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5 甘いものは、皆を幸せにする。

その日、四年二組の教室では女子生徒たちが好きな男子生徒たちに手作りのチョコレートやお菓子を渡していた。

 二月十四日。バレンタインデーである。

 また、それだけでなく、女子生徒たちは友達の女子たちにもチョコやクッキーを渡していた。私はそれを見て、微笑ましいなと思った。

「亀田くん、はい、これ」

 私は、黒髪短髪の亀田礼人かめだあやとという男子生徒に、昨日作ったチョコレートのお菓子を渡した。彼はこのクラスの中でイケメンの男子生徒である。

 私はお菓子作りが趣味で、休みの日によくクッキーやケーキを作る。それもあり、毎年、バレンタインデーやホワイトデーにお菓子を作って、子どもたちに渡していた。

日比野ひびの先生、ありがとうございます」

 亀田くんはそう言うと、嬉しそうに笑った。

 それから、私はそのクラスの男子生徒一人一人にそのチョコレートのお菓子をあげた。彼らは皆、嬉しそうにしていた。

玖美くみ先生、これあげる」

 それから、三人組の女子生徒が私の所へやって来て、一人の子がそう言った。

 見ると、どうやら手作りのトリュフのようであった。

「おいしそうだね」

 私がそう言うと、「でしょ?」と、その生徒は得意な顔をした。

 後二人のは、生チョコとカップチョコだった。二人のもとても上手にできていて、おいしそうだった。

「三人ともありがとう」

 私は三人にお礼を言って、三つの手作りチョコを受け取った。

「お返しは今度するね」

 そう言うと、三人ともほくほく顔になった。


 それから、一か月が経った。

 三月十二日。

 その日も、私はいつものように授業をしていた。帰りのホームルームを終え、職員室に戻ろうとした時、生徒に呼び止められた。

 振り向くと、三人の男子生徒がいた。亀田礼人くんと帽子をかぶり眼鏡を掛けている奈良友久ならともひさくん、それから、坊主頭でぽっちゃりとした長谷部翔太朗はせべしょうたろうくんだ。三人とも私のクラスの生徒だった。

