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鹿騎士と狼商人の願い

 結局、あのあともねだられて断る間もなく2回踊り、「本当にもう勘弁してくれ」とアリアナが懇願すると、ヴォルフはやっと手を離してくれた。

 いやもしかすると、こちらのお願いを聞いてくれたというわけではないのかもしれない…。アスガルズの社交界は、同じ相手と4回以上連続で踊ることを不文律で禁止しているから。


 早くも満身創痍となってしまったアリアナは、ヴォルフと共にダンスホールから1度離れた。




(ああ、くそ……あんな体たらくを晒してしまうなんて……)


 と、アリアナは歩きながら落ち込む。

 ダンス中、酩酊──または船酔い──したように前後不覚に陥ったのが恐ろしくて、自分はヴォルフに縋り付くばかりになっていた。


 そのような振る舞いは、今日という日にふさわしくない……だって、今夜掲げた目標───「ヴォルフの対等な相棒として、その役目を果たすこと」───に、全く即していないではないか!!


 アリアナは、思わず頭を抱えたくなった。

 「ヴォルフに見合う婚約(けいやく)相手でいる」……そのために今日己に課した任務は、下記の3点である。


 1.ヴォルフを悪意から守ること。

 2.完璧な淑女に徹すること。

 3.出来る限り多くの貴族と顔見知りになること。


 「この3点をこなせれば、少なくとも『ヴォルフの夢に役立てる婚約者』と言って良いだろう」……と、アリアナは考えていた。



 なのに、それを果たせているとは言えない今の状況に、焦りは募るばかりである……。


(何をやってるんだ、私は…。…あんなダンスじゃ、練習に付き合ってくれたハルたちにも申し訳が立たない………)



 そう悶々としている内、だんだんと怒りが沸き上がってきた。隣のいやに上機嫌な婚約者殿に、だ。


(…こちらは今日、君の隣に立つために一生懸命頑張ろうとしているのに!)


 1曲目の時点で、「調子が良くないようだ」とヴォルフは察してくれていたはず………なのに、全然ダンスを止めてくれなかった!


「……ヴォルフ!」

「うん??何??」

「さっきのダンスだが……、」

「ああ、練習のときより上手く行ったよな。ホッとしたよ」

「!?」


(何……?!?!)


 驚いて、アリアナは足を止める。その感想には同意しかねたのだ。


「優しい嘘を吐くのは止せ!君、ず――っと私をフォローしてくれていただろう?あれじゃあとても協力出来ていたとは言えないよ。


───いや。…それどころか君は、私が使い物にならなくなるよう仕向けていた!」



 「どういうつもりだ?」と、アリアナはヴォルフを問い詰める。

 最初の1曲目だけなら露知らず、彼は最後の1曲、終わりの1音に至るまで、丁重にリード(指示)を行ったのである。それはもう、どう考えたってやり過ぎな程に。───おかげさまで、こちらはどうにかなりそうだった!!


「『使い物にならない』??お前が??」

「そうだよ…!」


 アリアナは眉を寄せる。ヴォルフはどうしてあんなことをしたのだろう??



(まさか……。もう、契約の継続に見切りをつけてしまったとか………??)



 すると、ヴォルフがふっと吹き出した。


「違うよ、リア。ホントに練習より良くなってた。嘘じゃないよ」

「…………」

「睨むなって…。…そんなに信じられない??」

「…………当たり前だろう。…私のヘマで、君に迷惑をかけていた。それは間違いないはずなんだから」


 そう言うと、ヴォルフが片眉を上げる。


「『迷惑』だって?そんなことない。お前が任せてくれて、俺は嬉しかったよ」

「?!」


 言われ、アリアナは目を丸くした。

 経緯はどうであれ自分は、ダンス中に考えることを放棄してしまったのだ。

 よもやそんな無責任な行いを、「嬉しい」だなんて受け取り方をされるとは、思ってもみなかったのである。


「~~~君…っ、…人がよすぎるよ!」

「ふはっ!…よりによって、お前にそんなこと言われるとはな」


 と、ヴォルフが笑い、その後「うーん……」と考え込んだ。どうやら、この入れ違いを紐解くために、分かりやすい言葉を模索してくれているらしい。少しして、ヴォルフは口を開いた。


「…何て言うかさ、練習のときは『一対一』って雰囲気だったろ?


