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 結婚前も、結婚した後も、ニコロはあまり昔のことを多く語らなかった。そしてモニカもまた、自分の生い立ちについて語ることはなかった。ただお互い、他に家族はいないことを知っている程度だった。



 モニカの父はロッセリーニ辺境伯の二男として生まれた。兄が家を継ぐことが決まっており、長年祖父の膝元である辺境騎士団で騎士団の一員として務めていたが、王に見込まれて王都の騎士団に移籍し、騎士団長を務めることになった。


 モニカには兄がいて、優秀な魔法騎士だった。辺境の守りを固めるため王都には行かず、辺境騎士団に残った。モニカも生まれ育った辺境領に残りたかったが、それは許されず、父母と共に王都で暮らすことになった。


 辺境伯の血筋で、父も重要な役職についているモニカは、王都でも周囲から一目置かれていた。時に過剰に媚を売ってくる者はいたが、さらりとやり過ごしていた。

 親同士の取り決めで王都に近い伯爵家の嫡男ロレンツォ・オリヴェーロと婚約したのは十四歳の時だった。魔法のないモニカは戦いの多い辺境地から離れた所に嫁いだ方がいいという母の勧めだった。やがては伯爵夫人になると言われても実感はなかったが、貴族として必要な教養を身に着けていった。婚約者のロレンツォとは特に恋心はなかったが嫌いな訳でもなかった。周囲も決められた人生を歩む者が多く、そりの合わない婚約者の愚痴を聞くと、自分は貴族の結婚としては無難な方だろうと思っていた。


 王都に来て五年目に、母が病で亡くなった。父は再婚を望まず、悲しみから逃げるように仕事に打ち込んでいた。

 その一年後、辺境伯だった伯父が亡くなった。その頃、隣国は西の蛮族と手を結び、頻繁に侵略を試みてきた。モニカの伯父は停戦協定に向かう途中、不意打ちを仕掛けられ命を落としていた。

 伯父には嫡男がおらず、有事にはモニカの父が後を継ぐことが決まっていた。父は団長職を辞し、生まれ育った辺境領に戻ると辺境伯位を受け継いだ。モニカも王都の学校を中退し、父と共に辺境領に戻った。


 当時は辺境領とその周辺の領が国境の守りにつくのが当然とされ、自国の紛争でありながら王からの援軍はなかった。長引く戦にモニカの父は何度も王都の騎士団に応援を要請していたが、新たに就任した団長はなかなか首を縦に振らなかった。余所者だった父が王に気に入られ、団長についていたことを恨んでいた者の嫌がらせもあった。

 父の部下だった騎士団のガスペリが辺境地の事情を察し、王に陳情し、自ら出陣することでようやく援軍を送ってもらえる段取りが付いたが、王都からの援軍がたどり着く前にモニカの兄は戦場で帰らぬ人となった。連日の戦いに魔力も衰え、退却する仲間を守って力尽きたと聞いた。現地で弔われ、戻って来たのは剣だけだった。

 

 父もまた傷を負っていたが、王都や近隣の領からの援軍と共に戦いに挑み、敵を追い払うことができた。しかし父は戦いの中でより深い傷を受け、停戦にこぎつけた翌日、息を引き取った。


 父と兄をなくし、モニカは婿を取ることを望まれた。

 結婚を約束していたロレンツォは辺境に来る気はないと言い、オリヴェーロ家は早々にモニカとの婚約を破棄した。モニカもまた、ロレンツォではこの地を治めることはできないのはわかっていた。オリヴェーロ家の事情も考えれば破棄を受け入れるのに迷うことはなかったが、全ては送られてきた紙一枚で終わり、せめて話し合う機会を持ってくれればと思わずにはいられなかった。


 婚約がなくなって初めて、自分は伯爵家に嫁ぐ気などなかったのだと自覚した。


 モニカは家督を継ぐ者として王に呼ばれ、王都に足を運んだ。

 今後の辺境領について問われたモニカは、魔法のない自分に今から誰かをあてがうより、より実力のある騎士が辺境領を治め、国を守ることこそ望ましく、今回の援軍を率いたガスペリ隊長を辺境伯に推薦すると王に進言した。モニカに婚約者をあてがおうと思っていた王にとってそれは予想外の提案だったが、案外悪くなく、王はこれを受け入れた。

 ルチアーノ・ガスペリは王からの申し出を受け入れ、モニカは父に代わり、代々受け継いできた領地を王に返上した。

 外壁の補修、街の復興、食料の備蓄。やるべきことは多く、領の収入はもちろん、辺境伯家の財産もそのほとんどをガスペリに引き継いだ。


 誰かが聞き分けの良い娘だと言った。

 聞き分けたつもりなどなかった。祖父が堅守し、伯父が固守し、父が死守したこの地を奪われることだけは許してはならない。客観的に見て自分には何の力もなく、そんな自分の伴侶を前提に今から領主を探せば、その隙をついて再び外敵が襲ってくるかもしれない。敵に隙を見せるなど、この辺境地ではありえない。ガスペリならこの辺境地を治めるだけの能力がある。それなら入れ替わればいいと判断しただけだ。


 魔法がないから遠くに嫁に行けと言われた時の方がつらかった。自分の身の安全を考えた母の愛だとはわかっていたが、自分の望みとは違っていた。役立たずでもこの地を離れたくない。故郷が好きなのだ。


 家族が眠るこの土地に残ることを決めたモニカは、貴族籍をなくした後も平民として領の西端の町リデトに移り住み、町を守る者に敬意を表し、有事の時には助力を惜しまなかった。


 町で生きる以上、自分の身の上を明かすことはしないと誓っていたが、人生で一度くらい父の名に助けられることがあっても父は怒りはしないだろう。

 父のつないでくれた縁がニコロを取り戻してくれたことに、モニカは改めて亡き父に感謝した。


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