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聖女は邪神の力を借りたい  作者: 藤咲晃
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02.聖女は願う

 祠の最奥まで到着した私は、蠢く影に燭台の光を当てた。

 そこには最奥に一人、禍々しく左右非対称の二本の角を生やし、爬虫類の如く鋭い瞳。正に人間とはかけ離れた。

 しかし人間に近い形をした男性が石の棺に座っていました。

 彼がこの地に封印された邪神のでしょう。

 身体から滲み出る禍々しい魔力がその証拠と言えましょう。


 彼は私に気付くと気怠げそうに頭を掻いて。


「君は何しに来たの?」


 優男のような声で問い掛けました。

 私の目的は聖女として邪神を鎮める生贄。

 しかしそれは表向きの理由でしかありません。

 権力欲と我欲に塗れた教皇にとって私は邪魔な存在。

 そう、私がこの場に居るのは邪魔者の排除に他なりません。

 まあ、それも私にとっては好都合なのですが。


「どうしたの? 答えられない理由でも有るの?」


 黙っていた私に不思議そうに邪神は首を傾げた。

 邪悪さは有るけど不思議と恐怖心を感じさせない行動に私に疑問が芽生える。

 本当に彼は世界の半分を滅ぼした邪神なのでしょうか?

 なんだか伝承に残る残虐性が感じられないような?

 いえ、それよりも質問に答えるのが礼儀でしたね。

 私は改めて佇まいを整え、丁寧な振舞を心掛けながら。


「私は聖都からこの度貴方様の生贄に選ばれたアイリスです」


 名乗り上げ丁寧に一礼して見せると、彼は興味も無さそうに頭を掻くばかり。


「ねえ生贄って流行ってるの?」


「貧しい農村は口減らしに私の様な年若い娘を差し出すと聞いておりますが」


 あくまでも怒りを買わない様に、取り繕うと邪神は考え込む素振りを見せる。


「ふーん。人間って変わってるね、娘一人減らしたところで土地の問題を解決しなければ意味が無いのにねぇ」


「邪神様にも縋る想いだったのでは?」


「第一僕は生贄を望んだ事は無いんだけどね。寄越された生贄も静かな暮らしの邪魔だから遠い地に逃してるし」


 彼の言葉に私は耳を疑いしまた。

 邪神が静かな暮らしのためにわざわざ生贄を逃している?

 彼は確かにそう語った。

 ならば私が生贄として純血を弄ばれた挙げ句喰われることも無い。

 それなら話が早いですね。


「そうですか。……実は私は生贄の身ですが貴方様にお願いがありまして」


「願い? 邪神である僕に聖女の君が? 面白いことを考えるねぇ」


 邪神は興味深そうに私の瞳を見つめていた。

 彼の吸い込まれるような紫の鋭い瞳。

 っと! いけない。危うく取り込まれるところでしたね。

 それに彼に対して一度も私は聖女とは名乗っていない。

 それなのに知っていると言う事は、心を読めるのでしょうか?

 読心術を念頭に置きながら私は気を取り直して兼ねてから計画していた事を切り出す。


「私に邪神様の力の一部を分け与えください」


 そう本心から高らかに宣言すると。

 邪神は石の棺から滑り落ちましたね。

 そんなに驚く事でしょうか?

 訝しむ私に彼は立ち上がることもせず此方を見上げたまま。


「君……儚そうで人間の価値観だとかわいい分類に入ると思うけどさ。考えてる事は聖女とは真逆だね」


「えぇ聖女といえども人の子です。それにお金を得る手っ取り早い方法かと思うのですが?」


 そう力を得て教皇達を恐喝。

 教団に入る多額の寄付金で楽な生活を送ることが私の目的なのです。

 聖女? 生憎と善性と偽善ではお腹は膨れません。

 寧ろ聖女に対する寄付金から重篤者から怪我人の治療費に充てがわれる。

 聖都に居た頃は一日パン一つの生活。

 まったく。農民よりも貧しい生活を送っていたのですからそれぐらいの我欲は良いでしょう?


「我欲……君は世界を牛耳ることも視野に入れているね」


 おっと邪神はどうやら私の先の計画まで見通した様子。

 そう、いずれ世界に混迷を齎している魔王を私が討伐。

 そこで得た名声と功績が有れば下手に刃向かう者は居ない。

 あぁそう言えば勇者も居ましたが、彼には人知れず果てて貰うのが良いでしょう。


「私の計画も含めて邪神様が力を貸し与えるには相応しいと思うのですが」


 自分で言うのもあれだが私の思想は邪悪だ。

 何を成すにも力が必要になる。

 善意や聖女の立場だけでは、過去の聖女達の様に消されだけですからね。


「確かに君には適性が有る。寧ろ聖女に選抜されていることにすら疑問が芽生えるね。けど、力を貸す事は無いよ」


「そうでしょう! 力を貸して……えっ? 今なんて?」


 私の聞き間違いでしょうか?

 思わず首を傾げると彼は。


「僕の力は君には貸せない。面白いとは思うけどね、力の一部を貸すのも面倒臭いんだ。それに僕は静かにこの場所で暮せれば良いからね」


 何という欲の無い邪神!

 このお方は本当に邪神なのでしょうか。


「あの? 貴方は邪神ですよね」


「僕はこの世界に産まれた時から邪神だよ。存在概念から足の爪先までね」


 邪神は邪神として産まれる。

 徳を積んだ人間が神に産まれ変わるのとは違って、邪神は産まれから邪神としての在り方を求められる。

 なのに彼は邪神として世界をどうこうする気が無いのでしょうか?


「私と邪神様だけの世界だったら静かに暮らせると思いますが」


「それは世界とは言わないよ。様々な不調と調和が入り乱れた世界を眺めるのが、僕は好きなんだ」


「むぅ。ではどう有っても力をお貸ししないと?」


「君がどんな対価を差し出そうともね」


 ほほう。どんな事をしてもですか。

 私は生贄としてこの場所に送られた。

 つまり聖都では、私は本来生贄として死んでいるはず。

 そもそも大見えと大手を奮って邪神の怒りを鎮めると公言してしまった以上、聖都で生活はできない。

 や、邪神が望んでいると言えば食料は手に入るかもですが。


「なら私がここで生活すると言っても?」


 あっ、一瞬邪神が揺れ動きましたね。

 邪神は考える素振りを見せるとやがて面倒臭さそうに肩を落とした。


「君がぁ? でも君に力を与えると面倒臭そうだしねぇ。良いよ此処で暮らしなよ」


 こいつ面倒臭さと聖女が同棲する事を天秤に掛けて、面倒臭い方を選びやがりましたよ!?

 しかしさっきは力を借りれない後のことを考えましたが、責めて生贄としての体裁は欲しいところですね。


「力を貸してくれないのであれば、何か生贄としての体裁をください」


「君に生贄としての価値は無いよ」


 そんな真顔で傷付くことを平然と……

 苦悶を浮かべる私を他所に邪神は石の棺に寝そべってしまいました。

 なんでしょうこの扱いは?


「いえ! ともかく此処で生活する以上は模様替えしませんとね!」


 此処は暗すぎます。

 眼も悪くなれば気分も沈むばかり。

 なのでいっそ灯りを増やしましょう。


 こうして私は家主の許可も無く邪神の祠を好き勝手模様替えを開始しました。


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