持つ騎士たちに囲まれて暮らしていたせいか、人の持つ魔力に敏感だった。
ニコロの魔力はちょっと特殊で、植物、それも根の部分の影響を多大に受ける。
最初にタンポポコーヒーを含ませた時の劇的な魔力の回復。その時はタンポポが効いたのかと思っていたが、色々食べさせているうちに大根、人参、ラディッシュ、ビーツ、サツマイモ、白ごぼうなど、根の野菜を口にすれば体をめぐる魔力は満ちていき、質も高くなることがわかった。日に当てて緑になる部分は効きめは弱く、大根なら下の方、ジャガイモよりはサツマイモの方が効果が高い。いろいろ比較しながら試しているうちに、ニコロの魔力の根源は根だということを確信した。
それを利用したのが、王都での食事だ。
食事の時、根の素材は体力の回復を促せる程度に抑えると、思った通りニコロの魔力を低く保つことができ、まんまと魔法騎士団の目を欺くことができた。
腹が満ちると魔力が落ちる。それは満腹になるほど食べる時は大抵宴会で、肉が多く出され、好物なのをいいことに肉しか食べないからだ。偏った食事が魔力の発動に影響していたのだ。
食べる物を与えられなかった時は、ひもじさから草の根まで食べていたためにあんなにやせ細りながらも魔力を発動していたが、本人も気付かぬうちに不足する力を命を削って絞り出していた。そんな状態で魔法の発動を繰り返せばあっという間にやせ衰えてしまう。その結果、一か月であれほどまで衰弱し、命を落とすところだった。
食事はバランスが大切。
肉も、根も、根じゃないものも、しっかりと食べること。
モニカがニコロに約束させていたのは、そんな当たり前のことだった。
隣国も蛮族も、まだこの地を諦めてはいない。
盗賊は富を狙い、侵入してくる。
それでも物が行き交い、人が行き交うこの町は、今日も活気に満ちている。
リデトには時々闇色のローブをまとった魔法使いが現れ、町を荒らす者たちを竜巻や風の魔法で追い払った。しかし町に住む者はその魔法使いが自らを隠す間、その正体を暴くことはなく、それが誰であろうと守ってくれることへの感謝を忘れなかった。
町を思う元辺境伯家のお嬢様のことも、もう何年も誰もが気付かぬふりをしながら、そっと見守り続けているのだ。
旅の荒くれ集団が店に因縁をつけ、飲み食いした金を踏み倒そうとした挙句、店を壊しだした。警備隊が駆け付けると一斉に逃げ出したが、突然足元を吹き抜けた風に足を取られ、男達だけがバタバタと倒れていった。
屈強な警備隊に捕まった男たちは、詫びて支払いをするか、一週間の外壁修理の労働奉仕か、二択を迫られ、渋々ながら詫びを入れ、飲み食いと店に与えた損害の金を支払うことにした。
「ふうっ」
少し離れた場所でローブのフードを取ったニコロは、通りの角から顔をのぞかせる知り合いの子供達と目が合った。
「あ、闇色の魔法使い、やっぱりニコロじゃん!」
「ほんとだぁ。父ちゃんが言ってた通りだった」
「あはははは、ばれたかぁ」
笑うだけで口止めしなかったことで、子供達は闇色ローブの魔法使いの正体を得意げにしゃべりまくった。秘密は「解禁」になったとみなされ、その話はあっという間に広まった。
「あなたって人は…」
呆れて溜息をつくモニカ。せっかく秘密にしていたのに、その秘密は一年も持たなかった。
いつ王都の魔法騎士団がまたこの地を訪れるかわからない。交わした契約が必ずしも守られるわけではない。約束など、たった一枚の紙で覆ってしまう。
ニコロがまたいなくなってしまったら…。
不安がるモニカに、ニコロはずっと勧誘されていた辺境騎士団に入ることを決意した。
根の魔法を捧げるのなら、
モニカのために、この地のために。
お読みいただき、ありがとうございました。
タイトルをつけるにあたり、
根のつく慣用句を探していて、ふらっと見つけました。
インドリヤ
サンスクリット語で 「力」「根」を表すらしいです。
付け焼刃の知識でつけたタイトルですが、
妙にしっくりきて採用しました。
誤字ラ出現ご連絡、ありがとうございます。
完結後も、気になり次第予告なく更新します。
2023.9 根よりナッツな食欲の秋




