クラスの美少女が僕のジャージを着ている
うちの高校の一号館はほんとにボロい。
二号館がかろうじてボロくないので、それと並んでるとすごくボロく見えるし、実際ボロいと、今日改めて実感した。
何が起こったのかといえば、雨漏りが突然始まったのである。
そしてちょうど下にはクラスの美少女として有名な、山原さんがいた。
山原さんの制服は濡れてしまって、正直透けてるかどうかとかよりも可哀想だと思った。
だって雨漏りだもん。
感覚として雨漏りって、ボロい体育倉庫とか、使われてない謎の小さな小屋とか、そういうところで起こるものだと思ってた。
普通に教室で起きるのはやばい気がする。
しかしそんな山原さんは今、とても嬉しそうだ。
美少女かどうかの問題を超越して、女の子が嬉しそうだとすごく可愛いので、僕とかみたいに周りで眺めてた人も嬉しくなった。
で、なんで山原さんが嬉しそうなのかというと、ジャージに着替えられてるからである。
ちなみにそのジャージは、クラス一のイケメンの、谷崎から借りたものだ。
だから、なんとなく付き合うだろうなと予想されかかっていた山原さんと谷崎が、今、結構な接点を持っている状態である。
いいね。平和な感じでみんなが見守る中、谷崎から借りたジャージを嬉しそうに着ている山原さん。
ね。いいよね。
しかし僕はいいとは思わない。
なぜなら……山原さんが着ているジャージは、僕のものだからである。
谷崎に貸しっぱなしになっていたジャージを、谷崎が山原さんに貸したのだ。
いやなんで貸したんだろうねほんとに。
ジャージに名前が縫ってあるのってコストかけてるのにめっちゃダサくていらないと思ってたけど、やっぱりいるじゃんか。
怖いよ。
僕は別に山原さんには何千時間ジャージを着てもらっても構わないけど、僕のジャージだと山原さんが知った瞬間に、脱いで投げ捨てられたりしたら悲しいしそれが怖い。
というわけで僕は我関せずでいく。
多分谷崎が僕から借りっぱなことを忘れて自分のだと思ってるな多分。
まあいいよそれは。だから僕が黙ってればやっぱり平和な雰囲気だな。
というわけでその日は、雨漏りが起こったとは思えないほど穏やかであった。
しかし次の日。
僕は山原さんから呼び出された。
「あ、新藤くん、き、昨日ジャージ借りちゃったから、返すねありがとっ!」
めっちゃ改心した悪ガキのように綺麗に畳まれてる僕のジャージ。
え。
僕のジャージって知ってたんですか?
谷崎は覚えててそれ貸したんですか?
やばい、これは謎が増えてしまった。