15話 法律の国
翌日、商人は私を連れて西の門へと向かっていった。
多分、次の街に行くのだろう。滞在期間は3日と、東の門番に言っていた。
「次はどんな国に向かうの?その国には何があるの?今度は何日間くらい滞在するの?」
「そんな質問ばかりしなくてもいいだろう?国に行くのはただ仕事をするためだけなんだ。そこに住むわけでもないしね。あと、質問は1つずつにしてくれないか?」
商人に注意されてしまったが、それでもアリシアは反省しなかった。
確かにいっぺんに質問したことは、ちょっと悪いと思っているが仕方がない。だってきになるものがあるのだから。
(それに、つまらない大人の考え方を押し付けようとする人には従いたくないもの。考え方を変えてくれないと一生このくせは直さないもんね!)
アリシアは強情だった。しかしまぁ……たまには自分の好かない相手の言うことでも素直に聞いたほうがいいと思うが、彼女はそうは思わないようだった。
そのためか、アリシアには今でもたくさんの癖が残っている。悪癖からちょっと変わった癖まで、種類豊富だ。
「まあそこらへんはいいとして…君はこれでも読んでいなさい。分厚い本だから読み終わるのに数日は要するだろう。」
(あ……無視された。)
さらっと質問を流されてしまったが、半強制的に押し付けられた本と、後ろの荷台に行けという仕草で、ここは一旦引き下がったほうがいいかもしれないなと思った。
(最悪、渡されたメティアスで調べればいいだけだし。)
昨日のうちにメティアスの操作法について聞いておいたのだ。
商人専用のメティアスは商人組合と連絡を取るための機能や、商人の掟についてまとめられたメモが元から内蔵されている以外、通常のメティアスとなんら変わりはないらしい。
アリシアはガタゴトと揺れる馬車の中器用に後ろの荷台へと移り、商人から渡されたマニュアル本を読んでいるふりをして、調べ物をしていた。
ーーー
馬車に揺られるのにも慣れ難なく本を読めるようにもなった頃、揺れが止まり、話し声が聞こえて来た。
国についたのだろう。さしずめ、今は検問と滞在期間を聞いているのだろう。
しかしそんなことはどうでもいい。アリシアが求めているのは経験だ。
現地に行ってみたことがない景色を見るもよし、物語の主人公を通して、現実ではあり得ない出来事を体験することもできる。
昔、このようなことを言った人がいたらしい
『私の冗談一つにも金貨一杯の袋がかかっている。』
この人は作家だったそうだ。
しかも、今でも著作が残されている。古い本は大多数が絶版されてしまった中でも今日この時まで残る大作をかけたのも、やはりたくさんの経験を積んだからなのだろう。
アリシアはこの人のようになりたいと思っている。だからこそ経験を求めるのだ。
マニュアルの原本を何十回も読み返す暇などないのだ。
その暇があるのだったらまだ見ぬ新たな場所へ行きたい。
「アリシア、法律の国についたよ。」
「はーい。」
新たな国の名は法律の国というらしい。
どうにも堅苦しそうだ。自分には合わなさそうだな。と、アリシアは独り言ちした。




