あったかいジャージと手
山原さんからジャージを返してもらったので、謎だと思いながらも自分の席に戻ろうとしたら、山原さんにまた話しかけられた。
「あ、あのさ、今日ね、ジャージのお礼をしたいから一緒に遊んで!」
「あ……うんわかった」
僕はうなずいた。
普通に嬉しい。山原さんとは小学校から一緒だったし、小学生の頃は一緒に遊んだことも結構ある。
久々に遊ぶっていうのもいいかもしれない。
けど、なんかその「お礼に遊んで!」みたいな誘い方が意外だったし、なんか僕とめっちゃ遊びたいみたいだな、と思った。
その作戦って、すごく遊びたい人に使うイメージがあるから。
というか僕が小学生の時そうだった。
まあこれは僕がそういう印象を持っているだけで、普通にただ遊びに誘われたのだろう。
といってもそれでもかなり女子と遊びに行くのは珍しいが。
☆ ○ ☆
そして放課後になって、僕と山原さんは学校から駅の方に向かっていた。
「美味しいアイス売ってる店あるんだ。買ってあげるね」
「あ、ありがとう」
「それにしてもっ……久々だねー、なんか遊ぶの。小学生以来? 二人では絶対小学生以来だよね?」
「そうだな。でも雰囲気が意外と小学生の時のままかも」
「たしかに! 駄菓子屋さんめっちゃ行ってたもんね。今から行くのはアイス」
山原さんが笑った。
ちょっと緊張してたかも、お互いに。
けどだいぶ、小学生の時遊びまくってたノリがでてきた。
「ねえ、小学生のとき、私がめっちゃ教室で大げんかしたの、覚えてる?」
「覚えてるよ。教室から戻れなくなってたもんな。もうみんなと敵対しすぎて」
「うん……あの時、戻ろうって言いに来て迎えに来てくれたのって、新藤くんだったよねーって」
「そうだったな」
「なんかね、別にわたし、わたし変態とかじゃないんだけどね! あの時ほら雨降っててさ、それで新藤くんがジャージ着せてくれたんだよあの時も。なんか今回借りた時も、その時とおんなじ感じがしたの」
「そうか。それは……懐かしいね」
「そうだね。懐かしい」
うなずく山原さん。
いい感じに夕方まで、ほんの少し暑いってくらいの気温だ。
濡れたらジャージを着たくなるけど、アイスも美味しそうなくらい。
「新藤くんに……もう言っちゃおうかな」
「……え?」
「あ、あの、言うっていうか伝えるっていうか、ほんとはね、ジャージのお礼よりも言いたいこととか、あってね」
早口だったけど、最後はゆっくりになった山原さん。
そのままゆっくり続けた。
「私、その、小学生のあの時から新藤くんが……ずっと好きかもってなってて、それで……もう好きに……なりました」
「好き……ってそれは……」
「付き合って欲しいってこと、恋です」
そっか……。それは……。
「アイス食べたい」
「え? な、なんで?」
「ご、ごめん。ちょっとなんか頭が変な思考回路しかつながらなくて」
「え、ふふ。おもしろっ」
「ごめん」
僕は謝る。
けど変なこと言った時の笑顔を見て、あ、僕は好きなんだな、と思った。
もうそれを伝えたくなってたまらなくなるまでは、アイスを置いといて溶けるより早いだろう。
そう思った時、少し風が強くなった。
「うわ、今の風寒くない?」
「そうだね……手貸して」
「え……?」
「僕も、好きだから」
「……うん。じゃあ……」
手を繋いだ。
ああなんというか、隠れた気持ちが後から出て来ることってあるよね。
谷崎から借りたジャージを嬉しそうに着ている山原さんを見てもいいと思わなかったのは、実はジャージが僕のだったからってだけじゃなくて。
山原さんが谷崎のことを好きだったらやだなって思ってたんだ。
そんな気持ちとかを自覚して、だけど今あったかくなるのも自覚した。
手だけなのに、あったかいのはとても不思議だ。ジャージのように全体を包むわけではないけど、あったかいんだもん。
「アイス食べたい」
さっき僕が変なタイミングで言ったその台詞を、山原さんは、とてもあったかそうにつぶやいた。
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