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第11話 たぶん、アレ

 血涙を流さんばかりに悔しがる環の鬼気迫る表情に、ササッと周囲のクラスメイトたちが距離を取る中。


「わたくしも、負けていられませんわ!」


 環はすぐに表情を改め、ピュンと庸一の元に駆け寄っていった。


「兄様兄様! ほらこれ、わたくしのブロマイドですのよ! 女子の方々の抱き込みに失敗した場合は男子の皆さんにこれを渡して懐柔するつもりでしたの!」


 もはや策略を隠そうともせず、環は写真を取り出しながら庸一と黒との間に割り込む。


「……いや、全部ピンボケしてんじゃん」


 一枚たりともまともに写っていない写真を眺めて、庸一は素直に見たままの感想を口にする。


「わたくし、写真撮影の時だけはブレますので」


「写真写り下手かよ」


 先日と、ほぼ同じやりとり。


「それに、男性の方に鮮明な写真を渡すなんて抵抗感がありますもの」


「それで懐柔するするつもりだったのか……」


 とはいえピンボケ状態でもなぜだか妙な魅力を持つ写真となっており、そこそこ効果を発揮しそうなのが恐ろしいところであった。


「あっ、もちろん兄様は別ですわよ? わたくしにだってちゃんと写っている写真はありますし、兄様が望まれるのであれば何枚でも鮮明なものを差し上げますわ! なんだったら、水着……いえ、ヌードだって構いませんのよ!」


「いや、そういうのは別にいいわ」


「あまりに淡白な反応過ぎませんこと!?」


 完全に素で返した庸一に、環が思わずといった感じで叫ぶ。


「あぁでも、子供の頃の写真とかは見てみたいかも。お前がこの世界でどんな風に成長してきたのか、興味あるんだよな。前世と同じなのか、違うのか」


「あら、それならウチにありますけれど……見にいらっしゃいます?」


 今度は、環が素の調子でそう返してきた。


「そうだな……今度、家の人の都合がいい時に行ってもいいか?」


「えぇ、もちろん」


 スムーズに約束が取り付けられる。


 とそこで、環が突如ハッとした表情を浮かべて上半身ごと顔を逸らした。


「こ、これはもしや千載一遇のチャンスなのでは……!? わたくしの部屋に兄様が……何も起こらないはずもなく……既成事実……! 今度こそ既成事実ガチを……!」


 なんて、環がブツブツと呟いていたところ。


「あのー、魂ノ井さんっているかな?」


 廊下から、そんな声が投げかけられた。


 庸一含めクラスの半数くらいが声の方に目を向け、女子の数人から黄色い声が上がる。


 声の主は、背の高い優男であった。

 他クラスなので庸一は名前まで覚えてはいなかったが、確か同学年でバスケ部のエースだとか聞いたことがある。

 あまり噂の類に精通していない庸一の元にまで、彼がよくモテるという話は届いていた。


「おい、環。呼ばれてるぞ?」


 なんとなく『用件』を察しながら、庸一は環の肩を叩く。

 未だブツブツ呟いている真っ最中で、廊下から声をかけられたことにも気付いていなさそうだったためだ。


「はい、兄様! 何の御用でしょう!?」


 露骨に邪なことを考えていた顔をパッと笑みに変え、環が庸一の方へと振り返った。


「いや、俺じゃなくてあっちの人が」


 親指で、廊下の方を指す。


 すると、環はそちらに目を向け……自分を呼んでいるという存在を認めると。


「……はい。何の御用でしょう」


 すっと感情が抜け落ちたかのように、無表情となった。


 つい先程までの愛嬌もある雰囲気は完全に消え去り、『冷たい美少女』の顔が現れる。


「魂ノ井さん、ちょっと話があるんだけど来てもらっていいかな?」


 優男は爽やかな笑顔で、半身を引いてここから離れる意思を示した。


「……承知致しました」


 チラリと庸一へと目を向けた後、環は彼の元に向かう。


 そして、二人は連れ立って歩いていった。


「アレかのぅ?」


「アレだろうな」


 それを見送りながら、黒と光が適当な調子で会話を交わす。


「……アレか」


 それに相槌を打ちながらも、庸一は思案顔を浮かべていた。

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