でも、今日のはもっとこう……『一心同体』って感じだった」


「!…。……そ、う…なのか??」


「うん。『同じ音楽を聴いて、同じリズムに乗れてるな』っていう感覚。わかんなかった?」


「………………………」


 聞かれて、アリアナは眉をひそめる。

 ダンス中の感覚を思い起こそうと、努力してみた──……が、それは徒労に終わってしまう。



「………分からないよ。だって、君でいっぱいだった」



 そう答えると、ヴォルフがほんの少しだけ目を見開いた。その後「ふーん……?」と言って、魅惑的な微笑みを浮かべる。



「……またいっぱいにして良い??…3曲分くらい」



 そう伺いを立てられて、アリアナは首を横に振る。


「だめに決まってるだろう」

「なんで。あのイメージで踊れたなら、誰にも『下手』だなんて言わせない──それにたぶん、こっちのほうがアハルティカの求めてた理想(ダンス)に近いはずなんだ。

なあ。お前だってほんとは、そこまで悪くなかっただろ?」


 アリアナは悩む。共に踊っていた相手がそうまで言ってくれるなら、おそらく「練習中より良くなっていた」という言葉も嘘ではないのだろう。

 ───「迷惑じゃない」、と言ってくれたのも。


(………だけど………)


 考え込んで考え込んで……、アリアナはパッ!と閃いた。


「……分かった!じゃあ今度からは手袋を着けてくれ!持ってきてるだろう?」

「??ああ。まぁ、あるけど…。ぁ…悪い、手汗が気になったか??」


 と、ヴォルフが気遣わしげに眉を寄せる。アリアナはあわてて否定した。


「!いや、違うんだ。そうじゃなくて───、」


 と、必死に言葉を紡ぐ……「ヴォルフを気に病ませたくない」。その一心だった。


「これについては、把握していなかった私が悪いんだけど……どうやら私は、背中が弱いみたいなんだ」

「『弱い』?」


 聞き返されて、アリアナはこっくりと頷く。



「君に触れられていると変にゾクゾクしてしまって、集中出来ないんだよ…。おかしいだろう??」


「!…」



 そう言うと、ヴォルフがフイとほんの一瞬だけ、極わずかに顔の向きを変えた。


「…………へぇ~…」

「でもきっと、布を1枚挟めばマシになるはずなんだ。また踊るつもりなら、次からはそうしてくれ」


 と、アリアナは要請したが、対するヴォルフはどこ吹く風だ。


「───あ、見ろ!あっちで食べ物配ってるみたいだ。行ってみようぜ」


 と、藪から棒に提案してくる始末である。視線の向かう先は玉座のあるホール。そこにはテーブルいっぱいに軽食が並べられていた。


「待て、君。話はまだ終わっていないぞ!」


 ……とは言え、王宮の食事を頂くのは久しぶりだ。興味がそそられるのは事実だった。

 アリアナはむっすりとした表情を崩さないよう気を付けながら、その提案を受け入れたのである。




「この子羊の肉、めちゃくちゃ旨いぞリア」

「本当だ!でも、<R's>の料理ほどでは無い…かな?」

「言えてる」


 ガッついているように見られないよう気を遣いながら思い思いに料理を摘まむ。

 そんな2人の背後から声が掛かった。


「やあ。君達も来ているなんて驚いたな」

「フェルビークしょ…ベルガレット卿…!?

