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第9話 奴らは厨二ーズ

 何気ない調子で、環は教室内を見回した。


「何やらわたくしたち、クラスメイトの皆さんから生暖かい目で見られているような?」


『あー……』


 そんな環の言葉に、庸一と光は大層微妙な顔となる。


「ま、前世だの何だのを公言しておればそうもなろうというものじゃの」


 一人、黒だけは涼しい顔だ。


「去年、光が記憶を取り戻した時にも散々騒いだからなぁ……主に、黒を討つだの討たないだので。入学したてだったし、あれで大体俺らのポジション決まった感があったよな」


「わ、私のせいだって言うのか!? 仕方ないじゃないか、相手は魔王だぞ!?」


「言うて、妾的にはその時点で今更じゃったがの。前世云々は、昔っからヨーイチの持ちネタじゃったし。中学で一緒だった面子もそれなりにウチに進学しとるし、ぶっちゃけ天ケ谷がやらかしとらんかったとて状況はあんま変わらんかったじゃろ」


「持ちネタ言うなよ……」


「やらかしって言わないでくれないか……」


 黒の物言いに対して、乾いた笑みを浮かべる庸一と光。


 庸一は、それを苦笑に変えて環へと向けた。


「まぁそんなわけで、俺らのあだ名はもっぱら『厨二ーズ』だ。たぶんもう、お前も同類だと見なされてると思う。悪いな、俺らの積み重ねのせいで」


「別段、謝っていただくことなど何もありませんわ。有象無象にどう思われたところで、わたくしの価値が揺らぐことなどありませんもの」


「ははっ、変わらないなお前は」


 言葉通り何の痛痒も感じていなさそうな環に、庸一は懐かしげに笑う。


「むしろ、兄様と同じカテゴリに分類されることに喜びを感じていますわ! 兄様、もっと一緒になりましょう! 心も身体も一つに! そして、行く行くは住む家も名字もお墓も全て同じに! いえ、死んでからもずっと一緒ですわ! わたくしなら、死後に魂を一つに統合する術を見つけることもきっと不可能ではありません! そうなれば死が二人を分かつことすらなく、永久に一緒です! あぁ、なんて素敵なのでしょう! そのためならば、何人の魂を犠牲にしようが構いませんわ!」


「ははっ、変わらないなお前は」


 乙女な顔で悪役としか思えない台詞を吐き出す環に、庸一は全く同じ表情と言葉で返す。


「君、なかなかのスルースキルだな……」


「伊達に前世で十五年以上も一緒に過ごしてねぇよ」


 光のコメントを受け、庸一の笑みが再び少し乾いたものに。


「ちゅーか魂ノ井のことに限らず、割とヨーイチは普段からそういうとこがあるよの。面倒なことがあると適当にスルーしがちっちゅーか」


「あぁ、まぁ、確かにな」


 黒の言葉に、光も頷いた。


「そうか?」


 あまり自覚のなかった庸一は、軽く首を傾げる。


「くふふ……じゃがそんな面倒くさがりな男が、困っておる者を前にすれば面倒事に自ら首を突っ込んでいくんじゃからの」


「ふっ、そうだな」


 黒が楽しげに笑い、光も小さく微笑んだ。


「……そうか?」


 やはり思い当たる節がなく、今度は首を逆側に傾ける庸一。

 二人の目に宿る愛おしげな色にも、全く気付いていない。


 反面。


「ん? 環、どうかしたか?」


 環の表情に生じた僅かな変化には、敏感に反応した。


「いえ、その……」


 少しだけ、躊躇する雰囲気を挟んだ後。


「……お二人は、兄様のことをよくご存じなのだなと。そう、思いまして」


 抑揚の少ないトーンで答える環。


「? まぁ、それなりの付き合いにはなるからな」


 発言の意図がよくわからず、庸一は疑問符混じりに言葉を返す。


「これは早急に手を打つ必要がありそうですわね……」


 庸一の話を聞いているのかいないのか、ブツブツと呟く環に。


(なんか、あんまいい予感はしねぇな……)


 前世で十五年以上も一緒に過ごしてきた経験から、そう思う庸一であった。

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