ニセモノの告白
木枯らしが吹いた。寒い。おしるこでも呑みたい気分だ。
フゥと息をついても、まだ雪色には染まらない。純粋に風が強いから、実際よりも寒いと感じるのだ。
まだ、来ないかな。
待ち合わせ場所として選んだ駅前のベンチで、少年は待っていた。
手袋、ジャンパー、マフラー、寒さを凌ぐ三種の神器。それらは待つ人を温める為に灯る火のよう。
それから幾度時計の針が動いただろう。
時間と共に少年は表情を変えた。最初はどこかそわそわしていて、次第にイライラして、そう思ったら不安げになる。
決められた時間に彼女が来ないから、イライラして、事故にあったのか心配でそわそわして、場所を間違えたのかと浮足立ち、スマホを見てはため息を付く。
サァー……とまた風が吹いた。
少年は肩を震わせると、重石を乗せたように沈んだ面持ちで、駅の構内に入っていった。
▽
赤い。
電気ストーブの中は休むことなく仮初の炎を燃やす。たとえ、本物の炎じゃなくても部屋を温めるそれは、どこか誇らしげだった。
家のリビングの電気ストーブを少年は独り占めしていた。
一時間早く待ちあわせ場所に来て、身体を震わせた。それから、三時間がたっても、ついぞ待ち人の少女は来ない。
顔は酷く冷たいのに、手だけは温かい。
あの感触が、物悲しい。
スマホのアプリケーションから送られた言葉、用事が出来たのごめんなさい。絵文字と顔文字を含んだそれに、嘲る彼女の顔を見た。
付き合って下さい。
茜色の夕陽を背に一昨日、告白を受けた。
冷え切るばかりの人生にようやく春を迎えたか。と少年は誰も居ない場所で小躍りした。だが、自分のことを好きだと彼女は言っただろうか。赤に染まる頬、夕陽が見せたそれは魔法。
誰かと付き合うことは、こんなにも苦しいものなのか。
どこまでも部屋を暖めるストーブは、冷えた心まで暖めてくれないのだと知った。
▽
学校の玄関は騒がしい。
登校してくる生徒に、寒空の下朝の部活を終えた生徒、友達を見つけたのか馬鹿騒ぎしてる生徒もいる。それを注意する教師達……。
そこに混じる暗い面差し。人生初のデートで相手が現れなかった少年だ。
一夜、夜を明かしたところで、昨日の出来事が夢になる訳はなくて、気持ちが上向くこともない。ただ、今が桜の咲く季節ではなかったのだと誰にでもなくいい訳を立てる。
ウサギと亀の競走の亀みたいにのろのろ上履きを投げ下ろす。すると、後ろからチッ……と舌打ちと睨みの視線。いつもなら申し訳なく思う場面なのに、今は無性に腹が立った。
しかし、やつあたりする度胸もなくて、一言心にもないことを言って頭を下げる。
それから教室前まで重い足を叱りつけ歩いた。
いつもと同じ教室の筈なのに深海のように深く息苦しい。空気に溺れそうだ。
彼女は……、と少年は探すがどうやらまだ来て居ないようだ。いないことが分かり安心した。
そして、少年は眠くない身体で机に張り付く。
いつもと変わらない灰色の青春。
▽
人生は廻っている独楽みたいなものだ。他の独楽に惹かれて触れると、弾かれ、身を削り、勢いを殺される。結局のところ、誰にも触れずに、ずっと、ずっと、独りで廻った方が楽でいい。変化なんて無くていいのだ。
机に伏している少年の顔、ふと横に目を向けると彼女がいた。
改めて見るまでもなく、不釣り合いだった。いつも独りでいる少年と、いつも人に囲まれ笑う彼女。勉強も運動も優れていない少年と、文武両道の彼女。
あの告白は、きっと幻。
彼女が少年に気に掛ける様子はなかった。
なにか言おうと思ったが、勇気も時間もなかった。
朝のホームルームを知らせるチャイムは、煩わしさを少年に教えた。