まさかいらしているとは…ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ありません…!」


 いつもはカッチリと後ろに流している黒髪。それを垂らして、緩く後ろで結んでいるだけだからか、正装であるにも関わらず「いつもよりラフだ」と感じさせるこの男性──フェルビーク第2小隊長の登場に、アリアナは目を丸くして驚いた。瞬発的に敬礼しそうになったのを、根性で押し止める。

 代わりにしなくてはならないのは、貴族としての挨拶だ………フェルビーク侯爵家の次男である、ベルガレットに対しての。


 ────スッ、とアリアナは膝を曲げる。


 マーメイド型のドレスで行うカーテシー。

 間違っても裾を踏まないよう気を付けながら、マクホーン伯爵家長女として、アリアナはそれをキチンとこなしてみせた。鍛え上げられた体幹は、決まりきった所作をより美しく魅せる。


 それを受けたベルガレットはさっくり紳士の礼を返した後、口をへし曲げて笑った。


「父が風邪で寝込んだらしくてね。兄はそのしわ寄せ業務をこなすのに忙しいらしいから、仕方なくこっちの代打を引き受けたのさ。

ちょうど王に、妻の出産報告もしなくてはならなかったし…。…まあ、社交はただのついでだ。別に挨拶なんて気にしなくていいよ」

「いえ、そのようなわけには……。

ああ、紹介します。彼が私の婚約者、ヴォルフ・マーナガラムです。

ヴォルフ、この方はベルガレット・ティアチ・フェルビーク様」


 紹介をすると、ヴォルフはサッと礼を取った。それはまるで、小さな頃より習慣化されていたと思わせるほど、流麗なものであった。


「お初にお目にかかります、ベルガレット卿。

私は商人をしております、ヴォルフ・マーナガラムと申します。

婚約者共々、どうぞよろしくお願いいたします」


 ピクリ、とベルガレットの眉が引き攣る。そして、口が真一文字に引き結ばれた。


 アリアナはそれを見て、体を緊張させてしまう。


 彼は、普段から平民出身の騎士達とも分け隔て無く交流しているのだ───だから、ヴォルフにだってすぐに挨拶を返してくれる、と。そう思っていたのに。


 アリアナが思わず正した背。それに気づいたベルガレットが、目を閉じ舌でゆっくり自身の前歯をなぞった。


 そうしてから、ニッコリと微笑む。


()()()()()。フェルビーク侯爵家、次男のベルガレットだ。本日は侯爵代理として出席している。

仲間の婚約者と顔見知りになれて嬉しいよ。こちらこそ、よろしく頼む。


…そうだな、商人ということだが、何を売ってる?

ちょうど、妻と生まれたばかりの息子にぴったりの贈り物が欲しかったんだ。あちらで詳しく話を聞かせてくれないか?」


「ええ、もちろんです」


 途端に、周りが小さくざわめき始めた。にこやかに挨拶を交わし合ってくれたヴォルフたちに、胸を撫で下ろす間もない。


 どうやら、色恋にめっきり縁がないことで通っていたはずの自分が、突然に異性を──それもこんなに美しいひとを──引き連れてきたものだから、舞踏会の参加者たちは、ずっとこちらを気にしていたらしかった。

 故に、先のやり取りもばっちり聞かれていたようで。


 ─「なんだと?あの男が婚約者?アリアナ譲の?」。

 ─「どうやら庶民のようですよ、汚らわしい…」。

 ─「いやしかし、ベルガレット卿と親しげだぞ。マクホーン伯爵以外にも後ろ楯がいるのか……」。



 その波紋が、じわじわと会場全体へ広がっていく。


 アリアナはそれを敏感に感じ取っていた。まだ「好奇」が多数の段階で、「悪意」の数は多くない。…と思う。


(『色々な方にヴォルフを紹介できれば』、と思っていたけれど……。この様子じゃ、私が連れ回すとかえって悪目立ちさせてしまうかもしれないな……)


