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襲撃


 2畳程のテントの中でゴロリと横になった。私の知ってるテントとは材質が違っている、ペラペラなナイロン製ではなく、水色の半透明の薄い膜に骨組みには黒い棒、地面の部分は膜が分厚くなっていて思いの外快適に作られている。よく出来てるなこのテント。


 もう、ここまで来たら開き直るしかない。

 テントでゴロゴロしながら、スキル一覧が載っている表を見る。ズラリと並んだスキル名の中に赤い文字で治癒と表示されてる。


 あぁ私が覚えてるやつだ。


 他はズラッと黒文字で色々と書かれてる。下の方に青文字のスキル名があった。


 『注視』と『おみくじ』だ、なんとなく声に出してみた。パアッと2回体が光り、注視とおみくじを覚えてしまったみたいだ。青文字は赤文字に変わっている。

 なにこれ、声に出さなかったらずっと未習得だったってこと?

 村の皆の何も教えてくれなかった度合いが酷い。


 注視はなんとなく役に立ちそうだけど、おみくじってどうなの?

 治癒と違って曖昧というかよくわからないな。まあ、試してみるしかないか。


『おみくじ』


 ひらっと、何もない所から走り書きされたメモが落ちてくる。体からごっそり何かが抜けた感じがしてくらりと目眩がする。横になっていて良かったよ、これ。


 倒れた顔の前にメモ書きが落ちた。


『凶。運命の相手と出会う』

 

 え?運命の相手が凶なの?どゆこと。

 疑問を抱えたまま気が遠くなった。



 ◇◇◇◇


『…のせいで、また交通事故おきたみたいよ』

『は?なんで私のせいなの?』

『アハハ!ムキになっておっかしいー』


 あ、ヤバい。

 久しぶりに子供の頃の夢を見ている。嫌な汗が吹き出すのがわかる。黒い2つの影が私を嘲笑っている。大嫌いな人間が私の心を腐らせる。


 2つの笑い声は甲高くなって、最後には獣の唸り声に変わってゆく。

 なんでこいつらは、自分以外の人の気持ちにこんなに鈍感でいられるんだろう。

 その癖、自分が傷つけられるとさも被害者ぶって延々と垂れ流す。


 獣の唸り声はすぐ近くで聞こえた。


 汗びっしょりで飛び起きると、辺りは暗くそしてグルリと魔獣に囲まれている。

 なにこれ、私にどうしろっていうわけ?治癒なんかじゃ戦えるわけないじゃん。


 絶望の中、私はテントの中で震える。

 その時、一際大きく魔獣が咆哮した。



 

 大きな咆哮が開始の合図のように、テントをぐるりと取り囲んだ魔獣達は、一斉にテントに向かって飛び掛かってきた。

 もう駄目だ!テントの真ん中で咄嗟に体を丸めて頭を抱える。

 噛み殺されるならすぐに絶命してしまいたい。本気でそう願った。


 ガンッ!キャイン!

 ガンッ、ガンッ、ドサッ!キャインキャイン!


 …え?


 恐る恐る頭をあげて様子を見れば、半透明のテントは魔獣の牙も通さず、体当たりすら弾き返している。


 …助かったの?


 うろうろとテントの周りを彷徨く魔獣達、暗闇の中に魔獣の目が赤く光り、その数の多さに鳥肌が止まらない。

 魔獣は諦めずに何度もぶつかってくる。悔しそうに咆哮を上げ苛立ちテントに齧りつき前足でガリガリと穴を開けようとする。その度に意思と関係なく体は恐怖でビクつく。


 怖い、恐ろしい、殺意、恐怖、怖いよ、誰か、助けて、なんで?なんで私がこんな目に?

 

 ガンッガンッ!ドサッ。

 パタタタタ。

 ガリガリガリ。

 グルルル。


 怖くて怖くて気が狂いそうだ。気絶した方が楽かもしれないのに意識がないまま自分の最後を迎えるなんて嫌だと心が叫ぶ。

 魔獣が体当たりを止め、今度はテントを押し潰そうと多くの魔獣が飛び跳ね真上から落ちてくる。


 震えながら、この揺れもしないテントに疑問を持つ。丈夫に越したことはないけど、これ異常じゃない?

 思いついたままテントに注視と呟いた。


『テント/素材・ブルースライム・黒リジアの髭/特殊効果・防御結界で魔獣の侵入を防ぐ』


 結界、そんなのがあるんだ。

 助かる。そう思うとガチガチだった体の強張りが緩み魔獣達の襲撃音が遠く聞こえる。

 極度の緊張から解き放たれ意識が遠くなった。

 










 眩しい…光が溢れている。

 無事に朝を迎えていた。

 魔獣達の気配もなくて、恐る恐るテントの外に出てみた。地面にはいたる所に魔獣の足跡や跳ね返された痕もあってゾッとする。


 何も知らないまま放り出された。

 あの村の人達は私がどうなっても構わないんだ。


 改めてこの世界を恐ろしいと思った。






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