表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/120

第41話 庸一の女とは誰なのか問題、そして

 アニキの女が攫われた。

 世紀末的価値観男がもたらしたのは、そんな情報だった。


 それに対して。


「ヨーイチの女なら、ここにおるが? とはいえ、その言い方は不敬であるな。正確には、ヨーイチが妾の男なのじゃ」


 黒が、そんな言葉と共に胸を張る。


「あっあっ、わ、私も、ここにいるが……? その、私は、庸一の女、って言われ方も……その、どちらかと言えば好き……かな……所有物にしてほしい欲というか、へへ……」


 次いで慌てて黒に対抗した感満載な感じで光が続くが、後半はほとんど消え入りそうな程に声が小さくなっていたため単にニマニマと笑って何かを呟いているだけの怪しい女状態になっていた。


「いや、そうじゃなくて……! あの、一番正統派の美少女って感じの方ッス!」


『はぁん!?』


 世紀末的価値観男の言葉を受けて、二人のこめかみにビキビキツと血管が浮かぶ。


「貴様、その腐った目を暗養寺特製の義眼に替えてやろうか? さすれば、妾こそが正統派の美少女であるという正確な情報を脳の奥底まで刻みつけることが出来るであろう」


「君なぁ、環の言動をちゃんと精査してから発言しろ! そうすれば魔王はともかくとして、私の方が正統派寄りだってわかるから!」


「おっとぅ? 喧嘩を売っとるのかえ? 今なら特価で買ってやるぞ?」


「いや、流石に君はゲテモノ系であることを自覚した方がいいんじゃないか……?」


「誰がゲテモノじゃ、このポンコツめ」


「くっ……本当のことだからこそ言っていいことと悪いことがあるだろう!?」


「あ、流石に自覚しとったか……それはまぁ、すまぬ……」


「普通に謝られると余計に傷付くんだが!?」


 世紀末的価値観男への抗議が光と黒の争いに発展し、瞬く間に収束した。


「……って、なに呑気に話してんスか!? 一人の女性がピンチに陥ってるんスよ!?」


 世紀末的価値観に憧れる男が唯一正論っぽいことを口にしているというこの構図である。


「うーん……まぁ普通に環のことを言ってるんだろうけど……不意打ちでもない限り遅れを取るとは思えないし、死霊術師の見る世界って独特だからこの世界の人間が不意打ち可能とも思えないんだよなぁ……」


「設定の話はともかくとして、アヤツの危機察知能力と格闘能力はなぜか幼少の頃より数多の護身術の訓練を受けてきた妾より上じゃからな……流石に、そこらの不良が銃火器まで持ち出してきたわけでもあるまい?」


 光と黒は、そもそも彼の話に懐疑的な様子であった。


「いや、マジなんスよ! ウチの高校の中でも特にヤバい奴らがバイクで連れ去るのを見たんス! 奴ら最近めちゃくちゃいっぱい仲間を集めてて、なんかヤーさんとの繋がりとかもあるとかで、マジヤベェんスよ!」


「人違いとかじゃなくて?」


「あんな美人、見間違えないスて!」


「まぁ仮にそれが事実じゃとして、状況が見えんな。気絶させられとったとか、縛られとったとか、そういうことか?」


「え? いや、普通に起きてましたし縛られたりもしてなかったと思うスけど……」


「なら、普通に自身の意思で付いていっただけなんじゃないかえ?」


「それはそれで、環らしくない行動にも思えるが……」


「まぁそうじゃが……」


 と、そこで。


 ようやく、庸一の脳が落ち着きを取り戻し始(・・・・・・・・・・)めた(・・)