「どうかしたの?」

 私がそう訊くと、亀田くんが口を開いた。

「日比野先生、もうすぐホワイトデーじゃないですか。先生、お菓子作りが趣味って言ってましたよね? あの……僕たちに「クッキー」の作り方を教えてくれませんか?」

「クッキーね。いいわよ」

 私がそう答えると、三人は目を輝かせた。

「ありがとうございます」と、亀田くんが言った。「先生、今、お時間ありますか?」

「うん、平気だよ」

「じゃあ、今からクッキーの作り方を教えてください」

「いいわよ。でも、まずは材料を買いに行かなきゃね! 先生、今から材料を買ってくるからちょっと待っててね」

「はい」

「そしたら……」

 そう言って、私は腕時計を見る。午後三時半であった。

「四時に家庭科室に来てちょうだい」

 私がそう言うと、「分かりました」と、三人は返事をした。

 それから、私はすぐに学校の近所にあるスーパーへ行き、薄力粉とバター、砂糖、それから、卵を買った。それと、クッキーの型も何種類か買う。

買い物を終えて学校に戻ると、三時五十分だった。職員室へ行き、家庭科室の鍵を借りて、すぐに家庭科室へ向かった。私がそこへ行くと、三人が待っていた。


「まずは、薄力粉をこのふるいにかけてね」

 私がそう言うと、「はい」と亀田くんが大きな銀色のボウルに薄力粉をふるった。

「うん。そんな感じ。その間に、バターを室温に戻しておくのよ」

 そう言って、私はスーパーのレジ袋からバターを取り出し、テーブルの上に置いた。

「ふるい終えたら、バターを別のボウルに入れてよく混ぜるの」

 そう言うと、今度は奈良くんがもう一つのボウルにバターを入れ、それをかき混ぜた。

「じゃあ、長谷部くん、その間に卵を一個、こっちのボウルに割って、しっかりと溶いてくれる?」

「分かりました」

 そう言って、長谷部くんが卵を割り、それを溶いた。

「先生、溶き終えたよ」

「うん、オーケー。奈良くんも良い感じだね」

「はい」

「そしたら、バターのボウルの方にお砂糖を入れてよく混ぜて」

 そう言うと、亀田くんがそのボウルに砂糖を入れ、奈良くんが再びかき混ぜた。

「奈良くん、一度、手を止めて」

 少しして私がそう言うと、彼は手を止めた。

「長谷部くん、そこにさっき溶いた卵を三回に分けて入れてくれる?」

「はい」

「卵を入れたら、奈良くん、かき混ぜてね」

「分かりました」

 長谷部くんが一回目の溶き卵を入れ、奈良くんがよく混ぜる。その後、二回、三回と長谷部くんが溶き卵を入れ、再び奈良くんがかき混ぜ続けた。

「うん、オーケー。そしたら、最初にふるった薄力粉をこっちのボウルに入れてヘラで混ぜよう」

 そう言った後、亀田くんがそのボウルに薄力粉を入れて、奈良くんがそれをヘラでかき混ぜた。

「ポイントとしては、ヘラで切るようにさっくりと混ぜ合わせるのよ」

 私がそう言うと、奈良くんがそのように混ぜようとした。けれど、上手く混ぜられないでいた。

「貸して見ろよ」

 それから、亀田くんがそう言って、奈良くんのヘラを取る。

 亀田くんは、私が言った通りにそれをさっくりと混ぜた。

「うんうん、そうそう」

 私が亀田くんにそう言うと、彼は照れ臭そうに笑った。

「俺もやる!」

 その後、長谷部くんがそう言ったので、亀田くんは彼と交代した。

「うん、上手!」

 長谷部くんも器用で、その通りに手を動かした。

 それから、「僕にもやらして」と、奈良くんが言った。

「はいよー」

 長谷部くんがそう言って、一度手を止めた。そして、奈良くんにヘラを渡した。

 それから、奈良くんが二人の手本通りにそれをヘラでさっくりと混ぜ合わせた。

「奈良くん、良い感じ。もういいわよ」

 私がそう言うと、奈良くんは手を止めた。

「そしたら、生地を一まとめにして、ラップをしてちょうだい」

 亀田くんが生地をまとめ、奈良くんがラップを切り、そこへ生地を乗せてラップで包んだ。

「そしたら、三十分から一時間程、生地を寝かせるの」

 私がそう言うと、「一時間も!」と、三人は驚いた。

「うん。でも、今日は時間もないから、三十分にするわね」

 それからそう言うと、三人は頷いた。

 そして、私は生地を冷蔵庫に入れた。それが冷える三十分間、三人はそこで宿題をすることにした。私もその間、採点などの仕事をすることにした。

 三十分が経った。私は冷蔵庫から寝かせていた生地を取り出した。

「生地を綿棒で五ミリの厚さに広げてね。そしたら、クッキーの型抜きがあるから、好きな型で抜いてちょうだい」

 そう言った後、長谷部くんがその生地を五ミリの厚さに伸ばした。それを伸ばした後、各々がハートや星、スマイルの顔といった型抜きで型を抜いていった。

「いいね。そしたら、オーブンを百七十度に予熱して、その後十五分クッキーを焼くの」

 そう言って、私はオーブンを百七十度で予熱した。

 しばらくして余熱が完了したので、鉄板に彼らが型を抜いたクッキーを乗せて、十五分のタイマーをセットして焼き始めた。

「周りにうっすらと焼き色が出来たら完成よ。焼き具合によっては、もう一~二分焼くといいわね」

 クッキーが焼けるまで、三人は再び宿題の続きをやったり、お喋りをしたりしていた。私は仕事の続きをする。

 しばらくすると、クッキーの焼けるいい匂いがした。

 そして十五分が経ち、クッキーが焼けた。オーブンを開けて見ると、クッキーはむらなく焼けていた。

「うん、いい感じにできたわ!」

 私がそう言うと、

「いい匂い!」

「うまそう!」

「早く食べたい!」

 と、三人が口々に言った。

「せっかくだから、出来たてを皆で食べようか」

 私がそう言うと、三人とも笑顔で頷いた。

 それから、三人はそれぞれのクッキーを一口頬張った。

「うまい!」と、亀田くんが言った。

「だな」と、長谷部くんが言った。

「うん、おいしい」と、奈良くんも嬉しそうに言った。

「先生も食べていい?」

 それから、私が三人にそう訊くと、「どうぞ」と、亀田くんが言った。

「ありがとう。じゃあ、いただきます」

 私は星形のクッキーを一枚取り、それを食べた。

「うーん、おいしいわね」

 思わず私は笑顔になる。「焼きたてだからかしらね? 皆、いっぱい食べてね」

 私がそう言うと、三人は頷き、残りのクッキーを全部平らげた。


 そして、二日後の三月十四日。ホワイトデー当日である。

 その朝、私が廊下を歩いていると、見覚えのある男子生徒がいた。亀田くんであった。

 彼の正面には、黒髪ロングの少女がいた。私のクラスの生徒である瀬尾花恋せおかれんさんだ。

 亀田くんは瀬尾さんに、手作りのクッキーを照れ臭そうに渡していた。きっと昨晩、彼はそれを自宅で作ったのだろう。そのクッキーを貰った彼女は嬉しそうな笑顔を見せていた。

 その微笑ましい光景に、思わず私もニヤリとしてしまう。

 それから、教室へ入った。「おはよう!」と私が言うと、生徒たち皆が「おはようございます!」と、私の方を見て挨拶した。

「先生、見て!」

 ふと、私の前にツインテールで可愛らしい女子生徒がやって来て言った。小栗茉希おぐりまきさんだ。彼女は誰かからクッキーを貰ったらしく、それを自慢げに私に見せた。

「誰から貰ったの?」

私がそう訊くと、「奈良くんと長谷部くんからだよ」と、彼女が嬉しそうに言った。

 その後すぐに私はちらりと向こうに目をやる。奈良くんと長谷部くんが照れ臭そうにこちらを見た。彼ら二人も昨夜自宅でそれを作ったに違いない。

「そう。良かったじゃない!」

 私が笑顔でそう言うと、「えへへ」と、彼女は笑った。

「あ、そうだ。小栗さんにこれ」

 私はそう言って、持っていた手提げ袋に入れていたクッキーを彼女に渡した。昨夜、自宅で作ったものである。

「先生、ありがとう」

 彼女は笑顔で受け取った。

 それから、私は他の女子生徒たちにも手作りのクッキーを手渡した。女子生徒たち全員が喜んでいた。

 その後、私は何人かの男子生徒たちからもチョコレートやクッキーなどのお菓子を貰った。


 放課後、職員室でいつものように仕事をしていると、急にお腹が鳴った。

近くにいた先生たちが一度こちらを見て、ぷっと笑った。私は少し恥ずかしかったが、その後すぐにその日、生徒たちからホワイトデーのお返しを貰っていたことを思い出した。

 小腹が空いたので、少し食べようと思い、私は貰ったクッキーの袋を開け、それを一枚口に入れた。

サクッとした食感にバターの風味が感じられ、幸せな気分になった。

「うん、おいしい」

 思わず声が出た。

 おいしかったので、もう一枚食べる。そのクッキーのおいしさに私は顔が綻んだ。

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