遭遇
着の身着のまま、村長から貰ったバッグを肩から斜め掛けしてテントから出ると、テントがいきなり消えてしまった。
「ええ?!消えたし…」
ため息をついて、もう異世界の不思議って事で考えるのはやめる。
辺りは魔獣の気配は全く無い。
日の光に緑が輝いていて夢だったの?と思うくらい長閑なあぜ道を歩く。私は村からどんどん離れる。
村の門はキッチリと閉められ、それが村人達の意思だと思うと泣けてくる。悔しいから後ろは絶対に振り返らない。
気持ちを切り替え歩きながら、これからの事を考える。
とりあえずこのテントがあれば、夜は魔獣に襲われる心配はない。それに、私には注視スキルがある。この世界の情報を集める事が出来るのはラッキーだ。
腹が立つけど兎に角、言われた通りに王都に向って歩くしかないんだと腹を括った。
だから、目につく物に片っ端から注視を使ってみた。
カラナ/木、年2回、食用の実がつく。オネコロ/草、種は飛び跳ね生息域を広げる。ハート/蔓、大木に巻き付き寄生する植物。
最後に自分の持ち物に注視してみた。
カバン/認定冒険者専用アイテム、亜空間収納機能、自動補充機能。
何だかこれ、凄いアイテムだったわ。
馬車なのか敷土には轍が出来ていて、アスファルトに慣れていた私には歩きにくい。運良くスニーカーを履いていて良かったと思うべきか。
チチチチと鳥の声が聞こえる、道の両脇は鬱蒼とした森で間違っても入ろうとは思わない。
さらに気持ち悪い事に、大木の幹や葉が紫と黒の水玉やオレンジにピンクのマーブル模様だったり、兎に角森が派手だった。
「目がチカチカするわ…」
独り言がふえて少し恥ずかしい。
朝から歩きっぱなしで疲れてきたけど、早く次の村なり町に着きたいのが本音だ。
あぁ、タクシーとかバスとか自転車とかが懐かしいよ本当に。
道を進んでいたら人がいた。
第1村人発見なんて浮かれてしまった。だってあの村人以外の初めての遭遇でドキドキする。
が、何か様子が変だ。
数人が道にたむろしているのは何か揉めている。遠くからでよく見えないが女の子が責められているような感じ。
え、強盗とか?
でもよく見れば、身なりは整っている。通り過ぎる為に近寄ると明らかに彼らの空気が悪い。試しに注視をする。
『オガタ・タロウ 勇者 レア』
『ササキ・コノミ 聖女 レア』
『ガルフ・ローゼンタール 聖騎士 スペシャル』
『カトウ・エリカ 魔法使い ノーマル』
『タケモト・テツオ 賢者 レア』
何これ勇者様御一行だわ。勇者とか見ると本当にここは異世界って感じる。
あ、ノーマルの子もいるんだ。5人は通り過ぎる私をじっと見つめている。なんか感じ悪いなこの人達。
突然、話し掛けられた。
「あの、すみません」
「はい?」
「突然ごめんねぇ〜。ねぇ、どこまで行くの?」
ササキという聖女の子だ。ガルフという人物以外は皆高校生くらい。若いな。
「王都です」
「わ、王都だって。良かったじゃん」
「あの?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとこの子も一緒に連れて行ってよ」
この子と前に出されたのは、ノーマル魔法使いのカトウエリカという女の子だ。泣きそうに顔を歪めている。これってどうしたらいいのかな。
「えーと…」
「いきなりであれだけど、ちょっと加藤さん討伐の旅がきつくなったみたいでさぁ。悪いんだけどあんた一緒に王都に連れてってくんない?」
横から勇者が口出ししてきた。
なんだろうこれ、かなり気分悪い。私ずっと苛立っていた、知らない場所に落ちて下心ありありの親切すら手のひら返されて放り出されて。魔獣にはテント襲撃されるし、慣れない場所で歩き疲れて殆ど半分八つ当たりみたいなものだけど。
勇者の誠意の無い頼み方にプツンと切れた。
「私も旅に出て、まだ1日でよくわかってないんで、ごめんなさい無理です」
「え?あんた日本人でしょ?」
何それ笑える。
「それが?」
「え?助け合おうとか思わないわけ?」
「それなら、貴方達は日本人でしかもお仲間なんでしょう?私に言わないで自分達で助け合いなさいよ。
この先、何が起こるかわからないのに。自分の事だけで精一杯です」
大声で、何こいつーとか言われてるけど、私からしたらアンタが何こいつですよ。
「なら僕も行くよ。2人の護衛ってのでどう?」
キラキラした金髪のイケメンがニコニコと話しかけてきた。胡散臭い笑顔が鼻につく。
何か嫌な予感しかしない。ここまでくると、もう彼らの全てが胡散臭く感じて拒否感しかない。
「それなら、その子と2人でいいんじゃないでしょうか?」
「あ、それもそうだね。エリカどう?」
「ローゼンタールさんがいいのなら…」
「なら、決まりだ。呼び止めて悪かったね」
「いいえ、さよなら」
ええ!ガルフが行っちゃうの!なんて聖女の子が騒いでるけど、パーティだと色々と大変なんだろう。私からしたら知ったこっちゃないけど。
他人に対して、挨拶も頼み方も知らない子供には関わり合いたくない。