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強き者


 折角気持ち良く出発しようとしたら。嫌な声が響いた。


「あーいたいた!って誰それ」


 ガルフ・ローゼンタールが馴れ馴れしく近寄ってくる。こっち来んな。

 レオは知り合い?なんて表情をしている。熊って表情豊かなんだな。


「道歩いてたら初対面なのにテント狙いで、無一文なのに宿屋に私のお金で泊まろうとして、憲兵に引き取ってもらった人です。ついでに強引に王都についてこようとしてるのでレオさんを雇いました」


 ノーブレスで一気に説明してやりました。


「ふーん」


 大きな熊の手が頭をワシワシと撫でてくれた。ヤバいレオナルド、熊の癖にトキメク。さっとレオの背後に隠れる。


「この子嫌がってる。お前この世界の人間の評価下げてどうしてくれんの?」

「えっ、いや謝ろうと。そう謝るつもりできたんだけど邪魔すんなよ、獣人の癖に」

「ククッ…ダセー奴」


 レオナルドが嘲笑ってる。それと、レオナルドは獣人という括りらしい。ガルフマジで嫌な奴だな。見下してきたよ、おい。

 昨日反省なんかしなきゃよかった。こいつは完璧に私の中で敵認定しました。


 しかし、本当に強い人って、余裕あるからなのか完璧に相手にもしてなかった。

 ザマァ!思わず、私のヒーローについ抱きついてしまう。レオナルドは不自然に一瞬固まったけど。


「まぁこういうこった。残念だったな、この子は諦めな」

「…クソっ。行こうエリカちゃん!」


 やっと何処かに行った。ホッとしたら力が抜ける。どんな時であれ喰い物にされる悪意を向けられるなんて凄い消耗するんだな。


「…ごめんな。この世界の人間あんな奴らばっかじゃないからさ」


 レオナルドは私を片腕に乗せてくれてゆっくりと歩き出す。


「あ、ありがとうございまずぅ」

「とりあえず落ち着くまで座ってな、ゆっくり行くからさ」

「グズッ…はい…すびばせん…」


 レオナルドの思ったよりゴワゴワの毛皮に抱きついて、緊張の糸が切れたように号泣した。



 レオナルドは号泣してちょっと寝てしまった私を起こさないように歩き進めてくれてまして。目が覚めて、泣いたせいで腫れて土偶の私をそっとしておいてくれた。


 虫の声や獣の声がギャーコギャーコ聞こえる、田舎の長閑なあぜ道で周りは極彩色な雑木林をのんびりと熊に乗って移動する。

 もうすっかりレオナルドに寄りかかって、グダぁてしてても怒らないし最高です。


「起きたか」

「あ、レオありがとう」

「気にするな。そろそろ昼飯にする、いいか?」

「あ、そうだね!」


 ゆっくり降ろされ、レオナルドはあぜ道の横にある派手な雑木林を向くと無造作に腕をひとふりする。瞬間ブアッと物凄い風圧で木が根こそぎなぎ倒された。


 は?


 え?


 開けた空間に乱雑に倒れた紫色した木を軽く持つと紙を割くように真っ二つにしてゆく。

 か、怪力すぎて言葉も出ない。

 ドンッと真っ二つの木でテーブルを拵えると、切り株にそっと私を座らせた。


「結界を掛けるから、少しここで待ってて。大丈夫何かあったら直ぐに戻るから」

「はい」


 し、紳士すぎて心が震える。

 レオナルドがご飯を探しに行ってしまい、私はカバンから携帯食を出してもそもそと食べる。あ、次の村は美味しい保存食を買おう。


 村の泉に落ちてから、今日まであっという間という気がするし逆に長い夢を見ている気分だ。


 ふと、結界の外に小さくて白い獣がちょこんとこちらを見ていた。非常に愛らしくリスのような身体に耳はウサギの様に長い。クンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。

 あ、お目当てはこの携帯食かな。


 結界のギリギリまで近寄ると、携帯食の欠片を…。


「駄目だ」


 音もなく現れたレオナルドが私の右手を掴んだ。

 私の手を握りしめるように守ってくれたせいで、レオナルドの手が少し結界の外に出ている。その結界から少しだけ出たレオナルドの熊の手に無数の白い獣がウゾウゾと齧りついていた。


「ひっ!」


 私はいきなりで声も出ないほど腰を抜かして驚いてしまった。ダラダラと血を流すレオナルドはゆっくり結界に手を戻す。噛みちぎりガチガチと歯を剥き出しにして威嚇する白い獣の口はレオナルドの血で真っ赤だった。


「うわっ!手が、手が血塗れ。そうだ、『治癒』治ってお願い」


 レオナルドの手を掴み必死に治れと祈る。ほわんと光ると徐々に肉が盛り上がり皮膚が塞がり毛が生え揃った。治って良かったと半泣きでレオナルドを見上げると。


 歯を剥き出しにして笑っていた。その凶悪な笑顔はおしっこチビるくらい怖かった…。


「あれは白鰐って呼ばれてる。肉食なんだ、見た目可愛いのを利用して食うんだ人間を」

「そ、そうなんだ。物凄く怖いねアレ。レオは大丈夫?もう痛くない?」

「あぁ傷跡すらないよ、ありがとう」

「いやいや、元々は私のせいだし」

「いや、俺のせいだ。次からは連れて行く」


 ぼふっと大きな熊手で頭をグリグリしてくれた。いや、子供じゃないけど…。物凄くホッとする。血が出た時、心臓が止まるかと思った。なんだろうこれ。


 そう言えば、治癒も注視も昏睡しないけど、何か違いはあるのかな。後でレオナルドに聞いてみようかな。

 そんなレオナルドは山程抱えた果物をわしわしと食べていた。お裾分けでひとつ貰った果実は桃の味がする。


 異世界って怖いけど、レオナルドがいると楽しいなぁ。食べながら呑気に思う。


「元の世界には帰りたくないのか?」


 レオナルドの私への初めての質問が意外とヘビーでした。


「えーと、出来たら帰りたくないかな」

「…珍しいな」

「アハハ、そうだよね。帰りたがるのが、まぁ普通だよね… 上手く言えないんだけど、なんか、家族と反りが合わないんだよね」


 両親がいて私がいて弟がいる、多分傍から見たら幸せな家族だと思う。


 闇は見えないから闇なんだよね。きっと。



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