旅の始まり
「君はレアでもないし、早く独り立ちして貰えて助かったよ。君がいると次の人が来ないからね。それじゃ元気でな!」
今さっき村長に言われた事が、頭の中で何度もリフレインする。
村は魔獣対策で高い塀と結界に守られていて、唯一出入り出来るのは今目の前で閉められた門だけ。
は?
早く独り立ちも何も、ひたすらヒールさせられて気絶するように寝た数日、こっちの常識も何も知らないんですけど。
暫く放心状態だったけど、慌てて肩掛けバッグの中身を確認する。
ギルド登録用紙1枚。
転移者の手引き(小冊子)。
スキル一覧。
組み立て式テント。
簡易食料1日分。
黒い小銭入れ、中には金貨が1枚。
脱力してヘナヘナとその場に座り込む。
たったこれだけのアイテムで場所もよくわからない王都へ行けと追い出されてしまった。
なんか、人生終わった気がする。
いや、この世界に落ちた時点である意味詰んでるけどさ。これはないわ。
ため息をついて、手に触れたテントを出してみる。
どんな仕組みか分からないけれど、テントを取り出した瞬間に勝手に膨らみ、あっという間に2畳程のテントがそこに設置されてた。
勝手にテントが出来上がっちゃった訳で。
しょぼくれてそのままテントの中に入る、村のすぐ外だけど構うもんか。本音は村の誰かが心配して中に入れてくれるかなって。
そんな甘い考えは、転移者の手引きを読んだら吹き飛んだ。
転移者の手引きには、転移者はランクが存在しており『レジェンド』、『スペシャル』、『レア』、『ノーマル』、『クリア』に分類されるそうだ。
あ、察し。
簡単な確認方法は水晶の色と輝き具合であると書いている。
どうやら最初に触った水晶が判定道具だったようだ。そういや、おばちゃんがニコニコしながら渡してきたっけ。
次に転移者を保護して一定のレベルに達した者を旅立ちさせると、国から保護の謝礼が振り込まれると書かれていた。
ふーん。
村の人達があんなに親切にしてくれていたのに、手のひら返して村から叩き出されたのも、全部謝礼目当てだったようだ。
ちょっと目から水が出たけど気にしない。絶対に気にするもんか!
最初に声を掛けてくれたおばちゃんも、慣れない村で心細い私に声を掛けてくれた少女達も、重い荷物を持ってくれた青年も、皆下心ありだったんだ。
そんな風に思ってしまうと心の中がドロドロしたもので溢れてしまった。
ちくしょう。
私が何したって言うんだよ!
神様のバカ野郎!