 ヴォルフは素晴らしい紳士の振る舞いが出来るのだから、1人で行動した方がうまくやるかもしれない………。

 パッと見、彼は異国からやってきた上級貴族である。だったらそれを利として、ヴォルフ自身に活かしてもらった方が良いのかもしれない。自分じゃ『素性を濁す』ことが騙しているようで心苦しく、もし興味津々な参加者らに何かを問われても、「自慢の婚約者で商人です!」としか伝えられそうもなかった。


(私は、ヴォルフを彼程巧くは紹介出来ない………)


 そのことに気が付き、「どうしたものか」と考え込んだ時だった。

 玉座から続く、挨拶待ちの行列。その進み具合を測っていたヴォルフが、こちらに振り向いた。


「リア。どうやら国王への挨拶までもう少し時間があるようだから、俺はベルガレット卿とお話してくるよ。リアはどうする?」

「ええと…そうだな、じゃあ私は一旦ダンスホールへ戻るよ。ユーストスが心配だ」


 アリアナは頷く。ヴォルフとベルガレットの間にパイプが出来るのは、あらゆる面で良いことであると理解していたし、小隊長にならヴォルフを任せて安心だと思った。何しろ彼は、貴族社会に対してずっと付かず離れずの距離感を保ってきた、その道の玄人だから。培われたバランス感覚は、今夜のヴォルフに悪くは作用しないはずだ。

 アリアナはおとなしく、席を外すことにした。


「分かった。じゃあ送る」


 と言ったヴォルフが、エスコートのために手を握ってくれる。アリアナ達はもう一度ベルガレットへ挨拶し、その場を離れたのだった。



◇◇◇



 ヴォルフはちゃっかりアリアナを、ご令嬢方が集まっていて、かつ異性の目に付きづらいところへ誘導した。……そうしたって、彼女の美しさは埋もれないのだから困りものだ。


「じゃあ行ってくる。また迎えにくるから、なるべくこの辺にいてくれよ」


 アリアナへ向き合い、ヴォルフはそう念を押しておいた。


「ああ……」

「…リア?」


 返ってきた生返事に、ヴォルフは首を傾げる。

 ……どうしたのだろうか?ちょっと独占欲が分かりやす過ぎただろうか───そのように懸念したが、どうやら違うようだ。


 ヴォルフは少し前屈みになって、アリアナの顔を覗きこんだ。



「………。」

「………。」



 最初に焦り始めたのはアリアナだった。

 「まずい」。と、そう思っているのが見え見えの態度で、目をきょろきょろさせる。

 これが「答えを聞くまでは離れない」、という沈黙であることを察したらしい。


「ヴォ、ヴォルフ??…その、ほら……。小隊長を待たせているから……!」

「……………」

「……………」

「……………」

「………あの…、」


 ぶんぶん、とアリアナが手を解こうとする。けれど、それは吸い付いたみたいにして離れなかった。というか、離してやる気がない。


(………なんだ……?)


 ヴォルフは、アリアナの違和感に眉をしかめる。

 自分はただ、「迎えに来るから待っててくれ」と伝えただけだ。それが、どうしてこんなにも彼女を動揺させてしまうのだろう??


 「場所が悪かったのか?」と、ヴォルフは辺りを見渡してみた。

 …よく見るとここは、踊り疲れたご令嬢達の休憩所みたいになっているらしい。ちょうど手持ち無沙汰なのだろう、幾人もの令嬢がこちらを窺っていた。

 アリアナに向けられている視線の中、自分への視線も混じっていることに、ヴォルフは気がつく。そのどれもが、熱っぽくまとわりつくようだった。


 恋愛対象として見られることに慣れすぎているので、特に驚きもない…。どうやら、まだこちらのホールにまでは、「自分が商人である」ということが伝わっていないらしかった。それを聞き付ければ、貴族のご令嬢など一瞬にして自分から興味を失くすだろう。ややこしいことにはならないはずだ。



