出会い
風呂と布団は偉大だ。
あんなにささくれていた心が、朝にはふわふわになっていた。野営や野宿なんでは絶対にふわふわにならない。
安心して眠れるってこんなに凄い事だったんだなあ。
起き出して昨日買った服を着てみるとかなり可愛い。少しテンションが上がる。今まで着ていた服をカバンに近づけるとスルリと入ってゆくではないか。これが亜空間収納機能ってやつか凄い。
あの防御テント補充されていた。嬉しい事に小銭入れも中身の金貨が補充されていた。これが自動補充機能のようだ。でも1日1回だけらしい。ま、そうだよね。
それでもお金の心配が減るのはありがたい。
こっちの世界ってチップとか払うのかな?この世界の常識がなくて困る。部屋に置いてあったメモ用紙で折鶴を作りポケットに入れて部屋を出た。
朝食は丸くて小さな焼きたてパンと新鮮なジャムにスクランブルエッグ。頬が落ちるくらい旨かった。
「女将さん、この世界ってチップとか必要なの?」
「お客さん、なんだいチップって?」
「ええと、お世話になりましたって気持ちを、少しのお金を渡す事で表現する?文化です」
「まっさか!そんな裕福な人間ここら辺にいるわけ無いよ。あんたいいとこから来たんだね!」
アハハハと豪快に笑い飛ばしていた。
「なら、これお礼です。昨日はありがとうございました」
「あらあら、凄いよこれ!こんなに凄いの頂いちゃって申し訳ないくらいだわ」
女将さんに折鶴を手渡すと、女将さんはもの凄く喜んでくれた。奥にいる旦那さんを呼び手に乗せて自慢していた。
女将さんのありがとうが、私の心を少し元気にしてくれた。
「あの、聞きたい事が…」
「なんだい?」
「昨日の人達の事もあって、この先ひとりで旅するのが怖いんです。あのここに護衛を紹介してくれる場所ってありますか?」
「あぁ、それなら村の外れの緑屋根の山小家に行くと良いよ。レオって腕の立つ男が何でも屋しているから、聞いてごらん」
「助かります、ありがとうございました」
「こちらこそさね!旅の無事を祈ってるよ」
村の外れに緑屋根の立派な山小屋が建っていた。扉をノックする。
「すみません…あの」
山小屋から出てきたのは2メートル以上ある黒い熊。熊?ゴシゴシと目を擦ったけどどう見ても熊だ。
さすが異世界凄すぎる。
ポカンと見上げていたらしい。熊が咳払いして聞いてきた。
「何か御用かい?お嬢さん」
「く…」
「く?」
熊って言いそうになるのを何とか堪えた。流石に失礼だよね。
「いえ、あの王都に向かってるんですが、隣村まで護衛を探していて」
「隣村までで良いのか?」
「はい。隣村まで行ったらそこでまた護衛を探そうかなと…」
熊が喋った…。しかも滅茶苦茶いい声なんですけど。
「1日、1銀と2銅貨。食事は用意しなくて大丈夫だ、好きな物を取ってくるからな。どこかに泊まるならお嬢さんが俺の分を支払いしてくれ」
「それでお願いします!」
「それじゃ契約書を作るから部屋に上がってくれ」
「あ、はい。お邪魔します」
一応、熊に注視してみた。
『レオナルド・ムールン 何でも屋 レジェンド』
「うわ、凄い…」
「ん?」
「いえ、何でもないです」
「俺はレオナルド、レオって呼んでくれ。これが契約書だ、間違いなかったらサインしてくれ」
「はい、大丈夫です。私は笹書美穂と言います」
「サアサアガアミッファ?」
「ミッファと呼んで下さい。これから宜しくお願いします」
「あぁ、宜しく。すぐ出発するならちょっと待ってもらっていいか?部屋に停止魔法と結界張るからさ」
「はい、どうぞ」
停止魔法や結界を張るとレオの毛皮が金色に光ってそれは綺麗だった。金色の熊ファンタジー感凄い。
いいなあ魔法。私も使えるけど治癒レベル5だしなぁ。
「すみません、さっそく今日の分です」
「あぁ確かに。お待たせ、行こうか」
「はい、お願いします」
しかし、こんな村にレジェンドがいる世界って、もしかしてレジェンドってゴロゴロいるのかな。