相互理解の難しさ……という名の、全然知らない人がクレーマーだった件
・平民 : 私。
・ベテランさん : この道何十年のベテランにして新入社員。なんでもできるオールラウンダー。
・○さん(仮名) : お仕事をお願いしてきた取りまとめ役の人。割りとフレンドリー。
・△さん(仮名) : お仕事をお願いしてきた人。割りと無茶なことを平気で言う人。でも普通の範囲。
・□さん(仮名) : お仕事をお願いしてきた人。割りと大変な状況の人。
・×さん(仮名) : 名乗らないし紹介されない知らない人。見学でしょうか?
※このお話は、一部フィクションです。
※登場人物及び企業団体はすべて仮名です。現実には存在しません。たぶん。
ある月曜日の朝のことです。
その日は、災害復旧の現場入りの日です。
緊急の要請を受けて駆けつけるやつではなく、一般の住民からお願いされて見積り取って役所に申請して災害枠として補助が出るちょっと特殊な方のお仕事です。
お願いしてきたのは、○さん(仮名)、△さん(仮名)、□さん(仮名)の三名共同だそうです。
普通のお仕事とはまた若干違うのですが、私が見積り取って予算組んで住民の人と相談して……という流れを全部こなすのは初めてのお仕事になります。
災害復旧のお仕事なので、私としては心情的なものもあって、赤字こかないギリギリのラインで予算組んで住民の方に説明しました。
できれば費用を安く済ませたい住民側と、補助がおりることもあり、できるだけ費用を安く抑えてあげたい私とで、気持ちはまあまあ一致していたわけです。
見積り取っている段階で、私張り切りました。
そして、このお仕事のこの部分の作業はこの値段では絶対に無理! という問題をいくつかこなして、サンプルとしてもらった資料にあった意味不明な諸経費とかうっちゃって、見積りは完成です。
シャチョサーン、チェックおねシャス。
「ん……。ああ、これでお客さんとお話してこい」
いえっさー。
……まあ、そこから紆余曲折を経て、ようやくお仕事です。
そんな仕事始めの日の朝のこと。
状況と作業内容の最終確認のために、私、ベテランさん、○さん、△さんが集まりました。
□さんは欠席だそうです。
……そして、なぜか、○さんからも△さんからも、紹介されない名乗らない知らない人がそこにいました。
……見学ですかね? まあ、一般の人の見学ならよくあることですが。
まあ、知らない人と呼ぶのもなんなので、×さんと仮呼称することにします。
予定しているお仕事の確認と、追加の要望の有無、私でできること、やってはいけないことなどを、確認します。
そのお話もだいたい終わろうとしていたとき、突然×さん(仮名)が口を挟んできます。
×「これはなんの集まりですか?」
話の途中の私、心の中で首をかしげますが返答します。
私「災害復旧のお仕事のお話です」
×「私に説明する人は誰ですか?」
?? 何を言っているのか分からないのですが?
×「こちらは作業してもらえないのですか?」
×さんが示す方を見ます。
草ぼうぼうの耕作放棄地です。
……?? 何を言っているのか分からないのですが?
私「役所に申請して補助をもらって、お金を支払ってから作業許可が下りるお仕事なので、住民の方がお金を支払った分の作業しかできません」
×「それは誰が申請したのですか?」
私「○さん、△さん、□さんの三人です」
少なくとも、名乗らない知らない人は関係ないお話ですよ。
×「では、私に工事の説明をする人は誰ですか?」
私「??? 今、工事の説明をしていたのですが?」
×「どこの工事の説明をしていたのですか?」
私「ここの工事ですけど?」
×「説明はいつ始まるのですか?」
私「今ですよ? もう(あらかた)終わりましたけど?」
なんでしょうね? この、日本語が通じても会話が成立していない感。
朝から疲れるのですが。
私「すいません、なんの話ですか?」
×「金曜日の日に、月曜に私に工事の説明をしてくれるというからここにきたのですが?」
金曜日? 金曜なら誰もここに来ていないはずだし行ってきてと誰かにお願いもしていないですよ? 人違いじゃないかなあ?
