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第3話『浸食者』

 深夜の特別授業と称して行われる依頼の数々。今回の依頼はエリア21のB地区と呼ばれる廃墟の街に現れた侵食者達の救助及び討伐だ。


 月明かりがさびれた廃墟の街を照らしている。


「このイタチごっこもいつまで続くのかね? 侵食者を始末する為に呪歌使いが送り込まれるなんてな」


 気軽な調子でそうつぶやく瀧本。


「リミットを見失えば、また一人侵食者が増えるだけよ」


 水沢はつまらなそうに淡々と口にした。


「そうなれば、依頼が増えて儲かるだけ」


 侵食者を狩る側の呪歌使いが侵食者になるなんて話はありきたり過ぎる。


「ほんと、いい性格してんな?」


 瀧本が僕の方を向きながら苦笑している。


「おしゃべりはここまでのようね」


 水沢が冷静な声音でそう言った。


 荒廃したひらけた土地に二人の少女の姿が見える。月明かりが彼女達の細長い影を作り出している。

 その細長い影を連れて、二人の少女がこちらに向かってくる。その速度から、身体強化系の呪歌を使っているのは間違いない。しかし、侵食されている割には呪歌の効きが弱いな。資質もないのだろうが、おそらくは侵食段階がファーストフェイズなのだろう。


「プレイリスト」


 水沢が右耳の魔導音響変換器を起動した。


「水流操作、再生」


 続けざまに呪歌を再生する水沢。


 彼女の言葉をきっかけに、せき止められていた水が溢れだすような勢いで水沢の周囲に大量の水が出現し、空中に漂っている。


「まだ、ファーストフェイズだ。今ならまだ間に合う」


 僕は水沢へと語りかける。


「あら、意外と優しいのね?」


 含みのある言い方で水沢が問い返してくる。


「依頼内容は救助と討伐だ。まだ間に合う侵食者は助けるのが筋だろ」


「まぁ、そうかもね」


 水沢は短く返事をすると、自らが操る大量の水を向かってくる少女2人に浴びせた。


「氷結操作、再生」


 すぐさま次の呪歌に切り替える水沢。

 敵の少女2人にかかった水が瞬く間に凍りつき彼女達の動きを止めた。


「な、役に立つだろ?」


 何故だか、得意げな表情で瀧本がそう言った。


「まぁ、呪歌の切り替えは、はやいな。それより、こいつら死んでないだろうな?」


 氷づけになった少女2人を指差して僕は言った。


「ファーストフェイズなら、氷が溶ける頃には意識が戻る」


 興味がなさそうに淡々と語る水沢。


「また、お客さんだ」


 瀧本はそう言って、遠くに視線をやる。

 その視線の先を追うと1人の青年の姿が見えた。


「あれは、もう無理ね。音漏れがひどいもの」


 冷たく言い放つ水沢。

 

「あぁ、サードフェイズだな」


 無理をすれば引き戻せないこともないが、僕はまだ死ぬわけにはいかない。それに、しくじれば、ファイナルフェイズまで侵食が進む。そうなれば、この人数で相手取るのは厳しい。


「じゃあ、次は俺の番かな? 気配遮断、再生」


 軽い調子で瀧本が言った。

 すると、先ほどまでヘラヘラしていた瀧本の姿が消えた。


 数秒後、こちらに向かってきていた青年の首が落ちた。


「サードフェイズの割には、弱過ぎだな」


 一振りで、ナイフにこびりついた血を落としながら、何の気なしに瀧本が言った。


「そうね、瀧本に瞬殺されるなんて、弛んでるわね」


 感情のわかりにくい表情で、水沢が言った。


「おいおい、お前の首も落としておくか?」


 売り言葉に買い言葉とはこのことだな。


「君たち、少しは協調性を持てよ」


 まったく、見るに耐えない。


『お前には言われたくない!!』


 つい先程まで揉めていた2人とは思えない程に、瀧本と水沢の声が綺麗にシンクロした。

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