 …と、ヴォルフは考えていたのだけれど。

 対するアリアナは、全く正反対のことを考えていた。



 「きっとどんな情報だって、ヴォルフの人を惹き付ける魅力の前には無力だ」───、と。


 ──「だからこの手を離してしまい、彼が1人で歩いたなら、いよいよ女性から声を掛けられまくってしまうに違いない。どうして、そのことに思い至らなかったのか…!」──。



「………っ」

「?」


 詰まるところ、ヴォルフとアリアナでは、価値観が違い過ぎていた。だから、アリアナが何に気づいて、何を不安がっているのか、ヴォルフには分かり得なかったのだ。


「……リア?」

「ええと。…………その。お願いが、あって……」


 「なんだ、言ってみろ」と、ヴォルフが片眉を引き上げ、無言で続きを促す。


 アリアナが、ギュ……ッと手を握り返してきて、ヴォルフはどきりとした。


「………」


(……離したいのか、離したくないのか。どっちなんだ──)


 そう思って、ヴォルフは握られた手に力を込める。……出来るなら、後者が良い。




「────……私を、見ていて……」




 それはひどくか細げで、絞り出すように紡がれた言葉だった。自らが発したくせに、アリアナがハッ!!として、口を噤む。


「………!!…ち。違うんだ!すまない、君の社交を邪魔したい訳じゃなくて……!!」


「………はあ………」


 と、ヴォルフは思わずため息を漏らしてしまった。アリアナがびくりと肩を震わせる。


「あ、その」

「お前なぁ。…馬鹿なこと言うなよ?」


 と、ヴォルフは自分の腰に手を当てて言う。


 間違ってもアリアナは、これだけしか広さのない会場で、迷子を心配されるような歳ではない。壁なんて皆無の、広大で複雑な森や雪原なんかを目印もなく駆け回ることが出来る一流の騎士であることを、ヴォルフは知っている。


(じゃあ、何で今さらそんなことを俺に願うのか?…その意図は分からないが──、)


 ヴォルフはアリアナの、剣を握りすぎて表面が少し硬くなっている手を、優しく包み込んだ。




「最初からお前のことしか、見えてない」




(……これだけは、確か)



「…!」


 途端、きらりとアリアナの瞳が輝く。

 「両耳に下がった宝石よりも綺麗だ」──と、ヴォルフは頭の端で考えた。



 ……出会った時から。


 ────いや、見合いの話が出た時から。



(困ったことに、俺はずーっとお前だけだ。リア)


「まさか、知らなかった?」

「…知らなかった、よ」

「そうかい。じゃあよーく覚えとけ。これは俺からのお願いだ」

「……うん。ありがとう……」


 顔を綻ばせ、心底嬉しそうにアリアナが感謝してくれるせいで、ヴォルフは焦れったい気持ちになる。


(…落ち着け)


 自分とアリアナとでは、相手の見方が全然違うのだ。だから、こちらが彼女を「1人の女性として()()()()」だなんて、思いもしていない…。………この「ありがとう」は、そういう意味での答えじゃないのだ。


「…………」


 ということが分かっていても、可愛すぎて1人残していくのが嫌になる。もうひとつ願いを言えるなら、そんな顔を他のヤツにはしないでほしい。


(…………なんて、な)


 ヴォルフは惜しく思いながらも、こちらから手を離してやった。


「……ああ、あと。余計なトラブルに首を突っ込むんじゃないぞ。今日は『騎士』じゃなくゲストとして来てるんだからな」

「分かったよ」

「じゃあ、行ってくる。───また後でな」

「うん!行ってらっしゃい」


 先程までの煮え切らなかった態度はどこへやら。随分と澄みきった送り出しをされ、ヴォルフは人に見られないようくすり、と笑った。



 それにしても、「見ていて欲しい」だなんて控えめなお願いを、よく言えたものだ………。


 もう既に、握っていた手の感触が恋しいというのに。





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