×「金曜日、私と話をした人は誰ですか?」
知りませんよ。
×「あなた凸凹建設の人ですよね?」
私「はい。凸凹建設です」
×「名刺ください」
嫌ですよ。持ってませんアピールします。
×「社長に聞いてみてください。話が通っているはずです」
なんなんでしょうね?
でもこれはあれか。上から下に直接話を通していて、中間の私をスルーして私だけ知らないいつもの奴か。
とりあえず社長にコールします。
へるぷみー。
私『もしもし、おはようございます』
社長『おう、おはよう。どうした?』
私『社長、金曜日、アレな工事をする話を月曜に説明してくれるって話されましたけど、誰かからなにか聞いてます?』
社長『いや、なにも聞いてない。……あ、もしもし? アレな工事は、アゲアゲ建設のヒャッハーさんがまだそこらへんにいるだろうから、そっちに聞いてみてくれ』
私『なるほど、分かりました』
ぷつ、つー、つー、つー。
私「会社では分からないそうです。別の会社の人ではないですか? アゲアゲ建設さんが向こうでお仕事していますし」
×「そんなはずはないです。私、二回確認して二回とも凸凹建設と名乗っていました」
これはヒャッハーさんに確認するまでもなく、お手上げです。
……ですが、私ここで重大なミスを犯してしまいます。
私「もしかして、金曜日じゃなくて土曜日です?」
×「あ、土曜日でした」
黙ってりゃあよかったのですが、土曜なら前提が覆ります。それなら話が変わってきます。なぜなら、土曜日はベテランさんにお仕事の説明をするために雨の中この場所で合流したのですから。
私「雨降りの土曜日?」
×「そうです。土曜日でした。その人は、どこですか?」
話がループしてますよ? そして、そのベテランさんはさっきまで一緒にいましたよ?
私「その人とどんな話をしたのですか?」
×「土曜日の日、月曜日に工事の説明をしてくれると約束しました。その人を連れてきてください」
私「工事の説明なら私ができますが? 私が説明しますか?」
今説明終わったところですけどね?
×「あなたではない。その人を連れてきてください」
私「その人は仕事の都合で今はいません。工事の説明は私ができるので私がしますけど?」
×「その人は月曜日に説明すると私と約束しました。その人を連れて二人できてください。あの家にいますので」
うーん、話が通じている気がしませんねえ……。
まあ、そのベテランさんが仕事の都合でこの場にいない以上、話の全体像が見えてこないので仕方がないのですけど。
とりあえずこの場は話が進まないのでベテランさんから話を聞いてからですね。
さて、×さんが指し示す方向は……?
私「なるほど。白い(外壁の)家ですね?」
×「ええ。シュッとした(屋根の)家です」
×さんは去っていきました。
そうしたら、それまで黙っていた○さんが、
○「あのさ、平民くん。あの×さんって、あんなだから俺も話かけたくないんだよな……。それとな、×さんの家って……」
私「あ、はい。あの白い外壁の家に隠れて見えないもう1軒先の家ですよね。少し道路から引っ込んだ家」
ちょうど、別件でその家の人からもお仕事お願いされていたはずです。
クセのある人と言われていましたし、間違いないでしょう。
○「いやな、そうじゃないんだよ。×さんって、その(白い外壁の)家の、道路挟んだ反対側なの」
私「…………はい? あの緑の外壁の家ですか?」
○「そう」
私「私は白って言ったのに……。色からして違うじゃないですか……」
○「そういう人。だから、ねえ?」
△「俺もたいがいだと自覚あったけど……。上はいるもんだな」
人って、面白くなくても楽しくなくても笑えるんですね。
△さん笑ってました。ひきつり笑い。
私は、肩をがっくり落として、○さんにポンポンされます。
なんにせよ、ベテランさんの話を聞かなくては。
オイ新入社員コラ、ツラ貸せや。
私「つまり、どういう話だったんです?」
べ「土曜日の朝の段階だと、俺この工事のことなにも知らなかったから、月曜日説明できる人が来るって」
私「それ、私のことじゃないですか」
べ「だな」
私「じゃあ私説明してきますね」
べ「頼む」
この段階でも、おかしいということをちゃんと理解していなかった私は「緑色の外壁の家」で×を探します。
私「ベテランさんから話を聞いてきましたよ。工事の説明をする担当は私なので、私が説明させてもらいます」
×「だからあなたではない。連れてこいといったでしょう」
私「あなたの言う『月曜日に工事の説明する人』は私です。私が説明しますから」
×「その人から説明してもらうから、その人を連れてきてください! その人はどこですか!」
私「近くにいますよ! 案内しますか!?」
ここまでくると私もヒートアップしてまして、声も大きくなってしまいます。
しかし、なんで×はベテランさんからの説明にこだわるんでしょ?
