好きな人のジャージを着てみた(山原①)
少し時間が戻った山原さん視点です。
はあ。制服濡れちゃってつらいなあ……そう思っていた私に声をかけてきたのは、谷崎だった。
谷崎は吹奏楽部でも一緒ということで仲良い。でも、なんか両想いの噂がたってるけどそれは違う。
「ジャージあるから、貸そうか?」
「え、いいの?」
とはいえ、谷崎は優しくて、友達の意味ですごく好き。
私は感謝してジャージを受け取った。
「ああ。今日どうせ使わないしな。しかもあれだぞ、新藤から借りてたのだからそれ。新藤に返すときについでにさらっと遊びとかに誘っちゃえよ」
「え! し、新藤くんのなの? ていうか、なんで遊びに誘うことに?」
「え、好きな人を遊びに誘うってやりたいもんじゃないの?」
「……ちょい! な、なんで新藤くんのこと好きって……す、すきだけど知ってるのはどうしてなの⁈」
「え、いやーだって、俺と新藤と山原の三人で帰るときあるじゃん。そういう時とかさ」
「え、ちょっと、どういう感じなのそういう時の私」
「かわいい」
「え、かわいいの?」
「うん、なんか俺にばっかり話しかけてるくせに、新藤に話ふられるとすごい熱弁するディベートやってる人みたいにしゃべる」
「えええ……それ全然可愛くないよ……」
「いやそれがかわいいんだなあ。というか多分新藤はそういうのが好き」
「そうなの?」
「たぶんをつけてるからな」
「違ったら音楽室の掃除当番私の分も変わってね」
「まじかよ。でもそれでも発言撤回はしないわ」
「ふーん。わかった。ありがとう」
私は少し偉そうになってしまった。
そして谷崎と別れる。
……これで雨漏りの被害は和らぐはずで、ジャージは……新藤くんの。
なんか……着れないんですけどなかなか!
いや私が太ってるから着れないとかそういうのじゃなくてね、あれじゃん。そんな好きな人のジャージ勝手に着るのってやばい。
まあ谷崎が貸してくれたとはいえね……。
でもこれ着ないと正直寒いし、制服も透けかけてるので、着るしかない。
よし、着てみた。
やっぱり……思い出しちゃった。
嫌な思い出も一緒だけど、でも新藤くんが素敵だってわかる思い出。
そして……べつに、変態とかそんなわけじゃないんだけど、
「新藤くんのジャージ……なんかいいなあ」
ちっちゃく、感想が声にでた。