 ここで一番やってはいけないことは、考え無しに動いて事態を悪化させることだ。

 ゆえに、クールにならねばならない。


「光、黒」


 庸一としては、穏やかに呼びかけたつもりである。


「今はそんなこと、どうでもいいだろう?」


 にも拘らず。


「まずは、環の安全を確認することが最優先だ」


『っ……!?』


 振り返ってきた彼女たちの顔色がサッと変わったのは、なぜなのだろう。


「よ、庸一……? 落ち着け。環のことだ、無事に決まってる」


「俺は落ち着いている。落ち着いた上で、環の安全を確認することが最優先だ」


「お主……えぇから、一回深呼吸してみ? のぅ?」


「必要ない。それより、環の安全を確認することが最優先だ」


 なぜか(・・・)心配げな彼女たちに普通に(・・・)返し、庸一は世紀末的価値観男のバイクを立て直す。


「なぁ、世紀末の人」


「あ、俺ッスか? あっ、じゃなくて……ヒャッハー! 俺のことかー!?」


「今そういうのいいから」


「あっ、はい……サーセン……」


 何やらビクッとしている世紀末的価値観男には構わず、バイクに跨った。


 エンジンは、かかったままだ。


「乗ってくれ」


「え? あの、ていうかそれ、俺のバイク……」


「知らせに来てくれたこと、心から感謝する」


「あっはい……! 俺、アニキに負けてからアニキみたいな男になりてぇと思ってて……! なのに今回、ただ見てることしか出来なかったことが悔しくて……!」


「いや、今そういうのもいいから」


「あっ、はい……サーセン……」


「いいから、乗ってくれ。んで、案内してくれ。環を攫った奴らの溜まり場、心当たりあるんだろ?」


「はぁ、まぁ、ありますけど……えっ、あの、援軍とか……あとそれ、俺のバイク……」


「いいから、乗ってくれ。安心しろ、場所さえわかればアンタは適当なとこで降ろすから」


「そういうことを言ってるわけじゃ……」


「いいから、早く乗れ。マジで早く乗れ。一秒たりとて時間を無駄にするな」


「は、はいッス……!」


 またもビクッとなった世紀末的価値観男が後ろに乗ったところで、アクセルを捻る。


 勢いよく発進し、瞬く間にスピードを上げていくバイク。


「ちょ、アニキ、メットはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「大丈夫だ、安全運転で行く」


「そういう問題じゃない上に既にあんま安全じゃない気がするんスけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」



   ◆   ◆   ◆



 そんな会話が、ドップラー効果を伴って遠ざかっていく。


「……お主、どう思う?」


 それを見送ることしばし、黒が光の方を振り返った。


「うーん……どう考えても、この世界に環を害せる人間がそうそういるとは思えないんだけどなぁ……ワンチャンあるとしたら、他にも転生者がいる可能性か……? でも前世の世界でも、環の戦闘力はトップレベルだからなぁ……」


「いや、じゃから設定の話はえぇわい」


「え? なんだって?」


「なんでそこだけ聞こえないんじゃい!?」


 コテンと首を傾ける光に、黒が吠える。


「ま、まぁそれはともかく……そうじゃなくて、ヨーイチの方がじゃよ」


「あー……初めて見たな、庸一のあんなに切羽詰まった表情。前世での最期の時は、逆にもう達観した感じだったし」


 そう言ってから、光はハッとした表情に。


「っ……さては君、『妾は散々見てきたけどな』とか言ってマウントを取ってくる気だな……!?」


「……いや」


 黒は、ゆっくりと首を横に振る。


「妾も初めてじゃよ、ヨーイチのあのような姿を見るのは」


 庸一たちが走り去った先を見つめる目は、どこか遠くを見ているようものであった。


「流石に、少々妬かざるをえんのぅ……」


「……だな」


 二人、しみじみとした調子で会話を交わす。


「もっとも? 妾は今まで、自分がガチのピンチになぞ陥らんよう上手く立ち回ってきたからの。妾が同じ状況になれば、ヨーイチは同じく必死になって助けに来るであろう」


「そ、それは私だってそうだし!」


「いやぁ、お主は普段から脳筋っぽさを誇示しておるしのぅ……」


「脳筋っぽさを誇示しているつもりなんて欠片もないんだが!?」


 今度は光の方が、黒に向かって吠えた。


「ま、そんなことはどうでもよくてじゃな」


「どうでもいいことで、いちいち私を傷つけるのはやめてもらえないだろうか……」


「それより、妾たちも行くぞ」


「ん? 庸一たちを追いかけるってことか……? だけど、移動手段もなければ目的地だってわからないだろう?」


「くふふ、妾を誰じゃと思うておる?」


 ニッと笑って、黒は自身のスマートフォンを取り出し操作する。


「妾じゃ。至急、足を用意せよ。それから、ヨーイチに付けとる発信機からの位置情報を随時伝えるように」


「君、なんか今サラッとヤバいことを言わなかったか……? あっ、もしかしてさっき合流する時に庸一の居場所が最初からわかってる風だったのもそれか……!?」

安心してください、本作は『ラブコメ』ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