私「ベテランさん、×が直接説明しろって。してやってください」
べ「いやー、すいませんでした。土曜日の朝の段階では、私はまだ彼(平民)から工事の説明を受けてなくてですね。月曜日改めて説明をしてくれるのは彼(平民)の方でして」
×「そうですか。ではベテランさん、私に説明してください」
下手に出るベテランさんに対して、高慢な態度の×。意味分かりません。
べ「ここのこれがですね、状況が分からなかった土曜日はこうしないとならないかもしれないって言いましたけどね、ちゃんと説明聞いてみると、影響ないことが分かりました。いやー、申し訳ない」
……ベテランさん、ちょっと待ってくださいな? それだと話が違います。
オイ新入社員コラ、原因てめぇか? てめえが適当ぶっこいたから今粘着されてんのか?
……と思ったところで、今私が発言したら余計にこじれるだけなので、お口にチャックします。
二人で来いって言われたから、お仕事ほっぽりだして無言を貫きます。
……ただ、×とは目を合わせませんが。
×「そうですか。そういうことでしたら、話は分かりました。では、このこれをアレする必要はないと」
べ「ええ。必要ありません。いや申し訳ない」
×「いえいえ、私も失礼な態度取りましたし……ごめんなさいね?」
失礼だと自覚あったんかい! こっち見るな顔覗き込もうとするな!
……この私の態度も失礼と自覚はありましたが、無言で頭を軽く下げて了解を表現しました。
うん、まあ、つまり、×は、失礼な態度取った自覚はあるけど、謝ったんだから許すよね? と、言いたかったんでしょうな。たぶん。
×が去ったあと、ベテランさんが私の肩をポンと叩きます。
半分以上てめえのせいだよ。そんな言葉を飲み込んで、ようやくお仕事開始です。
時計を見て、無駄にした時間にガッカリしながら。
※まとめ
※時系列順に整理
○土曜日
・朝先に現場に到着したベテランを×が見咎める。
・ベテランは、工事の説明は担当が月曜に来たときに説明すると発言。
・×は、ベテランが説明するために月曜の朝×の元を訪れると解釈。
・平民、少し遅れて到着。ベテランに説明。
・ベテラン、現場を把握。これをアレする必要があるか平民に確認。必要無しと結論。これをアレするのは自己判断であり、×と接触したと平民には言わなかった。
○月曜日
・朝、平民、ベテラン、○さん、△さん、×が集合。□さんは欠席。
・×は自己紹介せず、紹介もされず、その場にいたベテランの存在を認識しなかった。
・ベテラン、×の存在を気に止めなかった。
・○さん、△さん、□さん(欠席)共同出資の工事の説明中×が発言する。
・以下本文通り。
結局、×は要注意人物と認識することに。
元から耳もよくないのか、聞いた話の半分ほどを想像で補っているような印象を受けた。
聞いた内容を聞き返したり確認したりは特に無く、自分と他人との認識のズレを認識するようなことはなかった。
(白い家か? の問いに対して肯定した上でシュッとした家と答えるなどの認識の違いなど)
発言内容や自身の態度を認識できる程度は健康であると思われる。ただし、昔から誰に対しても誤認や決め付けや思い込みの妄想を発揮する人物だった様子。
以上、双方の歩み寄りがないと相互理解は難しいというお話と、仕事における報告・連絡・相談は大事というお話でした。
お仕事でなくても、確認することはとても大事です。
誤解やすれ違いが問題に発展しないようにしたいものですね。