9話 図書館
P.M 14 : 21
一通りの作業が終わり、商人はお得意様との取引があるとのことで、私は残りの時間好きに使っていいことになった。
「じゃあ私は行ってくるから。何か困ったことがあったりしたらそのメティアスに連絡しなさい。」
「わかった。帰るときには連絡する。」
商人はそのまま、荷馬車と一緒にどこかへ行ってしまった。
しばらくの間その後ろ姿を見ていたが、すぐに歩き出した。
(さて……図書館にでも行こうかな。)
まだ読みかけの本があるが、それも今日のうちに読みきってしまうほどしか残っていない。
それに…
(夢の花だっけ…それも読んでみたいし。)
あわよくば作者に会ってみたい。そんな気持ちもあり、図書館までの足取りはとても軽かった。
ーーー
自分の国にあったものより大きく、ますます楽しみになった。
館内にはちらほらと人がいるものの、大きさに比べると随分と少ない。
入り口付近にあるパソコンで目的の本を調べ、本を持って窓辺の一番日当たりのいい席に座った。
本の表紙は青色の…ハスの花と思われしき花と題名、作者の名前以外は何も書いていなかった。
どんな内容の本なのだろうか。ワクワクしながら読み始めた。
ーーー
読めば読むほどパージをめくる手が止まらなくなった。
話の内容はこうだ。
想像力が人より少し高いだけで、そのほかはてんでダメな少年がいた。
彼はゲームクリエイターになりたかったが、親や教師からは
『そんなのできるわけないだろ。』
『もっと現実を見なさい。』
『夢ばっかり見てないで、まずは成績をどうにかしないか?』
と、否定ばかりされる。
そんな彼の唯一の楽しみはゲームだけだった。
友達もいないので、休みの日なんかはほぼずっとゲームをしていた。
ある日、久々に外に出た。
ゲーム屋に行くと、見たことがないゲームが1つ、ポツンと置いてあったもんだから気になって手にとってみる。
題名は『夢の花』
戦闘システムがないRPGだった。
少年はストーリー重視で戦闘がないゲームはやってこなかったので気になって、買うことに決めた。
レジに持っていくと、店員は不思議そうな顔をしていたが、少年は気にも留めなかった。
早く家に帰ってやりたい。そんな気持ちで頭がいっぱいだったのだ。
家に帰り、早速ゲームを始めようと、スタート画面まで進めると突然、画面がまばゆい光を放ち始めたのだ。
次に目を開けたとき、少年はゲームの世界にいて、登場キャラクターたちはみんなコンプレックスや辛い過去を持っているものばかり。
皆が一概に、なんでも願いが叶う花を探しているというものだった。
今アリシアが読んでいるところはちょうど、少年が自分も花を探すことに決めたシーンだった。
いつの間にか、図書館にいた人々は皆いなくなっていて、アリシアがページをめくる音だけが聞こえていた。