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過去


 両親がいて私がいて弟がいる、多分傍から見たら幸せな家族、見えていない闇に私は落ちた。


「えっと、あんまり楽しい話じゃないけど聞いてくれる?」

「あぁ」



 うちの家はさ、私が物心つく頃には、母親が私よりも弟と気が合うみたいで、よく質の悪い冗談で私を悪者にしてからかってくるんだよね。

 中にはそれ本気で言ってる?って本人の頭を心配する様な事も平気で言ってくるし。


 他の人からしたら、そんな事気にしすぎじゃない?って思うかもしれないけど。


 四六時中、何かあったら私のせい。

 テレビで芸能人が死んだらお姉ちゃんのせい。

 お姉ちゃんが昨日悪い事したから飛行機が落ちたね。

 今日雨なのもお姉ちゃんのせい。

 弟が悪戯して私の大切な人形が壊れても、そんな所に置いておくお姉ちゃんが悪い。

 押入れの奥にしまっていたのにだよ?


 なんでも、かんでも、お姉ちゃんが悪いよねと、声を揃えてニコニコと笑顔で言う二人。

 いちいち怒って私のせいじゃないとムキになると益々楽しそうに笑い転げる母と弟。

 それが毎日。正直、気が狂いそうになったよ。


 全てにおいて母と弟はそんな感じで、ある日見兼ねた父がさ、美穂を悪者にするのは止めないかと諌めてくれたんだ。


 二人とも、冗談なのにとキョトンとしていた。


 冗談なら私には何を言ってもいいんだって。

 有り得ないよね。無自覚の悪意、自分の娘を笑いながら悪者にする神経。

 家族なのに。

 子供の頃は滅茶苦茶辛くて悲しくて本当に自分が全て悪いのかも知れないと思った時もあったけど。


 小学生の高学年にもなれば、嫌いを通り越して全ての事に無関心になっちゃって。

 学校の先生なんかは結構心配してくれたんだけど。家の気持ち悪い部分とか言いたくなくて黙ってたんだ。


 それでも、嫌な事言われるの判ってたら避ける話な訳で。必然的に母と弟との接点も極力無くしたんだ。

 朝は挨拶だけ、学校から帰ってきたら机に向かって勉強して。夕飯もすめば直ぐに自分の部屋に籠もりっきり。

 家族で旅行なにそれ?

 行きたかったら行けばいい。


 私がそんな態度を取る様になってから、あんなに仲が良かったのに最近冷たいと母が拗ねるの、笑っちゃうよね。


「仲が良いのは弟だけじゃん。何言ってんの?大丈夫?」


 真剣に母を心配すると。


「お姉ちゃんはママの事嫌いなの?」


 なんて、真顔で今更な事を聞いてきたから。


「は?子供の頃から私を悪者にして笑うあんたら大嫌い通りこして呆れてたよ?

 今は関わり合いたくもないからあんまり話しかけないでよ」


 なんて言えば、泣きそうな顔をして被害者ぶるのが兎に角気持ち悪くて。

 仕方ないからスマホで撮っておいた家族の風景を流すと、これは家族内のコミュニケーションで美穂を悪者にしてたつもりは無いとか言い出して。


「いや、毒親でOーチューブにアップしてるから、反響凄いよ。良かったね」


 途端に真っ青になって怒り出してさ。吃驚するよね?散々私には、悪意をぶつけておいて。  

 何でそんなの流すのとか、毒親ってどういう事よとか。これが、すごい剣幕なんだ。

 あれって図星指されて逆上してたんだなって思う。


「自分が悪者にされるのは嫌なのに、よく平気で自分の娘を悪者に出来るよね?

 人が嫌がる事はしちゃいけないって知らないの?私は子供の頃から物凄く嫌だった」


 母親はようやく黙った。

 その日の夜に父からOーチューブにアップしてるのかと尋ねられ、本当はアップしてなかったけど、そうだよと答えると思いっきり殴られた。家族の恥を晒してとかどうとか言ってたけど。


 私が殴られた時の二人の顔。

 

 あれを見て、もうそのまま近所の交番に駆け込んだからその後の事は知らないんだ。

 殴られ顔を腫らした私を見て児童養護施設へ連れて行かれた。




「そのまま施設で暮らして、高校生卒業したら直ぐに働いたから。だから待っててくれる人なんて向こうに誰も居ないんだ」


 私なんかよりもっと悲惨な子供時代を送ってる子もいた。それでも私は人間に対してあまりいい感情はない。

 レオナルドの外見が熊だからついつい警戒心が湧かなくて色々と話しちゃたけど。

 急にこんなの聞かせられたらドン引きするよね。


 でも、一言。


「そうか…辛かったな」


 ぐぅと奥歯を噛み締めて言う熊。

 レオナルドお前良い奴だな。


 私はこそっと服の袖で涙を拭いた。



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