1日目
「今日の作業は、西方の本を五十冊ほど写本すること。」
「新たに五ヶ国語を習得する事とする。」
「ねえ、そろそろ貴方の名前を決めましょうよ。」
「シャーリー様は本日も健康そうである。」
「聞いているの?」
「はい、シャーリー様。」
「もう!ちゃんと反応を返すこと、いい?」
「かしこまりました。」
ギシリと音を立てて、青い瞳の人形は立ち上がった。
白磁の肌を持ち、瞳はラピスラズリを材料とした青。白い服の所々には潤滑油が毀れた後が残っていた。
「ふふ、せっかくだし、今日は西方式のお茶会にしましょうか。」
「かしこまりました。」
人形は数冊の本を持ち上げるとバラバラと頁を勢い良くめくり、閉じた。
階段を下りる手間を省くために窓から飛び降りると、ドンと音を立てて煉瓦の床に落ちた。
そのまま鍵のかけられていない勝手口から庭に面したキッチンに入り込み、手際よく茶葉とティーセットを準備していく。
お湯が沸きあがる頃になってから二階からこの人形の主人である少女シャーリーが降りてくる。
「学習能力は順調のようでよかった。でも飛び降りるのは駄目。」
「かしこまりました。シャーリー様、お茶の用意が出来ました。」
「あら、お菓子は?」
「戸棚に隠してありましたクッキーが最適かと。」
「そこは学習しなくて良いのに!」
シャーリーは笑いながら勝手口を開け、人形はお茶の用意を盆に載せて外へ出た。
庭は広く季節の花々が咲き乱れ甘い香りが微かに広がっている。
二人は裏庭にある小さな東屋に向かい、腰を下ろした。
「・・・この茶葉、賞味期限大丈夫だった?」
「明日で切れます。」
「じゃあセーフね。良かった。そうだ、貴方の名前だけど、ジェーン、なんてどうかしら?」
「今月が6月だからですか?」
人形、ジェーンが言うとシャーリーは目を輝かせ、茶器を落とさんばかりの勢いで立ち上がった。
赤い水面を見つめていたジェーンの手を取り視線を合わせると、花のような笑みをこぼすのだった。
「そうよジェーン!貴方、自分で考えられるようになったのね!」
「はい、シャーリー様。」
「ああ、最高よ!」
太陽の下でも体温の上がらない冷たいジェーンの体に抱きつき、シャーリーは飛び跳ねる。
二人の間にあったティーセットは全て落ちて割れてしまった。
「シャーリー様、茶器が割れました。」
「あ、あー・・・直せそうなものは直すわ。」