1話 黒衣の旋風
ロボットが4車線道路を歩いていた。
その様子を、建物の陰からロボットが観察する。
敵のウォーマシンは重量機、戦いやすい敵だ。
ドイツのメッサー。
8mの巨体で、ドイツ製らしく無駄のない、四角い箱が重なっているかのようなフォルム。分厚い装甲を鋲で繋ぐ厳つい姿をしている。
左手には巨大な盾、右手には銃ではなくメイスを持っている。
重量機、軽量機、中量機と別れている。
重量機は巨大ジェネレーターが積め、破壊力の高い兵器が装備でき、センサー系に優れ、当然丈夫。欠点と言えば足が遅いぐらいだ。
だが、その欠点がすべての利点を打ち消し、台無しにする。
どんなに丈夫な装甲でも、撃たれりゃ大ダメージ。
狙撃銃なら一撃、バズーカでも数発で終わり。手榴弾で半壊、ライフルでも何発も食らえば撃破できる。脚が遅いとは、的になるということ。
それでも重量機がよく選ばれる。
他のゲームと比べ、倒されたら復活はできない。
それが『ミリタリーファイト』だ。
数発銃弾を受けても壊れない、丈夫な重量機を選んでしまう。
そう言うわけで、何度も重量機と戦っている間に、すっかりと戦い慣れてしまった。
巨大な盾、近接用武器だけ。
こちらは軽量機、そのスピードに重量機は追いつけない。
負ける要素はないと、物陰から姿を見せる。
敵は盾を構えた。
フランス製クロエ。
優美なフォルムの機体。5mの、軽量機の中でも最速だ。その分、持てる武器が限られてしまう。
口径88mmのライトマシンガンしかまともに装備できない。その代わり、手榴弾が大量に設置された帯を巻いていた。正規試合ならちょっとした事故で誘爆するかの世があるが、これは簡易ゲーム版、誘爆という設定はない。
ライトマシンガンを撃ちながら横を抜けよう走る。
4車線の広めの道路、さすがにこんな豆鉄砲ではダメージは与えられないだろうが、心理的に盾を構えてしまう。
そうなれば視界が塞がれ、盾の裏に回り込んで手榴弾を投げて終わりだ。自分より巨大な相手に近づく勇気さえあれば、敵じゃない。その勇気が、なかなか難しいのだが。
素早い動きでメッサーに接近、そしてその横を通り抜ける。
違和感、長く好きで遊んでいたゲームだったからこそ感じ取った異質な感覚。
相手の後方にまで駆け抜けたが、盾は変わらずこちらを向いていた。手榴弾を投げ入れる隙など全く無かった。
偶然、じゃない!
じんわりと恐怖が湧き上がってくる。このゲームが好きなのは、相手が弱いからだ。そんなに根を詰めて遊んでいるわけじゃないのに、上位プレイヤーになれた。
だけど・・・初めて強者を前にしている。
足を生かし、すぐさま建物の密集する場所に身を隠す。5mで細身なので隠れることは容易だ。よくやる戦法なのだが、重量機相手には初めてだ。
あべこべに動き回り、道路に目を向けた。動きが捕らえられず、動かずそこにいるはずだ。
「え?」
そこには、いなかった。
その瞬間、激しく衝撃を受け地面に転がっていた。
意味が分からず後ろを振り向くと、暗転した。
loseという赤い文字を見ながら呆然とし、コントローラーを下した。急いでリプレイ機能を使いさっきの試合を見返す。
建物の密集する場所に逃げ込み、その後メッサーの動きだ。
迷わず狭い路地に入って行き、盾を構えて待っていた。
そこに、うろうろしていた自分がやってきた。メッサーは盾でクロエを叩き地面に転がせると、そのままメイスで叩き潰したのだ。重量級の鈍器で軽量級を叩けば、それは一撃で破壊されるだろう。
「こちらの動きが分かっていたってこと?」
意味が分からず呆然とした。
ところ変わって、メッサ―を操っていた人物。
皐月柚子は二本のレバーから手を離し、ヘルメットを外した。
「やっぱレベル低い、練習になんないわ」
後ろに振り返り、テーブルには作りかけのプラモデルに目を向ける。
ウォーマシンのメッサー。正直、素人が適当に作ったような出来だ。
それを手に、カチャカチャと組み合わせようとするが、すぐに集中力が抜けてゲームのレバーに触れてしまう。
「新入部員、入ってもらわないと困るなぁ」
次の試合が始まり、慌ててヘルメットをかぶった。